悪魔と踊れ 後編
悪魔と踊れ
-Dance with Me-≪後編≫
会談の場を後にしたツナヨシとザンザスだったが、アジトの建物を出た瞬間、いまだボスの敗北を知らぬ下っ端がわんさかわいてきた。
「ホント、いい加減にして欲しい」
「ちっ、手勢だけは多いやつらだぜ」
数を頼りにした攻撃を、かわし、炎で防ぎ、反撃しながら、二人はうんざりと呟いた。
今度は屋外とあって、飛び交う銃弾も数を増し、加えて容赦なく手榴弾やダイナマイトの類も投げ込まれる。夜空を染め上げる爆炎。マズル・フラッシュが瞬き、炎に照らさし出された舞台。
華麗で、それでいて剣呑なダンスパーティーの始まりだ。
ツナヨシの戦闘スタイルは死ぬ気の炎を利用した高速移動で敵を攪乱、相手の間合いに飛び込み倒していく体術ベースの接近型だ。いちおうX-BUNNERという距離を問わない究極的な大業もあるにはあるが、あまりに威力がでかすぎる。ゆえに、こんな場合では、高速移動の機動力をフル稼働して敵を叩きのめしていく。
対して、ザンザスは憤怒の炎を込めた銃弾で敵を銃撃している。ボンゴレ歴代随一の破壊力を誇る銃と憤怒の炎の凶悪な組み合わせで、敵を粉砕する中長距離型だ。しかし、彼自身の格闘技術もかなりのもので、肉弾戦も難なくこなす。接近型、中長距離型の区分を問わないオールラウンダーだった。
そんな二人は、四方を敵に包囲され、自然と背中合わせに、攻守を入れ替え飛び出していく。
ザンザスの炎弾が敵の弾幕を空間ごと焼き尽くし、開いた道にツナヨシが飛び込む。
彼女の炎が軌跡を描いたあとには、ことごとく地に伏す敵の姿。
新手の殺気に反応し、ツナヨシは夜空に飛翔する。体勢制御のきかない空中のツナヨシを狙って、打ち込まれる銃弾の数々。
(こざかしい・・・)
ツナヨシは右手の炎圧を高めると、無造作に弾幕をなぎ払った。熔けて形を失った鉛が地上に落ちていく。
その地上ではザンザスがニヤリと凶悪な笑みを浮かべていた。
護衛対象は空中。手加減など一切不要。
枷から解き放たれた黒い獣は、二丁拳銃をバーストモードに切り替え、銃弾すべてを吐き尽くすまで連射。
――――決別の一撃・コルボ・ダッディオ。
回避不能の死の鉄槌。荒れ狂う熱と爆炎に空間すら歪んでみえる。
ザンザスの一撃、その余波が収まった所で、ツナヨシはクルリと姿勢を変え、地上へ舞い降りた。
はかったように、ピタリと背中合わせにおさまるツナヨシとザンザス。その姿はまるで、舞踏を踊っているかのよう。
優雅で緻密、それでいて、粗野で乱暴な闘いのワルツ。
流れる銃声、怒号、悲鳴、爆発音を音楽にツナヨシとザンザスは軽快なステップを踏む。
景色が流れ、思考も流れる。
いつだって視界に写る、鮮やかな紅。
自分とこの男との間に言葉など必要ない。
ましてや合図?何を今さら。笑わせる。
かつて、ボンゴレリング継承の際には、敵として、己のすべてをかけて闘った相手だ。
互いの戦闘スタイルも、技も、クセも、思考すら熟知している。
―――――きっと他の誰よりも。
ふと思う。自分とこの男の関係はなんだろう?と。
かつては敵として闘った。今でも味方ではないと思う。
部下でもなければ、戦友でもない。
気を許せる相手ではないが、時に自分の心情を最も理解しているのがこの男だ。
血の繋がりは薄いが遠い親戚でもあるらしく、同じ養父を持つということは、実際はどうあれ書類上は兄弟でもあるのだ。嗤ってしまうシュールな事実。
