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エンタースクール

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真白なカッターシャツの上に青色のブレザーを羽織る。締め方を練習した紺色のネクタイの形をキュット整え、帝人は鏡で全身の姿をチェックした。
今日は私立来良学園の入学式だ。
当初どちらの制服で行くのかという一悶着が家庭内で起こったが、最初はさすがに性別通りの制服を着ていくということで決着がついた。それに来良学園は制服があるが私服で登校しても構わない高校だ。そのうち環境に慣れてきたら好きな格好で行こうと帝人も思っている。
長い黒髪を丁寧に梳ると、後頭部の高い位置でポニーテイルに括る。垂らしている毛先をもう一度梳いてから、用意ができた帝人は鞄を持つとリビングへ行った。
制服姿の帝人を楽しみにしていた新羅とセルティは、出てきた帝人の姿に大興奮だった。
『帝人、とっても可愛いぞ!』
「うんうん、さすが僕らの子だね!」
「新羅さん、セルティさん、ありがとうございます」
男子の制服であるブレザーと同色のスラックスが、長い髪をポニーテイルにしてる帝人を凛々しく見せていた。同年代にしては痩せ過ぎている身体を大きめの制服が包んでいるのが未成熟な印象を持たせ、まるで男装している女の子のようなアンバランスな魅力を出している。
『こんなに可愛い帝人じゃ、学校の行き帰りが心配だ!』
「そうだねセルティ!なんなら送り迎えをしたいぐらいだよ」
『でも私達だと不審者になってしまうな……』
「そうだね、ちょっと一般人とは違うかな?」
『だれかにガードを依頼した方が良いか?』
「四木さんに頼んで誰か寄越してもらおうか」
『静雄にも一応声をかけておこう。たしが仕事場が池袋だったはずだ』
「あんまり使いたくないけど、臨也にも言っといた方が良いのかな」
『アレはいいだろう』
「そうだね」
「あの!僕一人でも大丈夫ですよ!!」
『「危ないからダメ!」』
PDAと声のユニゾンで言われ、シューンと帝人が肩を落とす。
「でも、僕楽しみにしているんです、高校生活」
『そういえば、知り合いに会えるかもしれなんだったか?』
「そうなんです!」
ネットの同年代が集まるコミュニティで知り合ったのだが、その中で特に気が合う・好感持てる人物と出会い、ここ数日帝人は頻繁にチャットをしていた。そのなかで話していると、年齢が全く同じで入学する高校も一緒だったのだ。こんな偶然はそうそうないと盛り上がり、入学式が終わった後で待ち合わせようと決まったのだ。
「でも、何にしても気をつけるんだよ。帝人くんが身を守る術を持っていることは分かっているけど、池袋は物騒だし」
「はい、新羅さん」
良い子の返事をした帝人は、壁に掛かっている時計を見てから慌てて玄関へ向かった。
『ちょっと早くないか?』
「なんか、先生が話したいことがあるから、ちょっと早く来て欲しいって」
「あ!それって、」
『何か知っているのか新羅?』
「ん~、僕の時もそうだったから、もしかしたらそうかなって」
『何だ早く教えろ!』
「だから、」



「新入生代表の挨拶」



式典というのはどうして決まりきったことばかりするのだろうか。紀田正臣は欠伸を噛み殺しながら校長が話す歓迎の言葉を聞いていた。女の子の物色は粗方終わってしまったし、こういうときにキョロキョロしているのは格好悪い。もう一つ欠伸を噛み殺したところで拍手が広がり、やっと終わったのかと正臣も同じように手を鳴らした。だが入学式はまだ続く。次は何かと思っていたところで、進行係を務めていた教師の声が響いた。
「新入生代表、竜ヶ峰帝人」
どえらい名前だな、と内心で爆笑していた正臣は、その姿を見て一瞬息を止めた。
「はい」と凛とした声で返事をすると、立ち上がった竜ヶ峰帝人は颯爽と壇上に上がっていった。
男にしては細身で小柄な身体を男子の制服に包み、長い髪を後頭部で結わえて毛先を垂らしている。やや緊張気味に大きな目を見開き、唇をキュッと引き締めている顔はとても愛らしい。

え、こいつって男?それとも女?

