青春アミーゴ 3
《青春アミーゴ・3》
「んーーーー!ん、ふむーーーーー!!」
一方、突如通りすがりの車に拉致されたツナヨシはというと、じたばたともがきまくっていた。何しろ突然車にひきずり込まれたかと思えば、憎らしいほど力強い腕はそのままツナヨシをホールドしている。何者か(おそらくは成人男性だろうが)の太股に座らされ、後ろから羽交い締めにされている格好だ。密着した背中からは鍛え抜かれた固い胸板の感触があり、どう考えても一般人ではありえない。
(うわーーー!これってまさか、誘拐?!マズイ!マズすぎる!ボンゴレファミリー総本部に身代金要求の電話?!うわー誰も信じないし。いや、守護者のみんなは絶対お説教モードだよ!やだーーーってか、仮にもドン・ボンゴレが誘拐されたなんて、もしリボーンに知れたら・・・・逃げよう。それしか生き延びる道はない)
覚悟を決めたツナヨシは、なんとか腕をふりまわし、口もとを覆うごつい手に噛みつき、必死にもがいている。なにしろ、誘拐なんぞとは別の意味で『生命の危機』なのだ。
けれどもツナヨシ必死の抵抗に、彼女を束縛する力はゆるむことはなかったが、あまりに暴れるツナヨシに、抱き込んだ犯人はうんざりと声を出した。
「てめぇ、いい加減大人しくしやがれ」
「え?この声・・・もしかしてザンザス!?」
聞き覚えのある声に、ぐぎぎと首を傾けると、間近に見える真紅の双眸。黒髪に特徴的な羽根飾り、相変わらず不機嫌そうに結ばれた唇に眉間のしわ、褐色の肌には所々古傷がかいま見え――――間違いなくボンゴレ独立暗殺部隊の隊長にして、ツナヨシの血縁者であるザンザスだった。
相手がわかったこともあり暴れるのはやめたツナヨシだったが、かといって納得できる状況ではなかった。なにしろ、ザンザスに抱きかかえられているのである。狭くない車内、いやむしろ快適すぎるほど広い空間で、何故ザンザスの膝に座らねばならないのか。改めて状況を認識すると、彼女を拘束する腕をペシペシと叩き、抗議を再開した。
「ちょ、ザンザス!とりあえず放してよ」
「う゛ぉぉぉぃ、ボスさんよ。面倒ごと起こしてくれるなよなぉ」
「スクアーロ!」
運転席から援護射撃を飛ばしたのは銀髪の長身。目元がいささか鋭いもののなかなかの男前。ヴァリアーの作戦隊長にして、二代目・剣帝のスペルビ・スクアーロだった。
「ふん」
気がそがれたのか、単に飽きたのか、意外にもあっさりと解放されたツナヨシは、あわててザンザスの膝から降りると、布地が少しめくれて露わになってしまった足など、もぞもぞと身繕いをする。そんなツナヨシを、じろじろと不躾な視線で観察した後、ザンザスはニヤリと口元に笑みを浮かべ呟いた。
「ルッスーリアか・・・悪くねぇ」
「え?な、なんでわかんの?」
ツナヨシの疑問は見事にスルーし、ザンザスは言葉を続ける。
「で、ウチのカスどもを連れて、何してやがった?」
(相変わらず人の話聞かないし。こういうとこ、ムカつくんだよね)
内心ムカっとしたツナヨシはささやかな抵抗を試みた。
「・・・バカにするから言わない」
「あ?」
コォォォとザンザスの右手が光り、急激に車内温度は上昇する。この短気っぷりも変わらずだ。あわててツナヨシは降参の旗を振った。
「ひぃ!言います、言います!青春してました」
「「はぁ?」」
(うわ、ザンザスとスクアーロのハモリできたよ。予想してたとはいえこれはこれでムカつく)
が、しかたなしにツナヨシはこれまでの経緯を話した。
話が進むにつれ何となく車内に微妙に生ぬるい空気が立ちこめていく気がするが、気のせいだろう。バックミラー越しのスクアーロの視線がなんだかヤケにムカつく眼差しなのも、うん、これも気のせいだ。
すべてを聞き終えたザンザスの反応はというと、
「は、くだらねぇ。まあいい、ヒマならつきあえ」
「・・・いいけど。どこ行くの?」
「会食」
「商談?いいの?オレが行っても」
暗にボンゴレ十代目が臨席してもいいのかと問うツナヨシに、ザンザスは鼻を鳴らして答える。
「仕事じゃねぇ。私用だ。それに相手はお前もよく知ってるヤツだぜ」
「ならいいけど」
そうしてスクアーロの運転で、車はとある高級ホテルに到着した。
案内係に通されたのはホテルのレストランに設けられた個室だった。
高級ホテルのこれまた高級レストランにぴったりの内装に雰囲気。どうでもいいことだが防音対策も完璧だという。おそらくはよく会合や商談などで使うのだろう。手慣れた様子のザンザスにツナヨシは大人しくついていく。
