これもいわゆる運命の出会い?
ぞくり、と背筋を駆け抜けた悪寒に、思わず身体を抱きしめる。
「どうかしたか?帝人」
「・・・ううん、何でも、ない」
「風邪ですか?だったら無理は」
「あ、違うよ。ただちょっと嫌な予感するなーって」
「げ、まじで?帝人の勘って当たるからなぁ。ま、いざとなったらこの正臣様がエロ可愛い杏里と毒舌天使帝人を護ってやるから安心しろ!」
「安心する要素が一欠けらも無いことにいっそ尊敬するよ。あと、毒舌天使って何」
「そうゆうところー」
「ま・さ・お・み?」
「すんませんっしたぁ!!」
帝人と正臣のやりとりをくすくすと笑いながら見ていた杏里だが、帝人にもう一度「無理はしないでくださいね」と柔らかく告げた。
「うん。ありがとう、園原さん」
同じように笑い返して応えながら、その嫌な予感とやらが本当に現実のものとなるとは帝人は欠片も思っていなかった。
ピンポンパンポーン。
鳴り響く知らせの鐘に、思わずスピーカーを見る。
《生徒指導部より、2年A組竜ヶ峰帝人》
「・・・・僕?」
「何だ何だ?」
《至急、生徒指導室まで来なさい。繰り返す、2年A組竜ヶ峰帝人。至急、生徒指導教室まで来なさい》
「お、おい。帝人何かしたのか?」
「いや、覚えは、」
と言いかけたところで、数週間前のことが何故か蘇った。いやいやあれはもうかなり前のことだし、園原さんの協力を得て全力で隠蔽したから問題ない。多分。
「うーん、とりあえず行ってくるよ」
「気をつけてけよー」
「何にさ。気持ちはもらっとくけど」
友人の激励(?)にひらひらと手を振りつつ、帝人は教室を出た。向かうは呼び出しを受けた生徒指導教室だ。
生徒指導教室は帝人達の学び舎よりも離れた場所に位置している。目的の扉の前でいったん立ち止まり、僅かに息を吸う。覚えの無い呼び出しだが、身を引き締めるに越したことは無い。
右手を軽く握り、木製の扉を3度、同じ間隔で叩いた。
扉の向こうから「誰だ」との声がする。
「2年A組、竜ヶ峰帝人です」
「――――入れ」
「はい、失礼致します」
扉を開ければ、見覚えのある指導部の教官と、あと一人奥の机の向こうに誰かが座っていた。しかし帝人の位置からはちょうど逆光で顔がよく見えない。
帝人は教官の顔色と僅かな緊張を見抜き、おそらく上官がもしくは貴賓だろうと判断し、扉の前で直立不動のままぴしりと敬礼をした。
「竜ヶ峰」
「はい」
「こちらの方が、お前に用があるとのこと。失礼の無いようにしなさい」
「YES,Sir!」
そう言って、教官は部屋を出て行く。(何なんだ)と帝人は無表情の中思った。自分に用があるなんて。それなりの家柄を持つ人間なら来客もあるだろうが、自分は孤児院出の人間だ。今までそんなこと一度たりとも無かったのに。
そんな思考を遮るように、逆光に居た人物が椅子から立ち上がった。
すっと伸びる長身の影。
服装は帝人達が属することになる軍服。階級は――――、
襟を見た帝人は目を瞠る。
(大佐だって?!)
確かに教官が緊張するわけだと納得するとともに、さらに疑問は湧き出てくる。
何で佐官である人間が自分に?先も述べたが、自分は上に何の繋がりのないただの孤児院出でしかないのに。
帝人の動揺を読み取ったのか、くっと喉を鳴らすように大佐は笑った。
「まさか、軍人の卵だったとはなぁ。灯台もと暗しってやつか」
「――――え、・・・・」
カツンカツン、と硬質な音を立てて近づいてくる足音。光が陰り、眩しかった視界は漸く鮮明に大佐の姿を捉えた。
金色の髪。
低く、でもよく通る声。
端正な顔立ち。
(お前も災難だったな)
酒と煙草と、そして微かに甘ったるい匂いのする硬い指先。
粗暴そうに見えるのに、触れる時は繊細でじれったいほど優しかった。
(お前、名前何て言うんだ)
「なあ、竜ヶ峰帝人」
(俺は、―――)
「・・・・・・しずお、さん・・・」
「あん時はよくも逃げてくれたよなぁ」
金色の獣が、あの時と同じように獰猛に笑った。
作品名:これもいわゆる運命の出会い? 作家名:いの