あまりに多くを共有した関係は、複雑すぎて言葉などでは言い表せない。けれど、確かなことがひとつだけ。
それは、自分もこの男も
―――――どうしようもなく、ボンゴレだということ。
あらかたの戦力を行動不能にし、ツナヨシはふっと一息つく。
これで挟撃の心配はなくなった。背後からの鬱陶しい攻撃もない。あとは逃走路を開くのみ。
「掃除はまかせた」
「ちっ、一つ貸しだ」
不満げなそぶりをみせるも、護衛対象への警戒レベルも下がり、ザンザスは気兼ねなく前面の敵に突っ込んでいく。
体力の低下しているツナヨシは、すすんで敵を相手にすることなく、向かってきた敵と銃弾のみを受けながす。
それに反して、ザンザスの元気なこと。
先ほど室内では思うように戦えなかったのか、その鬱憤をも晴らすように暴れている。
生き生きと敵を殴り飛ばし、蹴り倒し、豪快に憤怒の炎をぶっ放してくれる。その姿は喜々として獲物に襲いかかる獅子のようだ。
彼のやる気のない、それでいて人を小馬鹿にした態度は、いつもは『ふてぶてしい』以外の何者でもないのだが。
(まったく、頼もしい)
こんな時は素直にそう思える。
戦闘の最中において彼の動きは、ある意味で『優雅』と言ってもいい。鍛え上げられた体、長い手足、数多くの経験の中で積み上げられた格闘センス。大型肉食獣が本能的に獲物を狩るように、彼もまた本能的に闘っているのだろう。
強く、大きい獣が動く様は純粋に美しい。
思わず見とれていたツナは、横から迫ってきた敵をあわててかわし、沈黙させる。
目があうと黒い獣はニヤリと笑みをうかべた。
(うっ、ヤなとこ見られた・・・)
それにしても。
普段から凶悪な面構えが、炎に照らされますます凶暴化している。
(はは、そりゃ逃げるよね・・・)
ザンザスの覇気にのまれ、逃亡をはじめた彼らを誰が責められるだろう。いや無理だろ。自分だって今の彼を相手するのはイヤだ。
だが、ザンザス相手では勝ち目はないと悟った彼らは、こともあろうにこちらへ向かってきたのだ。
「んげ・・・・」
突如、激しくなった攻撃に、ツナヨシが顔をしかめる。
さらにトドメとばかりに、さらなる増援。
集中する攻撃にツナヨシのステップが乱れはじめる。
通常時でさえハイパー死ぬ気モードはツナヨシの体力をどんどんと削っていく。ましてや今の体調では長くはもたない。加えて連日の激務と貧血に視界が暗くなっていく。
(あ、ヤバいかも・・・)
意識した直後、額に宿っていた死ぬ気の炎はあっさりと消え去った。
とたん地面の小石に足をとられ、ツナヨシの体がふらりとかしぐ。
「ちっ」
その様子を視界の端にとらえたザンザスは舌打ちすると、瞬時に彼女の腕をつかみ抱き上げた。進路をふさぐ雑魚どもに銃弾を撃ち込み、憤怒の炎で強引に道をひらいていく。
「ごめん、ザンザス」
「黙ってろ」
そう言い捨てると彼はツナヨシを肩にかつぎあげた。まるで米袋を担ぐような手荒な扱いに、さしものツナヨシもクレームをつける。
「なっ、ちょ・・・ザンザス!」
「うるせー、荷物が。おとなしくしてろ」
「・・・・あのーできたら人並みの扱いをお願いします」
ツナヨシの注文を見事に無視し、ザンザスはさらに炎弾を撃ち、敵を蹴倒し、殴り飛ばし、包囲網を突破したのだったが、しかしその先にはさらなる戦力がまちかまえていた。