ちなみにスクアーロは二人をロビーに降ろすとそのまま、ヴァリアーアジトへ直帰した。何でも、とある町の自警団の本部から連絡があったそうで、可及的速やかに町で暴れているクジャクとミンクとヘビガエルを回収しなければならないそうだ。何やらよくわからないものの、大変だなぁとつくづく思ったツナヨシだった。
さて、案内された個室にはすでに先客が、ザンザスたちを待っていた。
輝くハニーブロンドに、すらりとした細身の長身。見知った相手、というか思わぬ兄弟子の登場にツナヨシが声をあげた。
「ディーノさん!」
「おっ、ツナ!なんだよ、久しぶりだな」
そう、今日もキラキラしいオーラをふりまいて、にっこりと微笑みかけたのは、キャバッローネファミリーのボスにして、ツナヨシの兄弟子でもある、通称『跳ね馬ディーノ』だった。
「来るって聞いてなかったから驚いたぜ」
「あはは、ごめんなさい。オレも聞いてなかったんですけどね。ともあれ、ディーノさんお久しぶりです」
「ああ。ツナ、今日はまたかわいい格好してんな。似合ってるぜ・・・口説きがいもある」
そう囁くと、ディーノは艶やかな笑みを浮かべた。とたん、いつもの頼りになる兄弟子の姿は一転し、男の色香が漂う非常にセクシャルな大人の男がそこにいた。
彼はツナヨシを引き寄せると、イタリア式挨拶つまり『ほっぺにちゅー』をするべく、彼女の頬に唇を寄せる。ムスクのようないい薫りがふわりと広がり、熱い吐息が頬にかかる。
「え?」
キョトンとしたツナヨシは呆れるほど無防備だ。『ほっぺにちゅー』まで後一歩と言うところで――――――ザンザスの鉄拳がディーノを直撃した。
「うぜぇ、カスが」
ごすっ!という鈍い音。そして「ふべっ!」という美形に似合わぬ奇声を発し、ディーノは床に撃沈した。大人の色香を見事に粉砕した凶暴な加害者の方は、どかっと椅子にふんぞりかえり、早くもサイドテーブルに用意されていた酒(これまた高そうな酒だ)に手を伸ばす。
「なっ、ザンザス!ディーノさん大丈夫ですか!」
「はは、ずいぶんな挨拶だな。ザンザス」
フラフラと起きあがり、額からダラダラと血を流しながらも、にこやかに笑うディーノに彼と旧友の関係を垣間見たツナヨシだった。
「んーーーー!ん、ふむーーーーー!!」
一方、突如通りすがりの車に拉致されたツナヨシはというと、じたばたともがきまくっていた。何しろ突然車にひきずり込まれたかと思えば、憎らしいほど力強い腕はそのままツナヨシをホールドしている。何者か(おそらくは成人男性だろうが)の太股に座らされ、後ろから羽交い締めにされている格好だ。密着した背中からは鍛え抜かれた固い胸板の感触があり、どう考えても一般人ではありえない。
(うわーーー!これってまさか、誘拐?!マズイ!マズすぎる!ボンゴレファミリー総本部に身代金要求の電話?!うわー誰も信じないし。いや、守護者のみんなは絶対お説教モードだよ!やだーーーってか、仮にもドン・ボンゴレが誘拐されたなんて、もしリボーンに知れたら・・・・逃げよう。それしか生き延びる道はない)
覚悟を決めたツナヨシは、なんとか腕をふりまわし、口もとを覆うごつい手に噛みつき、必死にもがいている。なにしろ、誘拐なんぞとは別の意味で『生命の危機』なのだ。
けれどもツナヨシ必死の抵抗に、彼女を束縛する力はゆるむことはなかったが、あまりに暴れるツナヨシに、抱き込んだ犯人はうんざりと声を出した。
「てめぇ、いい加減大人しくしやがれ」
「え?この声・・・もしかしてザンザス!?」
聞き覚えのある声に、ぐぎぎと首を傾けると、間近に見える真紅の双眸。黒髪に特徴的な羽根飾り、相変わらず不機嫌そうに結ばれた唇に眉間のしわ、褐色の肌には所々古傷がかいま見え――――間違いなくボンゴレ独立暗殺部隊の隊長にして、ツナヨシの血縁者であるザンザスだった。
相手がわかったこともあり暴れるのはやめたツナヨシだったが、かといって納得できる状況ではなかった。なにしろ、ザンザスに抱きかかえられているのである。狭くない車内、いやむしろ快適すぎるほど広い空間で、何故ザンザスの膝に座らねばならないのか。改めて状況を認識すると、彼女を拘束する腕をペシペシと叩き、抗議を再開した。
「ちょ、ザンザス!とりあえず放してよ」
「う゛ぉぉぉぃ、ボスさんよ。面倒ごと起こしてくれるなよなぉ」
「スクアーロ!」
