二年後設定銀桂短編集
「もちろんです!」
客はそう返事し、猫のぬいぐるみをいっそう桂のほうに近づける。
桂はそれを受け取った。
猫のぬいぐるみを腕に抱く。
ふかふかしている。
桂の白磁を思わせる頬がゆるんだ。
さらに、桂は猫のぬいぐるみを観察する。
「肉球もちゃんとついているのか……」
まわりのことをすっかり忘れている様子で、つぶやいた。
胸がきゅーんとしているようだ。
肉球のついた猫のぬいぐるみの手を、ぷにぷにと押している。
その桂の姿を見て、まわりにいる客たちの胸はきゅーんとしているようだ。
可愛すぎて、たまらん。
桂は猫に対して、まわりの客は桂に対して、そう思っているようである。
「ヅラ子さん」
猫のぬいぐるみを持ってきた客は、桂の横に座る。
「ん? なんだ?」
桂は猫のぬいぐるみを見たまま、とりあえずといった感じで、あまり気の入っていない返事をした。
そんな桂のほうに、客は身を寄せる。
客の手はさりげなく桂の脚の上に置かれた。
「俺、可愛い猫の写真集を持ってるんです。だから、俺の部屋に来ま……」
そのとき。
席のうしろから、ボキボキッという音がした。
指を鳴らす音だ。
「そこ、どいてくれねーか。オメーより俺のほうが先に、そいつに指名入れたんだ」
低い声が聞こえてきた。
客はおそるおそるといった様子で振り返った。
そこにいたのは、頬に大きな傷のある、たくましい体つきの銀髪の男だ。
かぶき町きっての猛将、坂田将軍だ。
その猛将が、不機嫌な表情で立っている。
まわりにいる客たちは顔を引きつらせた。
作品名:二年後設定銀桂短編集 作家名:hujio