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恋した相手は、敵になりました

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長い廊下に、怒号や悲鳴、武器のぶつかり合う音が響き渡っている。
聞き慣れた音、だけど、好きじゃない。
そう思ったことは顔には出さず、神楽はまたひとり敵を倒した。
まわりは敵だらけだ。
彼らは皆、同じ服を着ている。
真選組の制服、だ。
そして、ここは彼らの本拠地である真選組屯所だ。
二年まえに神聖真選組と名前を変えてから、この屯所も城を模した巨大なものに変わった。
変わったのは、もちろん、名前と本拠地だけではない。
一番大きく変わったのは。
そして、その首謀者は。
神楽の脳裏にふっと面影が浮かぶ。
すぐにそれをかき消した。
やめよう。
今はよけいなことを考えている場合じゃない。
敵をまたひとり倒した。
けれども、まだまだ敵は多い。
それも真選組隊士として鍛え抜いた腕に自信のある者ばかりだ。
仲間とともにこの屯所に乗りこんで、広大な敷地内を戦っているうちに、仲間はひとりふたりと脱落していった。
死んだのを見ていないので、彼らの無事を祈るしかない。
そして、今、一緒にいるのは。
「神楽ァァァ!」
大声で名を呼ばれた。
銀時だ。
その髪は肩を越す長さで、頬には大きな傷がある。
二年まえとは違う。
だけど。
銀ちゃんは変わってない。
そう感じる。
銀時は神楽を見て、なにか言いかけた。
だが、次々に襲いかかってくる敵に対処しなければならなくて、その眼は敵のほうに向けられ、口は閉ざされた。
その一方で。
「ここは俺たちが引き受ける」
銀時が言おうをしたことを代弁するように、桂が言った。
「だから、先に行け」
そう告げた直後、刀を一閃させ、敵を倒した。
強い。
ふたりとも、強い。
そんなこと知ってたけど。
でも、あらためて、強いと思う。
攘夷戦争を駆け抜け、伝説になったふたりだ。
「うん」
だから、きっと大丈夫。
「わかったアル」
神楽は廊下を蹴った。
行く手をふさごうとする敵を倒して、集団から抜けだし、走る。
「神楽!」
また、銀時が名を呼んだ。
「オメーにまかせた……!」
心配なのだろう。
それが伝わってきて、胸がなんだか少し温かくなって、頬がわずかにゆるんだ。
一緒に走っている者はいない。
味方はだれもいない。
自分ひとりなのだ。
これから先は。
「うん」
振り向かずに、走り続ける。
「まかせるアル!」
元気いっぱいの声をうしろに返して、ひとりで先へと進む。