夢のあと(短編集)
公衆電話から愛の言葉を
「あー、もしもし蛍?」
「沢木?」
「あのさ、俺、」
「ちょっと待って、携帯は?」
「忘れた。たぶん充電器にまだ刺さってる、と思う」
「うん、あったよ。……で?届けたほうがいいよね」
「あー、実は今外に出てて」
「いいよ、別に。それとも研究室に持ってったほうが」
「う、わちょっと待て!十円がねー!十円、十円、」
「沢木、百円玉」
「あ」
「……で?どうするの」
「悪いから研究室でいいぞ」
「じゃあなんでほっといたまま出てったわけ」
「へ」
「文句のひとつくらい言ってやろうって思ってるうちに起きるタイミング逃しちゃったし。しかも朝ご飯も食べないで。言ってくれれば昨日の残りくらい出したのに」
「……すみませんでした」
「で、朝ご飯は?」
「コンビニで、おにぎりを少々」
「じゃあ、まあいいや。携帯そこまで届けにいくから」
「だからいいって」
「住所は?」
「……えっとだな、東京都新宿区……」