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【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】

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6.ヤドリギ




気が付いたのは、病院のベッドの中だった。

真っ白な天井に、赤い光。
それが夕陽が差し込んでいるのだと気付いて帝人がゆっくりと顔を向ければ、カーテンを少し開いて外を覗く田中トムの姿があった。
帝人とトムが2人でいることは今までほとんどなかった。
もう1人いるはずの姿を探して周囲を見渡そうとして、急激に鋭い痛みが走る。

「お、起きたか」
「…トムさん。静雄さんは?」

目が覚めてすぐに静雄の安否を心配する帝人に、トムは少し驚いてから、すぐに目を細めて笑った。
そんなふうに心配してくれる相手が後輩に出来て嬉しかったのだ。

「アイツなら、警察で事情聴取うけてるよ。でも問題ないから心配ねーべ。静雄も血だらけで骨折4ヵ所して倒れったし、おめーは刺されて倒れてっし、あれは完全に正当防衛だ」

そういわれて、帝人はようやくどうしてこんな怪我をしているのか、自分が病院にいるのかを思い出す。
でも結局、何がどうなってこの結果に落ち着いたのかが分からない。正当防衛と言うより過剰防衛にしか思えない暴力を思い出して一瞬、体が震える。

「それに、相手の連中も真っ当なヤツラじゃなかったみてーだし」

その口調からすると、どうやら死人は出ていなかったようだ。
絶対に数人は死んでいたと思っていたが、さすがの静雄さんもそこはセーブ出来ていたということなんだろうか。

「どうやって、ここに?」

少し掠れていがらっぽい喉に咳き込みながらトムを見上げる。
トムはカーテンを閉めて椅子に腰掛けると、ストロータイプのドリンクタンブラーを差し出して来た。飲め、ということらしい。中身は少しとろみのあるお茶だった。

「うちの事務所に伝言かけて来やがった内容を、事務員が静雄が電話して伝えちまってな。そのまま走り出して行っちまったんだが、俺は1回事務所に戻ってから、通報してサツと一緒にお前らがいた倉庫に向かったんよ」

静雄が暴力を振るっていることを承知の上での通報だ。
さすがにキレた静雄を一般人では抑えられないと思っての行動だったのだろう。

「で、そのまま全員が病院送りになったわけだが」

お茶をむせることなく飲んだ帝人からタンブラーを受け取り、トムはくしゃりと帝人の頭を撫でた。
普段は静雄がよくしてくる、そのくすぐったい感触に帝人は気恥ずかしくて目を閉じかける。
しかし、その手の向こうに見えたトムの目が少しも笑っていないことに気付いて、閉じかけた目を勢いよくこじ開けた。こんな真剣な表情をしたこの人を見たことがなかったのだ。
職業柄、怖い一面もあるのだろうかと思っていた人の、その一部が垣間見える。

「な、竜ヶ峰」
「…はい」
「俺にも、聞きたいことあんだけど、今聞いてもかまわねーか?」
「はい」

普段、人のよさそうないい加減な笑顔ばかりを浮かべていたこの人が、まるで違う人に見えた。
でもそれはけして、帝人に恐怖を与えるものではなく、真剣に心配しているような、不信感を抱いているような視線だ。

「あのとき、何があったの?」

それは、聞くことなんだろうか。現場を見れば一目瞭然な気がするけれど。
きっとそういう意味ではないのだろう。
質問の意味を掴み取れずに、帝人は視線を返す。

「…俺とサツが倉庫にたどり着いた時には、倉庫の中にいたヤツはお前と静雄も含めて、全員が気を失ってた。まぁそりゃー、ひでー状態だったし、相当な喧嘩があったのはわかったんだが」
「静雄さんは、僕を人質にされて無抵抗に殴られて」
「ああ、それは知ってる、静雄からも聞いた。そうじゃねーべ」

トムはゆっくりと頭をふってから、もう1度帝人を見る。

「静雄に聞いたら、完全にキレちまって何人か殺したかと思ったらしい。でもなんでか急に、全身から力が抜けて、気が付いたら俺らに救助されてたんだと。向こうさんもそうだ」

殺していた、帝人もてっきりそうだと思っていた。
先に受けていた怪我で力が抜けて、普段の強さが半減していたのだろうか。
帝人だったら死んでいそうな怪我を負っていたのだから、途中で気を失うのも無理は無い。というか、あの状態でそこまで動けていたことが、改めて思い返してみれば驚異的だった。

「そんで、チンピラの連中が、全員、静雄に対して過剰防衛の被害届けも何も出さないって。それどころかお前と静雄の治療費も持つって、謝罪した」

…あの人たち、が?
全員が何らかの武器を持って静雄さんを殴り倒し、その後、それよりこっぴどく殴り倒され、というか吹き飛ばされる光景がフラッシュバックする。
いまいち、理解がついていけない。帝人は寝起きの頭の中をぐるぐると混乱させた。

「でよ。全員が、口をそろえて言うんだと。『手を出してはイケナイモノを傷つけた気がする』」

んで、とトムは目線を天井に向けた。

「あの倉庫で、気を失う直前に『天使を見た』、んだと。全員が、静雄まで言いやがる」