正臣が感じた混乱は他の生徒も同じようで、一瞬ホール全体がザワめいた。
だがそれも、竜ヶ峰帝人が壇上で挨拶の紙を広げるときには静かになっていた。全員がこの人物の挨拶を聞こうと耳を澄ましていた。
「あたたかな春の光に誘われて、花のつぼみも膨らみはじめたこの良き日…」
女性のアルトよりは低い、だが聞き取りやすい声で竜ヶ峰帝人が挨拶の言葉を述べていく。
「――――入学の言葉といたします。新入生代表 竜ヶ峰帝人」
一礼をするとスッと前を見る。その瞬間ホッとしたのか笑みが零れた。そのフワリとした微笑みに釘付けになった。
気が付くと皆が拍手をしていて、正臣も一緒に手を動かしていた。




自分のクラスの教室で、入学初日のありがちな自己紹介をこなし、短いHRをしてから今日は終わりになった。
正臣のクラスに、あの新入生代表の挨拶をした竜ヶ峰帝人はいなかった。どこのクラスなのだろうと思ったが、あんな目立つ名前で入学式で代表の挨拶をするのだから、おそらくは主席。そのうちイヤでも噂は聞こえてくるだろう。
軽い足取りで正臣は来良学園の校内を歩いていく。階段を登っていくと、屋上のドアを開けた。周囲を見渡してみるが、誰もいない。
「ちょっと早く来すぎたかなぁ…」
歩きながらフーと深呼吸をすると、自分にしては珍しく少し緊張しているようだった。携帯を取り出すとメール画面を見る。パソコンから転送させた本文には【入学式の後、学校の屋上で会おう】と記されている。クラスの担任によってHRの時間もまちまちだろう。暫く待とうと正臣は金網に凭れかかった。
ガチャリと屋上のドアが開けられる。そこへ真っ黒な黒髪をボブカットに切り揃えた女の子が入ってきた。可愛らしい顔立ちに眼鏡を掛けているのが、真面目そうな印象を受ける。だがスタイルは抜群で、ブレザーの胸元を押し上げる質感に、規定のプリーツスカートから伸びる足はスラリとしている。
「あの…」
正臣がいたのに驚いたのが、目を見開いた少女は戸惑ったように口篭らせた。
「えーと、もしかして、」
正臣が口を開きかけたとき、開けっ放しになっていたドアから、ダダダダダと階段を駆け上がってくる足音がした。
ダンッと屋上に入ってきた人物は額の汗を軽く拭ってから顔を上げた。
「あれ、園原さん?」
「りゅ、竜ヶ峰くん!」
入口付近にいた少女の名前を呼んで首を傾げた人物に、正臣は思わず指差した。
「りゅうがみね みかど!!!」
「ははは、フルネームで叫ぶのやめてくれる?」
「失礼しました」
思わずやってしまったが、初対面で指差しフルネーム呼びは確かに失礼だ。速やかに正臣は謝罪する。
「ククハハ、バキュラさんってやっぱり面白いんですね」
「な!?」
「え?!」
彼の言葉に正臣と、そして少女も驚いた。
「え、だってそうでしょ?これってオフ会なんだし」
「えー……、てことは田中太郎って」
「僕だよ。園原さんが罪歌さんなんだよね?ここにいるってことは」
「あ、はい、そうです」
驚きからまだ立ち直っていない少女は、いまだ驚きながらも肯定した。
「はー、まさか田中太郎さんが学年主席とは」
「僕もまさかバキュラさんがこんな軽そうな人だとは思わなかったよ」
「え、それヒドくね?」
作品名:エンタースクール 作家名:はつき