-Dance with Me-≪後編≫
会談の場を後にしたツナヨシとザンザスだったが、アジトの建物を出た瞬間、いまだボスの敗北を知らぬ下っ端がわんさかわいてきた。
「ホント、いい加減にして欲しい」
「ちっ、手勢だけは多いやつらだぜ」
数を頼りにした攻撃を、かわし、炎で防ぎ、反撃しながら、二人はうんざりと呟いた。
今度は屋外とあって、飛び交う銃弾も数を増し、加えて容赦なく手榴弾やダイナマイトの類も投げ込まれる。夜空を染め上げる爆炎。マズル・フラッシュが瞬き、炎に照らさし出された舞台。
華麗で、それでいて剣呑なダンスパーティーの始まりだ。
ツナヨシの戦闘スタイルは死ぬ気の炎を利用した高速移動で敵を攪乱、相手の間合いに飛び込み倒していく体術ベースの接近型だ。いちおうX-BUNNERという距離を問わない究極的な大業もあるにはあるが、あまりに威力がでかすぎる。ゆえに、こんな場合では、高速移動の機動力をフル稼働して敵を叩きのめしていく。
対して、ザンザスは憤怒の炎を込めた銃弾で敵を銃撃している。ボンゴレ歴代随一の破壊力を誇る銃と憤怒の炎の凶悪な組み合わせで、敵を粉砕する中長距離型だ。しかし、彼自身の格闘技術もかなりのもので、肉弾戦も難なくこなす。接近型、中長距離型の区分を問わないオールラウンダーだった。
そんな二人は、四方を敵に包囲され、自然と背中合わせに、攻守を入れ替え飛び出していく。
ザンザスの炎弾が敵の弾幕を空間ごと焼き尽くし、開いた道にツナヨシが飛び込む。
彼女の炎が軌跡を描いたあとには、ことごとく地に伏す敵の姿。
新手の殺気に反応し、ツナヨシは夜空に飛翔する。体勢制御のきかない空中のツナヨシを狙って、打ち込まれる銃弾の数々。
(こざかしい・・・)
ツナヨシは右手の炎圧を高めると、無造作に弾幕をなぎ払った。熔けて形を失った鉛が地上に落ちていく。
その地上ではザンザスがニヤリと凶悪な笑みを浮かべていた。
護衛対象は空中。手加減など一切不要。
枷から解き放たれた黒い獣は、二丁拳銃をバーストモードに切り替え、銃弾すべてを吐き尽くすまで連射。
――――決別の一撃・コルボ・ダッディオ。
回避不能の死の鉄槌。荒れ狂う熱と爆炎に空間すら歪んでみえる。
ザンザスの一撃、その余波が収まった所で、ツナヨシはクルリと姿勢を変え、地上へ舞い降りた。
はかったように、ピタリと背中合わせにおさまるツナヨシとザンザス。その姿はまるで、舞踏を踊っているかのよう。
優雅で緻密、それでいて、粗野で乱暴な闘いのワルツ。
流れる銃声、怒号、悲鳴、爆発音を音楽にツナヨシとザンザスは軽快なステップを踏む。
景色が流れ、思考も流れる。
いつだって視界に写る、鮮やかな紅。
自分とこの男との間に言葉など必要ない。
ましてや合図?何を今さら。笑わせる。
かつて、ボンゴレリング継承の際には、敵として、己のすべてをかけて闘った相手だ。
互いの戦闘スタイルも、技も、クセも、思考すら熟知している。
―――――きっと他の誰よりも。
ふと思う。自分とこの男の関係はなんだろう?と。
かつては敵として闘った。今でも味方ではないと思う。
部下でもなければ、戦友でもない。
気を許せる相手ではないが、時に自分の心情を最も理解しているのがこの男だ。
血の繋がりは薄いが遠い親戚でもあるらしく、同じ養父を持つということは、実際はどうあれ書類上は兄弟でもあるのだ。嗤ってしまうシュールな事実。
