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黒猫のデルタ

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デルタの話をしよう。
きっと君は、聞いておいたほうがいい。



デルタを飼いはじめたきっかけは、帝人君の一言からだった。いきなり家に来て、いきなり手を合わせたと思ったら、
「臨也さん、猫飼ってください!」
だもんなあ。
あんまり突然すぎて驚く俺に、帝人君はカラーコピーを数枚押し付けて、この子です、この子、と一匹の黒猫を指差した。
それが、デルタだった。
聞けば、学校の近くに貼ってあった里親募集中のポスターに、ひとめぼれをしたらしい。運命を感じたんです!と目をキラキラさせながら、帝人君は俺の手を握り締めた。
「でも家、ペット禁止なんで。僕の知ってる中で、ペットが飼えるところに住んでいそうなのって臨也さんくらいですし。だから、お願いします、僕のために猫飼ってください!」
セルティさんのところはペット禁止で、正臣はろくな世話をしなさそうだから却下、狩沢さんたちには頼むの申し訳ないですし、と続ける帝人君に、俺は正直、馬鹿なことを言うよなあと思ったよ。
だって、俺だよ?
折原臨也が、人間以外を大事に飼うと思うかい?無理無理、こんなに愛する人間でさえ、大切にはできないのにさ。それでも帝人君は、いつになく強引だった。
未成年が一人で引き取ることはできない。引き取るにも条件がいろいろとあるし、自宅を見せて猫を飼える家だと判断されなければトライアルにもは入れない、と言う。猫シェルターだっけ?なんかそういうのがあるらしいね。野良猫保護して、しつけて、飼い主を探す施設みたいなの。そこに引っ張っていかれて、質問に答えさせられて、気づいたときには去勢・ワクチン済みの黒猫が我が物顔でソファの上に寝てたというわけ。
猫砂、エサ、ベッドに食事用のトレイ、必要なものは全部帝人君が近所のホームセンターから俺の財布で調達してきた。そうしていいと言ったのは俺で、今までも何度もそうして財布を預けたことがあったけど、帝人君がここまで思い切って俺の金を使ったのは初めてだった。よほど嬉しかったのか、お値段高めのプレミアムフードを掲げて、「贅沢しちゃいました!」なんて笑ってた。
あきれるを通り越して、可愛かったさ。認めるよ、俺もちょっとにやけてたってことは。
帝人君は俺に、この子の名前をつけてもいいですか、と聞いた。俺は勿論いいよと答えた。だって帝人君の為に飼う猫なんだから帝人君が名前をつけて当然だ。



「デルタ。臨也さんを数字にすると138でしょう。だから、それをばらして足して、1+3+8=12、さらにばらして足して、1+2=3。トリオとかサードじゃあまりにもだから、三角形って意味で、デルタでどうでしょうか」



われながら上手い名前を思いついた、とでもいうような、満面の笑みに文句はつけられなかった。快く承諾して、その瞬間に黒猫はデルタになったってわけ。
そうして俺の部屋に、デルタが住み着いた。





そのころの俺と帝人君は、すごく微妙な間柄だったと、思う。
帝人君は明らかに俺のことを好きなように見えたし、実際好きだったんじゃないかな。よくも悪くも、その感情は分かりやすかった。だからきっとデルタを俺に飼えと言ったのも、家に遊びに来る口実を作る為だったんだろうと俺は思った。そう思うといじらしいし、可愛いじゃない?
対して俺は、帝人君のことをただの盤上の駒だと思っていた・・・はずだった。俺をいい人だと思い、信じ続けてくれるように仕向ける、その小道具としてデルタを快く引き受けたのだと、思っていた。実際彼は面白い人間だから、そう簡単に手放したくはなかったしね。好かれるならそのほうがいい、違うかい?
帝人君は、もちろん無邪気に笑って俺を信頼した。世話よろしくお願いしますと頭を下げて、デルタの頭を優しくなで、この子、臨也さんに少し似てる、なんて言う。
「食事忘れないでくださいね。水も替えてあげてくださいね」
「分かってるよ」
「蹴っちゃだめですよ、猫砂も定期的に・・・」
「分かってるってば」
「仲良くしてくださいね」
神妙な顔で俺を見上げる帝人君の目が、まっすぐで綺麗だったから。
いいよ、君の満足するように世話してあげる、そんな風に思った。この、人間以外に興味のない折原臨也が、動物の世話だってちゃーんとできるんだってことを、証明してやりたかった。見栄ってやつなのか、それともいいカッコ見せたかっただけの浅ましさか。波江なんか、あなたに動物の世話なんか出来るわけないわと笑ったけれど、実際俺は良く世話をしたと思う。
時間は特に決めてなかったけれど、ちゃんと決められた量をエサやりし、帝人君が買ってきたキャットタワーも組み立ててやったし、水を変えるのも忘れなかった。爪とぎ用のダンボールなんかも、自主的に買ってきてやったりして。
デルタはあまり鳴かない猫だったから、別にいてもいなくても構わなかった。よく言われるようにカーテンを上ったり新聞を破くいたずらもしないし、へんなものを食べて困らせることもなく、度を越して甘えてきて手を煩わせることもない。大抵はキャットタワーの上のほう、台になっているところに座って、ぼんやり外を見詰めたり、ソファの上で寝ていたり。
多分、頭のいい猫だったんだろう。
自分が何のためにそこにいるのかを、賢く知っていた。
その証拠に、帝人君が様子を見に遊びに来たときだけ、人が変わったように・・・いや、この場合猫が変わったようにというべきか・・・ごろごろと帝人君に甘えて、猫じゃらしを持って遊んで欲しいと訴え、撫でろと足にまとわりついては帝人君を笑顔にさせた。
ああ全く俺に似ていたよ、デルタは、あらゆる意味で、俺に似ていたんだ。だからこそあいつは俺に全く懐かなかった。近づかないようにいつも距離をとっていた。
帝人君にだけ甘えて見せて、帝人君にだけ愛想よく優しく接して、そのくせそれを特別だと思われないように必死になってみたりする。デルタもそうした。デルタは、帝人君がいるときだけ俺の膝の上に乗った。誰にでもそうしてますよと言う顔をして、帝人君だけが特別じゃないですよという顔をして、でもやっぱり帝人君だけが特別だった。その証拠に、俺の膝の上で眠ったことはない。帝人君の膝の上でなら眠るのにね。
「よかった、臨也さんは猫嫌いかなって思っていたから、仲良くやってるみたいで安心しました」
そんな風に安堵する帝人君の顔を横目で見て、俺とデルタは無言のアイコンタクトを交わしたんだ。このままの演技続行と言う協定だった。そうすれば帝人君が安心するからだ。多分俺達にとっては、帝人君が笑ってくれるってことが、なにより大切なことだった。
ところで、このころから俺は、自分の気持がよく分からなくなっていた。
だって、考えても見てほしい。
俺はずっと、帝人君はデルタを口実に俺に会いに来るんだと思っていた、ほとんど信じていたのだ。けれども実際、帝人君は家にいるときデルタに構いっぱなしで、俺のことなど全く眼中にないようだった。
俺は混乱した。帝人君は俺のことが好きなはずだった。現実を見れば、帝人君が好きなのはどう考えてもデルタのほうだ。
作品名:黒猫のデルタ 作家名:夏野