恋した相手は、敵になりました
神楽は口を強く引き結ぶ。
さっき沖田の唇が触れていた口だ。
そんなことは。
今は、忘れてしまえ。
神楽は床を蹴った。
もう間合いなんて考えない。
一気に踏みこんで、沖田に襲いかかっていく。
沖田も同じだ。
向かってくる。
たがいの武器がぶつかりあった。
さっき沖田は言い訳しなかった。
これまで、ずっと、言い訳していない。
なぜ反乱を起こし、帝国を築いて江戸を支配しようとしたのか。
言わないから、わからない。
だが、想像はつく。
幕府の頂点にいる将軍は名目だけの傀儡。
実権を握る者たちが、この国の民を切り捨てるようなことを企んでいた。
だから、彼らを一掃するために、巨大で強力な組織を作りあげようとしたのではないか。
真選組は江戸の平和を護る。
それを誇りにしていた。
だから、きっと、護るため。
市民を護るため。
でも。
江戸の大半を勢力下に置いた真選組を、市民は恐れている。
おびえながら暮らしている。
これが、おまえの護りたかった暮らしアルカ。
神楽は武器を鋭く繰りだす。
時おり防御しつつ、攻撃を続ける。
そのうちに、神楽のほうが優勢に立つようになった。
さすがに沖田の顔に焦りの表情が浮かんだ。
神楽は攻撃の手をゆるめない。
やがて。
神楽の放った攻撃が、見事、沖田の手首をとらえた。
その手を強打する。
刀が沖田の手から離れ、飛んでいく。
もう、もどれない。
だけど。
やり直すことは、できる。
沖田は眼を見張った。
隙、だ。
神楽は勢いのまま、距離を詰める。
武器である傘は床に投げ捨てた。
手を拳に強く握り、それで沖田を殴る。
沖田は後方へと飛び、床に尻もちをついた。
さらに、神楽は沖田に襲いかかる。
沖田を床に倒す。
その身体の上に馬乗りになって、見おろす。
さっきとは逆の体勢だ。
沖田はぼうぜんとしている。
神楽はその胸ぐらをつかみあげた。
「眼をさますアル……!」
どうか、届け。
私の声。
作品名:恋した相手は、敵になりました 作家名:hujio