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【DRRR】 emperor Ⅱ【パラレル】

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そして、僕はここへやって来た。

「代表取締役の○○さんをお願いしたいのですが」

幽に教わった青いテーブルの受付には、少し神経質そうな女性が1人座っていた。
後ろを見れば離れた場所に表の正面玄関があり、人の気配や会話が聞こえてくるのに、ここだけはパーテーションで区切られて何だか違う空気感を漂わせている。

「アポイントメントはお取り戴いておりますか?」

明らかに不信感を見せる受付嬢は、帝人の頭から足までを見てから尋ねる。
臨也の用意した服は、自分とのコントラストを付けるためか、彼の理想とする天使に近づけたかったのか、ふんわりとした素材の真っ白のシャツに真っ白のズボン、靴まで真っ白で、ある種異様な格好である。
有名な高級ブランドで取り揃えられているため、舞台や撮影用の衣装だと言われれば、この社内でも通用できそうなものだが。

「何の約束もしていないんです。でも会うことが出来ないか訊いてみて下さいませんか?」
「アポイントメントがない場合、申し訳ありませんが連絡、面会ともできない決まりとなっております。ご用向きは何でしょうか?場合によりまして、担当者とお取次ぎいたします」

あくまでも丁寧に、かつ事務的に告げられる。
やはりこのような強い音楽が溢れている場所やそれに慣れた人のところまで来ると、道端で声をかけた男女のように話しかけるだけでは、無条件に優しくなるほどの効果は得られないようだ。
さすがに無理だろうか。そう思いながら、少しだけカウンターに身を乗り出した。

「………”エンペラー”が来た、……とお伝え下さい」

『懇願』。あまり感情が乗せられなかった気がする。
本当は会いたくなどないのだ。幼い頃の記憶を拾い集めてみれば、ただのトラウマの塊でしかない。
それでも今は、そうするしか考えられないのだ。

「え、”エンペラー”ですか?」

先ほどまで硬く張り付いたような笑顔をしていた女性は、何度か瞬きをしてからすぐに受話器を掴み、そうしてボタンを押す前にもう1度帝人を振り返って聞きなおした。
どうやらその声も、その内容も、効果はあったらしい。
帝人が黙って頷けば、受付嬢は素早く内線ボタンを押した。
少しばかりしてから、社長秘書との会話らしい内容が聞こえてくる。
頭の上の方で何かがくるりと動いた気配に帝人は顔を上げた。天井にへばりついた半球形のそれは、どうやら高性能カメラのようだ。
この受付に来るまでにも幾つも監視カメラが設置されていたが、それとは比べ物にならなさそうだ、ということだけは、それほど詳しくない帝人でもわかる。
ということはこれは、表玄関の受付では対処できないような訪問客が来たときのために設置されているもの、そして恐らくこれは今、社長室に繋がっている。

帝人はふわりと真っ白な服を翻しながら振り返り、真正面からそのカメラに向かって微笑んだ。
意識してする笑顔は、その裏に憎悪や嫌悪など負の感情を詰め込めば詰め込むほど、優しく出来るように思える。

「……何ならここで、歌ってみせましょうか……?」

音声が届いているかは知らないが、腕を広げてそう呟いた。
声に乗せるつもりのなかった笑顔の裏の感情が漏れたのだろう、受付嬢は小さく悲鳴を上げて、受話器を持つ手を震わせている。

ごめんなさい、許してください、歌聴きたいです、助けて下さい、もっと声を。
聴かせて下さい、聴きたいです、申し訳ありません、お願いします、もっともっと声を。

「…ああ、すみません。貴女をそうするつもりはなかったんです」

引っ切り無しに謝りながら要求を始める相手に、出来るだけ抑えた声で謝罪する。
彼女はきっと、一度事務的な態度が崩れるとなし崩しになってしまう、本当は弱い人なんだろう。それは、少し自分に似ている気がして哀れに思う。
帝人は、自分が壊れてしまっていることを感じながら、もう元の自分には戻れないのかもしれない、とその女性に視線を送る。
そして、唐突に思う。

「そうか、だから僕はここに来たんだ」

独り言は、自分にだけ言い聞かせた。
相変わらず小声で歌を聴かせて欲しいと願う彼女からは、視線を離した。

「…僕の歌は、…聴かない方が貴女のためになりますよ」
「なら私は聴いていいということかい?」

背後から、野太い声がかかる。
―――あぁ、釣れた。
帝人は振り返る前に、一度泣きそうな表情で強く強く目を瞑り、そうしてから覚悟を決めた。

「………えぇ、貴方に歌を届けに来ました」