あまりに多くを共有した関係は、複雑すぎて言葉などでは言い表せない。けれど、確かなことがひとつだけ。
それは、自分もこの男も
―――――どうしようもなく、ボンゴレだということ。
あらかたの戦力を行動不能にし、ツナヨシはふっと一息つく。
これで挟撃の心配はなくなった。背後からの鬱陶しい攻撃もない。あとは逃走路を開くのみ。
「掃除はまかせた」
「ちっ、一つ貸しだ」
不満げなそぶりをみせるも、護衛対象への警戒レベルも下がり、ザンザスは気兼ねなく前面の敵に突っ込んでいく。
体力の低下しているツナヨシは、すすんで敵を相手にすることなく、向かってきた敵と銃弾のみを受けながす。
それに反して、ザンザスの元気なこと。
先ほど室内では思うように戦えなかったのか、その鬱憤をも晴らすように暴れている。
生き生きと敵を殴り飛ばし、蹴り倒し、豪快に憤怒の炎をぶっ放してくれる。その姿は喜々として獲物に襲いかかる獅子のようだ。
彼のやる気のない、それでいて人を小馬鹿にした態度は、いつもは『ふてぶてしい』以外の何者でもないのだが。
(まったく、頼もしい)
こんな時は素直にそう思える。
戦闘の最中において彼の動きは、ある意味で『優雅』と言ってもいい。鍛え上げられた体、長い手足、数多くの経験の中で積み上げられた格闘センス。大型肉食獣が本能的に獲物を狩るように、彼もまた本能的に闘っているのだろう。
強く、大きい獣が動く様は純粋に美しい。
思わず見とれていたツナは、横から迫ってきた敵をあわててかわし、沈黙させる。
目があうと黒い獣はニヤリと笑みをうかべた。
(うっ、ヤなとこ見られた・・・)
それにしても。
普段から凶悪な面構えが、炎に照らされますます凶暴化している。
(はは、そりゃ逃げるよね・・・)
ザンザスの覇気にのまれ、逃亡をはじめた彼らを誰が責められるだろう。いや無理だろ。自分だって今の彼を相手するのはイヤだ。
だが、ザンザス相手では勝ち目はないと悟った彼らは、こともあろうにこちらへ向かってきたのだ。
「んげ・・・・」
突如、激しくなった攻撃に、ツナヨシが顔をしかめる。
さらにトドメとばかりに、さらなる増援。
集中する攻撃にツナヨシのステップが乱れはじめる。
通常時でさえハイパー死ぬ気モードはツナヨシの体力をどんどんと削っていく。ましてや今の体調では長くはもたない。加えて連日の激務と貧血に視界が暗くなっていく。
(あ、ヤバいかも・・・)
意識した直後、額に宿っていた死ぬ気の炎はあっさりと消え去った。
とたん地面の小石に足をとられ、ツナヨシの体がふらりとかしぐ。
「ちっ」
その様子を視界の端にとらえたザンザスは舌打ちすると、瞬時に彼女の腕をつかみ抱き上げた。進路をふさぐ雑魚どもに銃弾を撃ち込み、憤怒の炎で強引に道をひらいていく。
「ごめん、ザンザス」
「黙ってろ」
そう言い捨てると彼はツナヨシを肩にかつぎあげた。まるで米袋を担ぐような手荒な扱いに、さしものツナヨシもクレームをつける。
「なっ、ちょ・・・ザンザス!」
「うるせー、荷物が。おとなしくしてろ」
「・・・・あのーできたら人並みの扱いをお願いします」
ツナヨシの注文を見事に無視し、ザンザスはさらに炎弾を撃ち、敵を蹴倒し、殴り飛ばし、包囲網を突破したのだったが、しかしその先にはさらなる戦力がまちかまえていた。