その手に大空の輝きを 4
ツナと、ちゃんと話したのは、中学に入ってからずいぶんたった頃だった。それまで一緒のクラスだってことは知ってたけど、なんか年頃っての?女子と男子じゃあんまし話す機会もなかったしな。
その頃のツナは、事故でおやじさんとおふくろさんをいっぺんに亡くして、けどめげることなく、みんなの中で微笑ってた。
なんか遠くの(イタリアだっけ?)親戚が援助してくれてるとかで、『ありがとう。大丈夫、心配しないで』って言ってたけどさ。
―――オレ、気付いてた。
ふとした瞬間、あんたがみせる、あの寂しい瞳を。
それは、夕暮れの帰り道だったり、日曜の商店街だったり、ほんの一瞬のことだったけれど、その瞳に気付くたびに、なんでか胸にするどい痛みがはしったよ。
オレの鈍い頭でもわかってた。
あんたが無理して笑ってたこと。
ホントはどうしようもなく、悲しくて、さびしくて、泣いていることに。
だからかな?この瞬間からかな?
いつだってあんたのそばにいて、支えてやりたいって。
強く、強く、そう、思ったよ。
あの瞬間の『痛み』は鮮烈で、いまだって消えることなく、胸が疼く。
だから、こんな傷、こんな痛み―――
「あの瞬間の『痛み』に比べたら、なんでもないね!!いくぜっ!スクアーロ!!
・・・時雨蒼燕流・攻式九の型!『うつし雨』」
「なんだとっ!」
気迫とともに繰り出された山本の剣がスクアーロを完全にとらえる。防御する間もなく、吹き飛ぶスクアーロ。
時雨蒼燕流の新たな技が、息吹が、ここに生み出された。
立ち止まることなく進化を続ける、天下無敵、完全無欠の時雨蒼燕流。
そして、その精神をもっとも体現する男が山本なのだ。
死闘のすえ、山本はスクアーロを下し、<雨>のリングをその手につかんだ。
これで、3対2。リングは<霧>と<雲>を残すのみ。
そして次の対決は―――<霧>の守護者。
作品名:その手に大空の輝きを 4 作家名:きみこいし