二年後設定銀桂短編集
酔っぱらい
気持ちがいい。
そして、身体が少し重い。
酔ってしまったようだ。
桂はこたつに足を入れて、酒を呑んでいた。
今は深夜といっていい時刻で、仕事から帰ったあとである。
仕事というのは、もちろん、かまっ娘倶楽部での接客で、その際、酒を呑んでいる。
それも、かなりの量だ。
客は桂というかヅラ子を酔わせて、なにかしたいらしい。
けれども、桂はうわばみであるので、酔うのは相手のほうばかりだった。
だが、家に帰って気が抜けて、すでに酒が入っているのにさらに酒を呑んだせいで、酔ってしまった。
桂は身体が求めるままに、畳へと倒れる。
座布団を枕にする。
眼を閉じた。
このまま眠ってしまいたい。
「……おーい、酔いつぶれちまったか」
銀時の声が聞こえてきた。
「めずらしーな」
差し向かいで、銀時も酒を呑んでいたのだ。
銀時のほうが酒に弱い。
いつもなら、酔いつぶれるのは銀時のほうである。
しかし、銀時はこの家に来るまでは酒を呑んではいなかったし、さっきは桂より遅い速度で呑んでいた。
だから、いつもとは逆の結果になった。
「銀時」
眼を閉じたまま、桂は言う。
「先に風呂に入ってくれ」
自分は銀時のあとに入ろうと思った。
それまで寝ていたい。
「おー」
銀時が応じる声が聞こえてきた。
断られなくて、ほっとする。
少しは酔いが抜けるまでは、あまり動きたくはない。
桂の意識がじわじわと闇に侵食される。
眠りかける。
だが。
身体の上に人の気配を感じた。
視線も感じる。
気になって、桂は眼をゆっくりと開けた。
銀時がそばまで来て、腰をおろし、見おろしている。
「……なんだ?」
問いかけた。
けれども、銀時は黙っている。
その手が動いた。
桂の頬に触れてきた。
無骨な手のひら。
「俺ァ」
銀時は言う。
「おめーが、攘夷志士だろーが、かまっ娘だろーが、どんなカッコしてたって、歳とってシワだらけになったって、好きだ」
見おろしている眼は、真剣だ。
冗談ではなさそうだ。
桂はふっと笑う。
「おまえも酔っているのか?」
すると。
「ああ」
銀時も軽く笑った。
「そーだ」
そう答え、顔を近づけてくる。
桂はその顔をじっと見る。
俺もおまえが好きだ。
そう、ささやいた。
次の瞬間、その口をふさがれた。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio