青春アミーゴ 2
《青春アミーゴ・2》
私室に戻ったツナヨシは自力での解決を早々に諦め、日本で今まさに青春を謳歌しているであろうプロフェッショナルな二人にアドバイスを求めることにした。
以下、プロ二人からのメールの返事だ。
『はひー。ハルはきぐるみを制作してるときが青春ストライクです。イタリア観光で刺激を受けて、いまハルはデンジャラスに燃えてます!昨日もツナさんにピッタリのキグルミ作ったんで、送りますね。テーマはアドリア海の屋形船です~』
(・・・いや、そもそもアドリア海に屋形船なんてないし)
『えっとね、美味しいケーキ屋さんを見つけたときかな。あと最近始めたんだけど、テニスで汗を流すのも気持ちいいよ。きっと青春なんじゃないかな』
(さすが、京子ちゃん。完璧だ)
なるほど。要するに『青春』とは、<ファッション>に<グルメ>に<スポーツ>なワケだ。
二人のガールフレンド達の返事にふむふむと頷くと、ツナヨシは早速行動を開始した。
さあ、まずはファッションからだ。
ガラガラとクローゼットをあけると、そこにビッシリと並ぶは仕事服。大量のダークスーツの群だ。
(・・・・そういや、こっちに来てからあんまり服買ったことないかも)
黒服の群に隠れた、数少ない私服といえば、愛用のパジャマ、カーゴパンツにパーカーなどカジュアルだが華のない服が数点。
あまりに無骨なクローゼットの中身を改めて認識し、ツナヨシは虚ろな表情を浮かべる。
(年頃の女子が。青春を謳歌する乙女が、これじゃだめでしょ!)
とりあえずパーカーとカーゴパンツを選んだツナヨシはポケットに財布と一応念のため毛糸の手袋をねじこんで部屋をでた。
まずはファッション――――服の調達からだ。
ところで、女子の買い物には連れが不可欠らしい。
(さて、誰を誘おうか・・・)
こんな時に頼りのビアンキは、珍しい毒キノコが発見されたとかで南米でフィールドワーク中だ。他に門外顧問機関であるチェデフにも女子の知り合いはいるものの。彼女にかかればファッションではなく兵装が一式そろいそうだ。
うむむ、と額に手をあて考えこんだツナヨシに声がかかった。
「聞いたわよ~ツナちゃん!お買い物行くんですって?!このあたりのブティックは一通り制覇してるから。あたしがイロイロ教えてア・ゲ・ル」
「買い物?王子も行く。ちょうど新しいブーツほしかったんだよね」
「暇だからね。ボクもついてってあげるよ」
「ルッスーリア!ベル!マーモン!なんで本邸に?」
「ボスのおつかいだよ。報告書の提出。はい、これ。確かに渡したよ」
「別に王子ヒマだったし」
「あたしは了ちゃんをスパーリングに誘いにきたんだけど。ツナちゃんが困ってるとあれば加勢するわよ!」
マーモンからバサリと書類の束を手渡されたツナヨシはなんとも微妙な表情になる。
確か『女子の買い物の連れは女子』が原則ではなかったか?
いやしかし、ただでさえ女子不足の集団なのだ。贅沢は言えない。それに、仮にもボンゴレボスが護衛ナシに本部から出るわけにもいかないし。獄寺をはじめ守護者たちはツナヨシの自主休業の対応に追われてるだろうし。ヴァリアーの幹部である彼らならば護衛としても十分だ。
「ん、じゃお願いしようかな」
「まっかせて!」
「ししし、ついでに王子の服を買わせてあげてもいいよ」
「エスコート料はツケにしといてあげるよ」
かくして、この奇抜な四人組は本邸を後にしたのだった。
独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部であり、オカマな格闘家のルッスーリアに、切り裂き王子・ベルフェゴール、アルコバレーノにして比類無き守銭奴の幻術使い・マーモン。
この時点ですでに激しく間違っていることに、悲しいかなツナヨシは気づいていなかった。
そうして町へくりだしたこの珍妙な4人組は、とあるブティックに来ていた。
ファッション関連の店が立ち並ぶ一角に位置するこの店はルッスーリアのオススメだ。
ライムストーンの石壁に、磨かれたガラスのショウウィンドウ、シックな造りの扉にはよく見ると華麗な装飾が施されている。表の看板には流麗な字体で『Dipingere li Tempo』の文字。『時を彩る』とはなかなかにお洒落なフレーズ。
店内の内装も見事で、樫やオークといった落ち着いた木調をベースにして、観葉植物やビビッドなオブジェがセンス良く配置されている。使い込まれた床や柱は深い飴色に磨かれ、上品でいて、くつろげる空間に仕上がっていた。
さすがファッションにうるさいルッスーリアのご推薦だけあって、並ぶ品々もエレガントで洗練されている。
「あら、このドレスなんていいんじゃなぁい」
そう言ってルッスーリアが持ってきたのは、夜空を切り取ってきたような深い漆黒のビロード地に銀のスワロフスキークリスタルをちりばめた、大胆なカットのデザインドレスだった。
「えと、できたらもう少し初心者向けの方が・・・」
「そ~う?似合うと思うけど」
いやいや。難易度高すぎるから、それ!背中は丸見えだし、足元もかなりきわどい所までスリットが入っている。うむむ、と考え込んだツナヨシを見やり、
「じゃ、こっちはどうかしら?」
「あ、それならなんとか」
次にルッスーリアが差し出したのは、淡い黄色(シャンパンゴールドというのだろうか)のワンピーススタイルのドレスだ。さりげなく肩口やウエストなどポイントに白と濃い茶のストライプリボンをあしらっている。きわどいカットもなく、パーティー用というわけでもない。そのまま町を歩いていても違和感はなさそうだ。
「一度着てみたらいいんじゃない?」
「そうだね。試着してくる」
そうして試着室でごそごそとすることしばし。
着替え終わったツナヨシにルッスーリアたち三人は固まった。いつものダークスーツに見慣れている分を差し引いても、
―――――これはちょっとしたものだった。
(うう、スカートめったに着ないからなぁ。足元がスースーするよ・・・)
本人は落ち着かなそうにもじもじしているが、なかなか、いや、かなりの仕上がりだ。
「まあ!似合うじゃない。でも首もとが寂しいわね。ワタシ宝飾品選んでくるわ」
「じゃ、王子はヒール選んであげるよ」
「ボクはバッグだね」
そうして散っていく面々。かくして、数分後にはルッス、ベル、マーモン・プレゼンツの『ドレスアップ・ツナヨシ-ver.ああ青春の1ページ』が完璧に仕上がったのだった。
私室に戻ったツナヨシは自力での解決を早々に諦め、日本で今まさに青春を謳歌しているであろうプロフェッショナルな二人にアドバイスを求めることにした。
以下、プロ二人からのメールの返事だ。
『はひー。ハルはきぐるみを制作してるときが青春ストライクです。イタリア観光で刺激を受けて、いまハルはデンジャラスに燃えてます!昨日もツナさんにピッタリのキグルミ作ったんで、送りますね。テーマはアドリア海の屋形船です~』
(・・・いや、そもそもアドリア海に屋形船なんてないし)
『えっとね、美味しいケーキ屋さんを見つけたときかな。あと最近始めたんだけど、テニスで汗を流すのも気持ちいいよ。きっと青春なんじゃないかな』
(さすが、京子ちゃん。完璧だ)
なるほど。要するに『青春』とは、<ファッション>に<グルメ>に<スポーツ>なワケだ。
二人のガールフレンド達の返事にふむふむと頷くと、ツナヨシは早速行動を開始した。
さあ、まずはファッションからだ。
ガラガラとクローゼットをあけると、そこにビッシリと並ぶは仕事服。大量のダークスーツの群だ。
(・・・・そういや、こっちに来てからあんまり服買ったことないかも)
黒服の群に隠れた、数少ない私服といえば、愛用のパジャマ、カーゴパンツにパーカーなどカジュアルだが華のない服が数点。
あまりに無骨なクローゼットの中身を改めて認識し、ツナヨシは虚ろな表情を浮かべる。
(年頃の女子が。青春を謳歌する乙女が、これじゃだめでしょ!)
とりあえずパーカーとカーゴパンツを選んだツナヨシはポケットに財布と一応念のため毛糸の手袋をねじこんで部屋をでた。
まずはファッション――――服の調達からだ。
ところで、女子の買い物には連れが不可欠らしい。
(さて、誰を誘おうか・・・)
こんな時に頼りのビアンキは、珍しい毒キノコが発見されたとかで南米でフィールドワーク中だ。他に門外顧問機関であるチェデフにも女子の知り合いはいるものの。彼女にかかればファッションではなく兵装が一式そろいそうだ。
うむむ、と額に手をあて考えこんだツナヨシに声がかかった。
「聞いたわよ~ツナちゃん!お買い物行くんですって?!このあたりのブティックは一通り制覇してるから。あたしがイロイロ教えてア・ゲ・ル」
「買い物?王子も行く。ちょうど新しいブーツほしかったんだよね」
「暇だからね。ボクもついてってあげるよ」
「ルッスーリア!ベル!マーモン!なんで本邸に?」
「ボスのおつかいだよ。報告書の提出。はい、これ。確かに渡したよ」
「別に王子ヒマだったし」
「あたしは了ちゃんをスパーリングに誘いにきたんだけど。ツナちゃんが困ってるとあれば加勢するわよ!」
マーモンからバサリと書類の束を手渡されたツナヨシはなんとも微妙な表情になる。
確か『女子の買い物の連れは女子』が原則ではなかったか?
いやしかし、ただでさえ女子不足の集団なのだ。贅沢は言えない。それに、仮にもボンゴレボスが護衛ナシに本部から出るわけにもいかないし。獄寺をはじめ守護者たちはツナヨシの自主休業の対応に追われてるだろうし。ヴァリアーの幹部である彼らならば護衛としても十分だ。
「ん、じゃお願いしようかな」
「まっかせて!」
「ししし、ついでに王子の服を買わせてあげてもいいよ」
「エスコート料はツケにしといてあげるよ」
かくして、この奇抜な四人組は本邸を後にしたのだった。
独立暗殺部隊ヴァリアーの幹部であり、オカマな格闘家のルッスーリアに、切り裂き王子・ベルフェゴール、アルコバレーノにして比類無き守銭奴の幻術使い・マーモン。
この時点ですでに激しく間違っていることに、悲しいかなツナヨシは気づいていなかった。
そうして町へくりだしたこの珍妙な4人組は、とあるブティックに来ていた。
ファッション関連の店が立ち並ぶ一角に位置するこの店はルッスーリアのオススメだ。
ライムストーンの石壁に、磨かれたガラスのショウウィンドウ、シックな造りの扉にはよく見ると華麗な装飾が施されている。表の看板には流麗な字体で『Dipingere li Tempo』の文字。『時を彩る』とはなかなかにお洒落なフレーズ。
店内の内装も見事で、樫やオークといった落ち着いた木調をベースにして、観葉植物やビビッドなオブジェがセンス良く配置されている。使い込まれた床や柱は深い飴色に磨かれ、上品でいて、くつろげる空間に仕上がっていた。
さすがファッションにうるさいルッスーリアのご推薦だけあって、並ぶ品々もエレガントで洗練されている。
「あら、このドレスなんていいんじゃなぁい」
そう言ってルッスーリアが持ってきたのは、夜空を切り取ってきたような深い漆黒のビロード地に銀のスワロフスキークリスタルをちりばめた、大胆なカットのデザインドレスだった。
「えと、できたらもう少し初心者向けの方が・・・」
「そ~う?似合うと思うけど」
いやいや。難易度高すぎるから、それ!背中は丸見えだし、足元もかなりきわどい所までスリットが入っている。うむむ、と考え込んだツナヨシを見やり、
「じゃ、こっちはどうかしら?」
「あ、それならなんとか」
次にルッスーリアが差し出したのは、淡い黄色(シャンパンゴールドというのだろうか)のワンピーススタイルのドレスだ。さりげなく肩口やウエストなどポイントに白と濃い茶のストライプリボンをあしらっている。きわどいカットもなく、パーティー用というわけでもない。そのまま町を歩いていても違和感はなさそうだ。
「一度着てみたらいいんじゃない?」
「そうだね。試着してくる」
そうして試着室でごそごそとすることしばし。
着替え終わったツナヨシにルッスーリアたち三人は固まった。いつものダークスーツに見慣れている分を差し引いても、
―――――これはちょっとしたものだった。
(うう、スカートめったに着ないからなぁ。足元がスースーするよ・・・)
本人は落ち着かなそうにもじもじしているが、なかなか、いや、かなりの仕上がりだ。
「まあ!似合うじゃない。でも首もとが寂しいわね。ワタシ宝飾品選んでくるわ」
「じゃ、王子はヒール選んであげるよ」
「ボクはバッグだね」
そうして散っていく面々。かくして、数分後にはルッス、ベル、マーモン・プレゼンツの『ドレスアップ・ツナヨシ-ver.ああ青春の1ページ』が完璧に仕上がったのだった。