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黒猫のデルタ

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俺は狼狽した。帝人君が俺を好きだと思っていたから、さあ告白でも何でもして見せろと余裕を持って構えていられたのに、もしもそうじゃないなら、俺はどうすればいいんだ、と。
俺は落胆した。もし帝人君が俺を好きなんかじゃなくて、猫を飼ってくれる都合のいい男としてしか見ていなかったとしたら、俺がこれまでに積み上げてきた彼への好感度みたいなものが、全部無駄になる気がして。
その妙な感情は、次第に俺の胸のうちをじわじわと焼いて、いてもいなくても同じだと思っていたデルタへの憎しみに変換されていった。どうして、と思うかい?どうしてだろうね。
簡潔に言えば、嫉妬だ。
でもそのときはそれが嫉妬だなんて、考えつかなかった。俺はただ、だんだんとデルタが凶悪な化け猫に見えて仕方がなくなって、その化け猫が俺のお気に入りのオモチャを攫っていく、と、そんな風に思っていた。
笑っちゃうよね。
決め手になったのは、雨の降った寒い日に、帝人君がやってきたとき。
帝人君は寒い寒いといってデルタを抱きしめて、ずっと離さず、デルタはしょうがないなと言う顔をして、当然のように帝人君に寄り添っていて。なんか嫌だなって思いながら仕事をしてた俺の視界に入るところで、帝人君はデルタに何か耳打ちをした。デルタは顔を上げて帝人君と向き合い、それからその唇を、ぺろりと舐めたのだ。


衝撃が走ったね。


馬鹿だろう、そんなことでと思うかな。
俺は自分で自覚もしてるけど、案外嫉妬深い方なんだよ。猫にとって鼻にキスするのが挨拶とか、そんなことはちゃんと知ってた。それでも怒りが収まらなかったんだからしょうがないじゃないか。つまり俺は、その時こう思ったんだ。
俺の帝人君に、触るなよ、ってね。
こうして、デルタは俺の敵になった。少し前まで一致団結して帝人君の機嫌をとっていた俺とデルタが、その瞬間絶対に相容れない存在になったってわけだ。たかが猫ふぜいに何を対抗心を燃やしているんだと思うだろう?ところが俺にとっては、デルタは化け猫でとんでもなく賢くて、そして馬鹿みたいに俺に似ているという侮りがたい存在だった。
俺は考えた。
そう、いかにして帝人君を悲しませずにデルタを殺そうか・・・ってね。
いろいんな凶悪な考えが俺の頭をよぎった。あいつの目の前で帝人君を犯して、グチャグチャに乱れる様を見せつけてからたたきつぶしてやろうとか。まあでもそんなことしたら俺まで帝人君に嫌われるだろ。だから仕方ないと譲歩して、俺は遠いところまであいつを捨てに行くことにした。
殺すのはやっぱ、だめだね。俺の手を汚すなんて、人間でも動物でも直接は無理。一瞬でもそんなことを考えたって言うのは、それだけ俺の怒りがひどかったってことさ。
東京のはずれの方に捨てて、俺は車で帰ってくればいい。さすがに新宿まで戻っては来られないだろう、そう思った。それで、あの日俺は嫌がって暴れるデルタを無理やりキャリーに詰め込んで、多少乱暴にハンドルを切りながらひたすら郊外を目指して走っていた。




