二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

イギリスがDTの話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 




 アメリカは困惑していた。真っ正直に言えばそういうことだ。困惑。ただしこの表現が正しいか、もしくはふさわしいかどうかはアメリカにも解らなかった。アメリカは少しばかり困っていて、それからどうすべきか迷ってもいた。困惑。困惑する、すれば、するとき。うまい言葉が見つからなくて、目の前のトレイの左端に立っているシェイクをとり、ひとくちすする。いちご味。今日の気分からいけばチェリーってところだったが、あいにくメニューにそんな味はなかった。あればいいのに。アメリカはぼんやりそんなことを思う。
「…聞いてんのかよ」
「うん」
 多分、と思ったが付け加えなかった。アメリカは困惑していた。それから、向かいに座っている相手を見た。アメリカよりも少しだけ背が低いが、座ってしまえばそうと意識するほどでもない。緑色の目がきらきら光っている。

 アメリカのほとんど目と鼻の先に座った相手はえらくめかし込んでいた。ごく普通のダイナーにいて、ふたりの前のプレートにはコーヒーと紅茶がひとつずつ(まだかすかに湯気をあげている)と、アメリカが頼んだチョコレートアイスクリームが乗っている。こっちは半分とけかけている。周りを見回しても、仕事の途中といった風情のサラリーマンがいたにしても、ぱりっとしたみつ揃えをしっかり着こなしているやつなんてアメリカの向かいの席以外にはいやしない。つまりはイギリス以外には誰も、このダイナーで「おめかし」という言葉の正しい意味を知らないんじゃないか、なんて詮無いことをアメリカに思わせたくらいだった。かくいうアメリカはと言われたら、いつも通り羽織ったパーカーの下はTシャツだし、下はデニムだった。イギリスとこうやって会うようになって何度目になるのかちゃんと覚えていないが、どこに行くにしろいつでも彼はこうやってめかしこんでくる。まるで初めてのデートに着てくる服が解らなくて、パーティに着ていくようなジャケットを選んでしまった高校生みたいに。
 そして、イギリスは高校生ではないが、まさにそれだった。残念ながら。



 多分酔っていたせいだと思う。イギリスはその時アメリカの近くにはいなかった。彼の隣には誰か知らない女の子が立っていて、なかなかかわいかった。そしてイギリスの、童顔の割には男らしい手がその女の子の腰に回っていた。あれは何のパーティでのことだったんだろう? 思い出せない。その記憶がパーティの席でのものだったと判断するのは、イギリスの隣にいた子の背中が惜しげもなくドレスからさらけ出されていたからだった。つと横に来たフランスがぼそっとつぶやいた。さすが、慣れてるよな。それを聞いてアメリカは思った。ああ、そうなのかと。「あいつ遊んでるんだぜ」とかも言っていたような気がするが、記憶は曖昧だった。アメリカはただうらやましいと思っただけだった。最近忙しくてどこかに出かけることもままならなかった。つまり彼女なんてしばらく出来てない。ずいぶん長いことご無沙汰だったし、イギリスの隣にいる子はかわいかった。でもアメリカはヒーローだから、まさかひとの彼女をかすめ取ったりはしない。でも女友だちを紹介してもらうことぐらい出来るだろうし、遊んでいるという元・兄貴の武勇伝をたまに聞いてみるのも楽しいかもしれない。アメリカはその時おそらくは疲れていて、まともに判断出来ていなかった。ふうん、と鼻を鳴らした勢いのまま、アメリカはすたすたとイギリスの方に歩み寄った。
「イギリス!」
 ぱっと顔を上げた(元)兄の顔に浮かんだ表情がどんなものだったかなんてちゃんと覚えてないし、アメリカには知るべくもなかった。このときもし歩みを止めていたら、と思うのはアメリカの自分勝手な感想だ。それはちゃんと解っている。それでも願わずにはいられないが。
 アメリカが歩み寄ると、そのかわいらしい女の子はさっと空気を読んで離れていった。イギリスの頬にかるくキスのまねごとで挨拶をしてだ。またあとで、ああ、こんなやりとり。その一連の流れを、アメリカはしばしの間羨望のまなざしで見送った。いいなあ、俺もパートナーが欲しいんだぞ。もう半年ぐらいシングルだ。さみしい。フランスにさっきそうこぼすと、イギリスに負けず劣らずの恋多き男である彼は「俺昨日ふられた」と言って、引っかかれたという二の腕の傷を見せてくれた。でもなぜかアメリカは彼のことはうらやましくなかった。問題はイギリスの方だ。
「…なんだよ」
 ちょっとした上目遣い。見事な緑色をしたイギリスのひとみは確かに魅力的だった。アメリカはまたいいなあ、と思った。俺も彼女ほしい。彼みたいな目を持っていたら、こうやってパーティに行くとき連れだって歩ける魅力的なパートナーに不自由しなかったろうか。イギリスは手に持っている背の高いシャンパングラスをかるく揺らしてみせた。アメリカは思わず、それから反射的にだ。その手にあったグラスをぱっと奪い取って、一気にあおった。イギリスが今日何杯もシャンパンを飲んでいたことに気付いてそうしたわけじゃなかったが、でも結果から言えばその行動は正解だった。イギリスはもうすでにこの時点でだいぶ飲んでいて、そして彼は酒癖が悪い。からになったグラスをイギリスに突き返すと、アメリカは言った。しかし誤算としてはアメリカの方もちょっと酔っていたってところにあった。酔っぱらい+酔っぱらいだ。何もうまない。少なくともプラスの方向には。
「デートしようよ、イギリス!」
 反対意見は認めないんだぞ、と付け加える必要はなかった。
 イギリスが音速もかくや、という速さで頷いていたからだった。


 約束は次の日に取り付けられた。アメリカは携帯電話の予定表を開いて次の日の日付の午前十一時にイギリスと、と書き込んだ。イギリスはそうはしなかったが、二度ほど口の中で時間を転がし、ようやく飲み込んだ、といった調子でうなずいた。「…遅れるなよ」
「そっちこそ!」
作品名:イギリスがDTの話 作家名:tksgi