運転席から援護射撃を飛ばしたのは銀髪の長身。目元がいささか鋭いもののなかなかの男前。ヴァリアーの作戦隊長にして、二代目・剣帝のスペルビ・スクアーロだった。
「ふん」
気がそがれたのか、単に飽きたのか、意外にもあっさりと解放されたツナヨシは、あわててザンザスの膝から降りると、布地が少しめくれて露わになってしまった足など、もぞもぞと身繕いをする。そんなツナヨシを、じろじろと不躾な視線で観察した後、ザンザスはニヤリと口元に笑みを浮かべ呟いた。
「ルッスーリアか・・・悪くねぇ」
「え?な、なんでわかんの?」
ツナヨシの疑問は見事にスルーし、ザンザスは言葉を続ける。
「で、ウチのカスどもを連れて、何してやがった?」
(相変わらず人の話聞かないし。こういうとこ、ムカつくんだよね)
内心ムカっとしたツナヨシはささやかな抵抗を試みた。
「・・・バカにするから言わない」
「あ?」
コォォォとザンザスの右手が光り、急激に車内温度は上昇する。この短気っぷりも変わらずだ。あわててツナヨシは降参の旗を振った。
「ひぃ!言います、言います!青春してました」
「「はぁ?」」
(うわ、ザンザスとスクアーロのハモリできたよ。予想してたとはいえこれはこれでムカつく)
が、しかたなしにツナヨシはこれまでの経緯を話した。
話が進むにつれ何となく車内に微妙に生ぬるい空気が立ちこめていく気がするが、気のせいだろう。バックミラー越しのスクアーロの視線がなんだかヤケにムカつく眼差しなのも、うん、これも気のせいだ。
すべてを聞き終えたザンザスの反応はというと、
「は、くだらねぇ。まあいい、ヒマならつきあえ」
「・・・いいけど。どこ行くの?」
「会食」
「商談?いいの?オレが行っても」
暗にボンゴレ十代目が臨席してもいいのかと問うツナヨシに、ザンザスは鼻を鳴らして答える。
「仕事じゃねぇ。私用だ。それに相手はお前もよく知ってるヤツだぜ」
「ならいいけど」
そうしてスクアーロの運転で、車はとある高級ホテルに到着した。
案内係に通されたのはホテルのレストランに設けられた個室だった。
高級ホテルのこれまた高級レストランにぴったりの内装に雰囲気。どうでもいいことだが防音対策も完璧だという。おそらくはよく会合や商談などで使うのだろう。手慣れた様子のザンザスにツナヨシは大人しくついていく。
ちなみにスクアーロは二人をロビーに降ろすとそのまま、ヴァリアーアジトへ直帰した。何でも、とある町の自警団の本部から連絡があったそうで、可及的速やかに町で暴れているクジャクとミンクとヘビガエルを回収しなければならないそうだ。何やらよくわからないものの、大変だなぁとつくづく思ったツナヨシだった。
さて、案内された個室にはすでに先客が、ザンザスたちを待っていた。
輝くハニーブロンドに、すらりとした細身の長身。見知った相手、というか思わぬ兄弟子の登場にツナヨシが声をあげた。
「ディーノさん!」
「おっ、ツナ!なんだよ、久しぶりだな」
そう、今日もキラキラしいオーラをふりまいて、にっこりと微笑みかけたのは、キャバッローネファミリーのボスにして、ツナヨシの兄弟子でもある、通称『跳ね馬ディーノ』だった。
「来るって聞いてなかったから驚いたぜ」
「あはは、ごめんなさい。オレも聞いてなかったんですけどね。ともあれ、ディーノさんお久しぶりです」
「ああ。ツナ、今日はまたかわいい格好してんな。似合ってるぜ・・・口説きがいもある」
そう囁くと、ディーノは艶やかな笑みを浮かべた。とたん、いつもの頼りになる兄弟子の姿は一転し、男の色香が漂う非常にセクシャルな大人の男がそこにいた。
彼はツナヨシを引き寄せると、イタリア式挨拶つまり『ほっぺにちゅー』をするべく、彼女の頬に唇を寄せる。ムスクのようないい薫りがふわりと広がり、熱い吐息が頬にかかる。
「え?」
キョトンとしたツナヨシは呆れるほど無防備だ。『ほっぺにちゅー』まで後一歩と言うところで――――――ザンザスの鉄拳がディーノを直撃した。
「うぜぇ、カスが」
ごすっ!という鈍い音。そして「ふべっ!」という美形に似合わぬ奇声を発し、ディーノは床に撃沈した。大人の色香を見事に粉砕した凶暴な加害者の方は、どかっと椅子にふんぞりかえり、早くもサイドテーブルに用意されていた酒(これまた高そうな酒だ)に手を伸ばす。
「なっ、ザンザス!ディーノさん大丈夫ですか!」
「はは、ずいぶんな挨拶だな。ザンザス」
フラフラと起きあがり、額からダラダラと血を流しながらも、にこやかに笑うディーノに彼と旧友の関係を垣間見たツナヨシだった。