俺の帝人君を取るな、って。
頭の中はそんな事ばっかりさ。







人間、怒りで頭が真白になっているときは、ろくなことになりやしないんだ。
その時もそうだった。
俺とデルタを乗せた車は、交通量の少ない道を走っていたから俺にはかなりの油断があったと思う。ほんの一瞬、ビニール袋が道路を横切って飛んでいくのに目を奪われて、そのまま向かってきたダンプと、どっかーんとね。
衝突、炎上、だったらしいよ?
人事みたいに言ってるけどさ、あの時はほんと大変だった。俺は結構スピード出してたし、相手は大型ダンプだし。ただ不幸中の幸いだったのは、相手がスピードを出してなかったこと。なんとか一命をとりとめても、三日くらい生死の境をさまよったらしいけど。
君に本当に言っておかなきゃいけないことはここからだ。
そんなわけで俺は死線を一度超えた人間ってこと。お花畑やら三途の川やら、マジであるなんて全く思ってなかったけど、この目で見ちゃったんだから仕方ない。
そう、俺はそこに行ったんだ。ご丁寧にも、どっかに捨てようとしてたデルタと一緒にね。
にらみ合うように互いの動向を気にしながら、川のほとりまで歩いた。
俺とデルタは本当に似てたから、もしかしてお互いに最初の最初に顔を合わせた時から、こいつは殺そうと誓いあってたのかも知れなかった。デルタが俺の前じゃ決して寝ないように、俺だって寝るときは寝室に鍵をかけて寝たさ。だってあの鋭い爪で首をざくっといかれたら痛いだろ?目とか柔らかいところ狙われたら、まずいだろ?そういうことさ。
向こう岸に渡してくれる船を待つ間、俺とデルタは無言でひたすらにらみ合ってたわけ。もし視線で誰か殺せるっていうなら、あの時俺とデルタはお互いに1000回くらい死んでたね。そのくらいのにらみ合いだった。
そうしてついに船が来たんだけどさあ、その船頭が言うわけ。
「開いてる席はあと一つだよ」
ってさ。
お伽話みたいな話だろ、どっちかは戻れ、なんて。
俺とデルタはやっぱりお互いに目をあわせて、一瞬のアイコンタクトをとった。けど俺が何か言う前に、デルタの方が行動が早かった。とん、と軽く地面を蹴って、あっという間に船に乗って、俺に目配せしたんだ。帰れってね。
正直俺は驚いた。だって帝人君は俺のことなんか好きじゃなくて、デルタのことが好きみたいだったから。だから、どっちが戻れば帝人君が喜ぶだろうって考えたとき、俺は絶対にデルタだと思ったんだ。けどデルタは逆に考えたらしくて、俺が返ったほうが帝人君が喜ぶと思ったみたいで。
なんでだよ、と俺は思った。帰って、なんで俺だけ生き返ったのかと帝人君に言われたら絶対に生きていけないと思った。けど、デルタはちらりとも俺を振り返らずに、ゆらゆらと水面を渡る船の先頭にもたれるようにして、あっという間に向こうへ行ってしまった。
俺は目をさますのが怖くて怖くて、戻る歩調は凄くゆっくりになった。なんでこんなに怖いんだろうと考えた。どうして、帝人君に好かれていないのは怖いのか。俺は考えて考えて、ようやくそこでやっと、何だ俺は帝人君のことを特別に大好きなんじゃないかって気づいたわけだ。
遅すぎた。
最初から自覚してれば、デルタなんか引き受けなかったのに。
俺は悲痛な覚悟で目を開けて、地上にこうして生還した。
帝人君はぼろぼろ泣きながら喜んでくれて、傷だらけの俺に抱きついた。それだけでもう何もかも堪らない気持ちになって、俺は入院中に帝人君に告白して、キスをして、俺のものになって欲しいと頼んだわけ。
答え?YESに決まってるでしょ。
退院してから速攻で押し倒して、つながってからは余計に依存が激しくなった。俺達は毎日抱き合って、つながって、毎日飽きず愛してると繰り返した。半同棲状態ってやつ?最も、ここに居るときはほとんどベッドの中で過ごすことになってたけど。
そんなお互いに夢中な期間にさ、気づいたんだよね、俺。


俺は確かにデルタを捨てにいって事故にあったはずなのに、家にはデルタのいた形跡がなんにもなくなってるってことに。

作品名:黒猫のデルタ 作家名:夏野