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踊れ吾が星

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なんで海が好きなんだと聞くと、だってきらきらして、とあいつは言った。
きらきらして、きらきらして。
うつくしいから目が離せない。
その言葉に、思わずなんだと拍子抜け。
それでわかった、ようやくわかった、ステラは自分に似ているものが好きなんだ。どうもぼんやりしてる奴だし、もしかしたら馬鹿なのかもしれないけど(でも、それなら同じ部隊に所属してる自分も同じになるし、やっぱり嫌だ)それだからきっとわかってないだけで。
「お前だって、きらきらしてンじゃん」
急に腹立たしくなってきた。何だよ、この中でわかってんのって僕だけなわけ?
揺れるさざ波を見つめたまま、動きもしない背中を軽く蹴りつけて、アウルはふん、と鼻を鳴らす。
う、と小さな声をあげて、ステラが前につんのめった。いたい、とかつぶやいてるけど、でも構うもんか。仕返しなんかするつもり無いだろうし(ていうか、そんなこと許さねえし)わかってないこいつが、こいつが悪いんだ。
「太陽とか、天気良かったら、すげえきらきらしてンじゃん」
そりゃあ、海だって綺麗かもしれない。波に光が反射して、遠くまできらきらしてるんだ。人間が住んでた場所よりも広くて深いんだから、圧倒されたって恥ずかしくない。
アウルはステラのつむじを見下ろしながら、空と海の交じる遙か遠くを見やった。
同じ青色なのに、濃さがまるで違うんだ。両手でつかめそうなのが上、吸いこまれそうなのが下。その間を地平線と呼ぶことも、大昔から変わらない。ひどく気分が高揚する。アウルは唇の端を引き上げて笑った。
潮の匂いがする。風が冷たくて、とても気持ちがいい。
でも、こいつにだって変わらずに綺麗なところがある。
「ステラが?きらきら、するの」
突然つむじが質問をしてきた。上からじゃ顔も見えやしね、おいこっち向けよ、と怒鳴ると、むっとしたような声で、おこらないでと返事が返ってきた。別にお前の機嫌うかがって聞いてるわけじゃない、ていうか質問するタイミング間違えてるんじゃないの?
僕も急にいらいらしてきたから、くるりと上を向いたその鼻をつまみあげてやった。
「ステラぶっさいく!」
「いじわる、しないで」
「してねえもん、お前が悪いンじゃんか」
「ステラ悪くない。アウル、の、言うことが、いつもおかしいンじゃんか」
偉そうに言い方を真似てきたから、むくれたその鼻から手を離して、髪をひっちゃかめっちゃかにする。
「真似すんなって、ンなことわかってんだよ、黙れよ」
「黙れない、アウルいじわるは」
やめて、と腕を振り上げて抵抗するけど、そう言われるとなおさらやめたくない。本当はこんなことしてたらスティングが怒るんだ、怒るんだけど、今はいないから知ったこっちゃないし。
「僕は、間違ったことなんか言ってない」
掻き乱される金髪を見ていると、何だかだんだんどうでも良くなってきた。いつもそうなんだ。だけど、ステラが勘違いしてるのは困るから、どうでも良くなる前にきちんとわからせてやらないと。
「アウル、ステラのしつもん」
まだ横やりを入れてくるけど、そっちは本当にどうでもいい。攻撃の手をかいくぐるために、アウルは素早く両手を左右に動かした。
「黙れってお前、ホントきらきらしてんのに。わかってねえから、わざわざこの僕が」 
「わかって、ないじゃないよ」
後ろ髪がおでこにまでかかって、凄惨な状態になってるステラが、アウルを振り返る。
「アウルだよ」
「はあ?」
思わず手を止めて何が、とたずねると、ステラは眉間にしわをよせて(ごめんけど、全然怖くないから!)きらきらするの、と言葉を引き結んだ。
こいつの言うことっていつもよくわからないけど、今のもよくわからない。アウルは頭の中にはさみを思い浮かべて、ステラの言葉をチョキン、不可解なところをのりでペタリと貼り合わせてみた。えっと、何が一体僕だって?引き出しを開くと、奥にしまわれていた言葉が(裏には「ステラの」と書いてある)思い出したように引き出されてくる(やべ、ついでにスティングの私物壊したことも思い出した!)。
アウルは髪を直そうと頭を触っているステラを見下ろして、きらきらと光に反射するその金髪を眺めた。もしかしたら、白い腕もきらきらしているかもしれない。それはわかるけど、僕にはわかるけど、でもステラの言うことはわからない。
「きらきらするのが?」
尋ねながらその隣に座ると、なるほど海の見えやすい場所だなあとアウルは思った。こいつだっていろいろ考えてるんだ。肝心なときに肝心なことには頭が回らないくせに。
「ん」
「僕なわけ?」
「うん」
弱かった最初の肯定が、今度はこっくりと前に揺れて頷きになった。
「ふうん」
何で僕がきらきらすんの、その肩をこづいて聞いてみたら、考え込みもせずに肩をこづき返してきた。
「うみと、同じ色です」
嬉しそうに、両手を広げてそれを抱くように笑う。
ああ、なるほどなるほど。
ようやくわかりました。
「僕の髪がね」
相づちを打つよりも早く、その指が伸びてきて、夢を見るように僕の前髪に触れる。あーあ、普段はこんなこと許しもしないくせに、ほら、僕今こいつの言葉で混乱してるから。
「とても素敵」
うみと同じ、きらきらする。
きらきらするアウルが、とても素敵。
ぼんやりとした瞳が、溶けるような幸福を浮かべる。風に遊ばれる髪を押さえて、アウルはもう一度ふうん、とつぶやいた。
「ステラってさ、僕が好きなんだ?」
「うん、とても好き」
お前、とても好きは大好きって言うんだよ、って文句を言ったら、慌てたように大好きと言い直した。きらきらきらきらして、目が離せない。ひどく、ひどく気分が高揚する。
「触れるうみ」
おさない憧れを押しつけられて、胸が震えるような気がした。
僕は、僕はステラの触れる海。
それもいいンじゃん、面白い。何てったって、人間が住んでた場所よりも広くて深いんだ。
同じように深淵を極めたい。
「僕は海に愛されてンだなあ」
今思いついたけど、この身体こそが生ける証。地平線を指させば、海と空との間に爪がどんどん溶けていく。青色になりたい、肌も、血も、この命さえ。海でも、空でも、ぶっちゃけどっちでも構わないんだ、構わないんだけど、足の指先まで染まりきってきらきらが増したら、こいつはきっともう目を離せない。
僕はステラの、形ある海。
「うらやましい?」
聞き返すと、ステラは空でも飛びたいような顔をした。
ふふ、と笑い出したくなる。そこには純粋な夢しかないんだ。僕は知ってる。ステラが、どんなに僕を好きで好きで好きでたまらないのかを。
「躍ろうぜ」
手を引いて立ち上がったら、もうすっかり直った髪を払って、ステラがうん、と頷いた。
「おどろう」
左手をつないで、くるりと回してやったら、広がるようなスカートが風にはためいて。きらきらがもう一度主張するみたいにきらきらして、ステラがうわずったような細い声をあげた。音楽は無いけど、海の波がリズムを刻んでるから、多分大丈夫なんだ。こいつだって、回りながら手を叩いてる。
お互いの身体に手を寄せ合って、遠心力で振り回されるぐらい、見つめ合って大きく回る。
すごい、どこまで言っても青いんだ。地平線と、溶ける空と海だけが僕らを取り囲んでる。
作品名:踊れ吾が星 作家名:keico