ジャミング
凛とした気高い香りが煮詰まって、濃厚なものへと変わっていく。スプーンで鍋の底をかき混ぜながら、ジャムが出来ていくさまを見つめるのも好きだ。いつもは口やかましいイギリスが、次第に言葉が少なくなっていくのも好ましい。ことこと音を立てる鍋の中身が無事完成することだけが気がかりで、ふたりで寄り添って無心にひとつのことだけを考えている時間なんて、今日この日くらいなものだろう。
イギリスが精魂こめて育んできた花と一年、鍋の中でゆっくりと煮詰めたものを、スプーンの上にたっぷりすくう。
まず感謝したのは、神の御名と今この糧を与えてくれること、それから、素直にプレゼントを寄越さないイギリスの回りくどさと、善意と悪意とひねくれ具合と分かりづらさと皮肉と鈍感さを、アメリカが寛大に赦せることに感謝しながら、あーん、と口に入れる。香りが強くて、甘くてすっぱい。今年も上出来だ。
「うん、美味しい!」
「行儀悪りいぞ」
横から頬を引っ張られたので、舐めていたスプーンから舌を離してしまった。
ぐつぐつ煮立ってきた鍋の中にじっと緑の視線を落とし、花とは呼べなくなったジャムを眺め、少し複雑そうに瞳を潤ませていたから、口の中にスプーンをねじ込んでやった。んぐぐー、と嫌そうに喉を鳴らしていたイギリスが、スプーンに残っていたジャムを舌で舐めてきれいにすると、ぽつりと呟く。
「……甘え」
そりゃそうだろう。一緒のスプーンを使ったことに数秒経ってから気づき、意識してしまったことに赤くなるなんて、反応が子どもじみて甘すぎる。
それよりも、遠まわしにイギリスが贈るはずだったバラをいつも独り占めしていることに、いい加減気づいてもらえないだろうか。面倒くさいから、甘い顔をするのも今年までにしようか。
「甘いね」
「ちょっと砂糖多くないか、これ。少しレモン入れてみるか……んー、でもあんま入れると、分離すっかな」
「違うよ、俺が、さ」
ん? と首をかしげるイギリスを前にして、ため息を漏らす。肝心なところで勘の鈍い男を、いつまでも気長に待てるのは自分くらいなものだろう。
「ところで、もう少し砂糖を入れたほうが俺はいいと思うんだけどさ」
訊ねながら、生真面目にレモンの分量を考えている頬に、軽く、兄弟の交わすようなキスをする。鍋の中身よりも真っ赤になった耳元に唇を寄せ、それから、兄には絶対言わない言葉と、唇へのキス。
心臓が落っこちてしまわないか心配なのか、エプロンの胸のあたりをぎゅっと握り締めて、泣きそうなくらい頬をバラ色に染めている彼に、甘く囁く。
「君はどう思う?」
-end-