夢のあと(短編集)
君の名前を僕にください
例えば指輪などはどうだろう。彼は似合わないといってアクセサリーの類を身に着けないのだけれど、でもきちんと似合うものを選んで上げる。いっそオーダーメイドでもいい。だってあれはお金をかけるだけの価値があるものなんだし。僕が考えているのは無論沢木のことだった。それしか考えられなかった。もしも口に出したとして、彼はどんな顔をするんだろう。頬を赤らめる?それともすっかり青くなってしまう?もしかしたら、もしかしたら涙を流してくれさえするかもしれない。震える声で彼が紡ぐ返事――そんな、非生産的な想像は止まらない。分かっているのだ。今まで男同士は普通しないことをいくつもやってきた僕だけれども、セックスをする前も、キスをする前も、抱き締める前も、不自然だとは、するべきではないとは誰よりもよく分かっていた。けれど誰も僕を止めたりなどしなかった。たぶん誰かに男同士ではなにもできないと罵ってもらえば僕の目は覚めるのだろうけれど、誰も今更叱ってくれなどしなかった。セックスをしたときも、キスをしたときも、抱き締めたときも、好きになったときも然り。だから、君に指輪を。