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これもいわゆる運命の出会い?

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敬礼も崩れ、はくはくと陸に上がった魚のように口を開けては閉めるを繰り返す帝人の目の前に立った静雄は、上質な手袋に包まれたおおきな手のひらで、帝人の右腕をがしりと掴んだ。
「なっ、」
「また逃げられちゃ困るんでな」
そしてそのまま細い腰を反対の手で引き寄せ、鼻と鼻が触れ合うほど近くにその身を近づかせる。あまりの密着度に帝人は相手は佐官というのも一瞬忘れ、逃げようと身を捩じらせるが、相手は帝人に絡んできた連中を一瞬で沈めた人物だ。帝人の抵抗など子供の力と等しい。
「ちちちちち近いです大佐!!」
「静雄で言いっつっただろう」
「ででででもそれはあの時だけでっ、今の自分はただの士官候補生ですから!」
「あ゛あ゛?・・・めんどくせぇな」
不機嫌そうに眉を寄せた静雄だが、すぐに何かを思いついたのか、幽曰く悪い顔で笑ってみせた。
「そんじゃあ、上官命令だ。静雄と呼べ。いいな、―――帝人」
耳に吹き込まれた音は、『あの時』を彷彿とさせ、帝人の体温はいっきに上昇した。はんなりと紅く染まる耳や頬に、くつりと喉を鳴らした男はさらに隙間を閉じようと身を寄せてくる。
「だから近いですっ大「静雄だ」っ、・・・・静雄、さん」
「よし」
寄せられた身体は引き上げられ、相手の目線の高さにされる。必然、浮き上がった足をばたばたと動かすが、相手は歯牙にも欠けない。
「だいたい3週間振りか」
「・・・・・・そう、ですね」
抵抗を諦め、ぐったりと返事をする帝人を見つめる眸は愉しげで、本当に獣のようだと帝人は思った。
「女に逃げられたのは初めてでよ」
「そ、そうですか」
「まあ、多少二人とも酔ってはいたが、合意ではあったよな」
「そう、ですね」
「俺もお前も楽しめたし」
「・・・・・・」
「そういやお前初めてだったんだよな」
「っ、」
「可愛かったぜ。最初は擽ったがってたくせに、後からどんどん快感を覚えてきてよ。さすがにいれる時は不安がって泣いてたのがまた可愛くてな」
「~~~~ッッッ」
何だ何だこの羞恥プレイ!!セクハラ?セクハラなんですか!?
ふるふると赤くなって震える帝人の耳元で静雄は喉を鳴らし笑った。
「ああ、そうだな。今みたいに可愛く震えてたぜ、あの時のお前」
帝人は恥ずかしさで死ねると本気で思った。
「たたたたたたた大佐ーー!!」
「静雄だ」
「っ、静雄さんっ、何ですか何なんですか!?僕に恨みでもあるんですかぁっ!!?」
「逃げられた恨みなら」
「ぐっ、・・・・・いやだってあれはほんと」
「とりあえず落ち着け」
「なら降ろしてください」
「それは却下だ」
(ああこれは罰なのか)
杏里の説教で十分罰を受けた気がしてたのに、まさか本命がこんな形でくるとは・・・・。
確かに考えてみれば、行きずり(?)でも合意の上の行為の後、逃げられたという状況は不憫だと感じなくもないけれど、でも、帝人の動揺も察してほしいと思うのはわがままだろうか。
ずんっと暗くなった帝人に、静雄は「まあ虐めんのはこのぐらいにしておいてやるよ」と告げる。へっと瞬く帝人に、静雄は吐く息を感じさせるほどの近い距離のまま口の端を上げた。
「お前、卒業後の配属先決まってんだってな」
「え、・・・あ、はい。一応は」
「わりィが、それは取り消しだ」
「へ?」
「そん代わりに俺んとこに決まったから」
「は?」
「俺直属の部下。階級は准尉な」
「ええっ?」
「まあ、お前ならすぐに少尉に昇格するだろうけどよ」
「ちょ、」
「学校側とは話は終わってるから、お前は卒業するだけだ」
「まっ」





「これからよろしく頼むぜ、帝人」






帝人は悟った。
あの時、彼から逃げられたことこそが、奇跡だったのだと。





(相手は金色の獰猛な獣)(逃げ切れるとか、無理だったんだ)