幼馴染パロ 短編集2
想いも覚悟も、君は僕に足りてない
<想いも覚悟も、君は僕に足りてない>
「あんたさえいなけりゃよかったのに!」
女の金切声とともに響き渡るパシンという肌がぶつかる音。
思いっきり平手打ちをされた頬を押さえて、不機嫌そうに目を細めるのは帝人だった。
今時ベタな校舎裏。
可愛らしい丸文字で書かれた「放課後校舎裏に来てください」と無署名のカードが今朝靴箱に入れられていたのだ。
隣で靴を履きかえている幼馴染2人に見つからないように、そのカードをくしゃりと丸めるようにして鞄へと隠した。
そして今、帝人は女生徒に平手打ちをされているのである。
「一応理由を聞いておくけど。臨也かな?それとも静雄のほう?」
「あっ、あんたが、あんたさえいなければ、あの人は私を選んでくれるのよ!臨也さんは優しいの!わたしにだけは優しくしてくれたのよ!私が必要だって、愛してるって、そう言って・・・っ、だけどあんたが邪魔するから!ずっとずっと傍にいてほしいのに、きっとあの人だって私の傍にいたいはずなのに、あんたが邪魔してるから悪いのよっ!」
支離滅裂に目に涙を溜めて叫ぶ少女。
対して帝人は痛み以外の理由で顔をしかめると、鋭く舌打ちをした。
「やっぱり臨也の方か・・・こういう迷惑いい加減にしてほしいんだけどな」
こんなことが起こるのはこれで4度目ぐらいだった。
正確に数えているわけではないけど、それなりにインパクトがあるせいで忘れることも難しい。
帝人としても、臨也が情報を得るために女性に近づいて油断させて心を情報を奪い、そして捨てる。もしくは完全な臨也の殉教者としてしまう。
そんなことを女性たちにやっているのは気付いている。
当然静雄も知っているし、それが臨也を唾棄している理由の1つであることも帝人にはわかっている。
けれど積極的にやめさせようとまでは思わないのだ。
きっと臨也がそんな行為をやめたら救われる人間はいるのだろうし、こういう風に自分が殴られることも少なくなるのだろう。
「でも、そうすると臨也が臨也じゃなくなっちゃうしなぁ・・・」
最低で最悪で最凶で馬鹿なのが臨也だ。
いつか刺されるだろうなぁなんて薄情なことを考えているけれど、もしそうなったらちゃんと看護はするだろうし、報復も考えるだろう。
実際報復するかどうかは状況によるけれど。
いつかそんな結果にたどり着くだろうが、それをいつか起きるからといって現在の動きを制限するのは帝人の好みではない。
女性に対して非道な考え方だけれど、見も知らない赤の他人よりは生まれたころから一緒にいる幼馴染のほうが数倍は大切だ。
だから臨也に捨てられて泣いて、帝人に八つ当たりするしかない彼女たちの苦しみをこうして受け止めることで、帝人は折り合いをつけている。
「あんたが悪いのよ、あんたがいるから邪魔なの、じゃまだから、だから、どうして、いざやさんどうしてどうして・・・」
「ごめんね。でもいくら君に邪魔だって言われても、それは臨也の意思じゃない。君の言葉であり、君の理由だから、僕が優先してやる義理なんてない」
「・・っ!あんたさえいなければ!!」
「それも違う。僕がいなくても、君は彼の特別にはなれない」
あまりにもきっぱりと言い切る帝人に、少女が怯む。
頬を濡らす涙が痛々しい。それが幼馴染の行った行為によって流されているものなんだと思うと、申し訳なくも思う。
けれど帝人はもう十分に自覚しているのだ。
この少女が臨也に出会う何年も何年も前から
「彼の特別は僕だ。そして君は僕じゃない」
僕がいなくても、君が愛されない理由はそれだけだ。
穏やかな口調で、柔らかな声で告げられる、冷たすぎる理由。
ほろりと新しい涙を零す少女が、突然気力を失ったように膝が崩れ座り込んだ。
唇が何かを囁くように動いたが言葉にはならなかった。
臨也の名前を呼んだのか、それともどうしてと呟いたのか、きっと少女にもわからないのだろう。
座り込んだまま涙を流し続ける少女に背を向けて歩き出す。
後味はいつも通り悪いけれど、仕方ない。帝人にとって自分を否定することは、臨也の想いまで否定することにつながる。
校門を出たところで、ぽつりと呟いた。
「明日から臨也のご飯は野菜だけにしてあげよう」
(止める気はないけどさ、僕だって悪辣だけどさ、嫌がらせぐらいは許されるべきしょう?離れる気なんて、ないんだから)
作品名:幼馴染パロ 短編集2 作家名:ジグ