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朝の光

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――――朝の光なんてキライだった。
――――夜の闇を好んでいた。
その方が自分にはあっているのだ、と。


飛行機の時間はまだだな、と確認すると御剣は勢い良くカーテンを開けた。冬の夜は冷え込みが酷い。それでも御剣は闇の中の新鮮な空気を吸い込みたかった。自分自身の中の汚れを浄化するため、冷たい空気に晒すことで自らをより冷酷にするために。
――――午前2時。今日、御剣はアメリカに旅立つ。見失った検事としてのコタエ、その意義。そして自分自身のレーゾンデートルを探すために。恐らくすぐには帰ってこないだろう。それでも‥‥。
それでも君は見送りには来てくれないのだな、成歩堂龍一‥‥。
当たり前だ。ナニを期待していたんだ。12月の事件であんな醜態を晒して成歩堂がそれでも自分を好きでいてくれるなんて。いつからそこまで甘くなったんだろう。そんな甘い幻想を信じられるほど。
ヒトを信じたら負け。全てを‥‥自分自身さえ疑って生きてきた。世の中に確実なモノなどナニひとつない。信じられるのは法の力のみだ、と。
でも‥‥それでも。
15年間の悪夢の中から救いだしてくれた君を、初めて信じられるようになれた君を、唯一、私を信じてくれた君を‥‥。
(『ぼくにやらせてくれないか、君の弁護を。』)
それでも私は信じていたかったのに。
酷く胸が締め付けられ、覚悟していたはずのその痛みに御剣は顔をしかめた。だが、その痛みさえ愛しいから――――。
(私はもう、君から離れられないのだな。)


どれくらいの時間がたったのだろう。すっかり冷えきった手をさする御剣の耳に懐かしい声が聞こえた。いや、声ですらない。それは香り、だった。泣きたくなるほど懐かしい香り、たかが香りだったが御剣にはその持ち主が分かった。
(成歩堂、龍一。)
まさか、とは思いながらもはやる気持ちを押さえきれず御剣は窓から家の前を通る道路を見下ろす。
見慣れた自転車にまたがっている――――君がいた。
暫く時計を気にしていた成歩堂だが同様に御剣の香りに気付いたのか上を見上げる。
――――一瞬、視線が絡む。
成歩堂は驚いたような顔をしてからニッコリ笑うと御剣に向かって手招きをした。


「いやー、びっくりした。御剣が顔出さないかなーって思ってたら本当に御剣が顔出すんだもの。」
下におりてきた御剣を見つけると成歩堂は白い息を吐きながら御剣の両手を握り込んだ。
「冷たい、ね。」
(‥‥どうして。)
長い間冷たい空気に晒された喉は上手く機能しない。紡ごうとした言葉は掠れて白い息だけを残して消えた。それでも成歩堂は意味を汲み取ったのか口を開く。
「だって今日はお前がアメリカに行く日だろ?見送ろうと思って。」
「飛行機の時間はまだ、だぞ。」
「だからアメリカに行く前に見せたいものがあるんだよ。‥‥乗って?」
そういうと成歩堂はまたがっている自転車の荷台を指差す。
「‥‥‥‥いやいやいや、ここに乗れというのか!?」
その自転車は成人男性二人が乗るにはあまりにも不安定に見えた。
「それしか方法がないんだ。ちょっと車じゃ通れない道でね。」
そういうと成歩堂はいとも簡単に御剣を持ち上げ荷台に乗せてしまう。
「な、ま‥‥待て!」
「いいから、いいから。」
そして自らも自転車に跨がるとゆっくりとペダルを回し始めた。


まだ薄闇に包まれている町並みを二人を乗せた自転車が疾走していく。バランスを失いそうになった御剣は慌てて成歩堂の背中にしがみついた。
「そ、そんなに急ぐ必要があるのか?」
「時間までにつかないと何の意味もないんだ。」
成歩堂の表情は見えないがその背中で感情は分かった。彼はこの状況を楽しんでいる。御剣を荷台に乗せているという状況を。‥‥確かに今の御剣は成歩堂に頼るしかない。もし今しがみついているこの手を離したら御剣は地面に叩きつけられるだろう。そう、あの時絶望の闇の中に放り出されたように。
「‥‥‥‥。」
とんでもないことに気がついて御剣は成歩堂にますます強くしがみついた。
「‥‥成歩堂。」
「ん?」
薄暗い路地に入りながら成歩堂か聞き返す。
「あの時、何故君は私を助けに来た?」
「‥‥どうして今になってそんなこと聞くんだ?」
「良いから答えろ。」
成歩堂は暫く迷ったように黙っていたがやがて呟いた。
「ヒトを助けるのに、理由なんているのかな。」
(‥‥正論、だな。)
上手くはぐらかされたような気がしたので御剣は質問を変えた。
「じゃあ何故今日見送りに来た?」
「御剣が好きだからだよ。」
今度は躊躇なく答えが返ってきた。
「私の醜さを知っても、か?」
「醜い?」
自転車は坂道にさしかかり成歩堂は自転車をこぐ足に力を込めた。
「御剣の過去も現在も未来も‥‥全部含めて君が好きなんだ。」
「何故私を‥‥‥‥。」
「ヒトを好きになるのに、理由なんているのかな。」
「‥‥‥‥。」
またナニも言えなくなって御剣は成歩堂にしがみつく。背中ごしに感じる体温になんともいえない懐かしさをおぼえて御剣は泣きそうになった。
(そうか――――。)
私と違って君は少しも変わらないのだな。あの小学生の時から。私は随分と変わってしまった。あの頃のように夜明けを待ちわびることは出来なくなった。‥‥そのことがどうしようもなく哀しくて、切なくて――――悪を裁き続けることで自分を支えた結果、私はナニを得たのだろう。
坂の上に上りきると成歩堂は自転車を止めた。
「着いたよ。」
御剣は自転車を降りると辺りを見回す。そこは小高い丘になっていて丁度街並みが見渡せた。成歩堂の意図が分からなくて御剣は成歩堂の方を向いた。
「な‥‥。」
「あっち。目を離さないで。」
言われるがままに成歩堂の指さした方向を見つめる。夜明け前の空が何ともいえない紫色に染まってとてもキレイだった。
「来るよ。」
息をひそめて待っているとやがて地平線から朝日が上ってきた。闇に沈んだ街から無色の世界が広がっていく。
「あ‥‥‥‥。」
――――美しい。
‥‥素直にそう思った。朝日なんてうっとうしくて辛くてそれが哀しいほど切なくて何年も美しいと思うことなんてなかったのに。少しだけ朝日が好きになれた、気がした。
「御剣。」
「‥‥‥‥。」
「結婚、しよう。」
「なんだ、唐突に。」
いきなり妙なことを言い出した成歩堂を笑いをこらえながら振り返ると成歩堂は割に真面目な顔をしていた。
「結婚しよう、御剣。」
――――結婚しても、良いかもな。と素直に思えた。
「バカか、貴様は。日本では同性愛婚は認められていないぞ。」
「だから、何処か外国にいって式あげようよ。」
「君は英語を話せたか?」
「‥‥‥‥すみません。」
唇を尖らせる成歩堂に御剣は笑って見せた。
「良いではないか。」
「?」
「結婚というカタチをとらなくても、君が私を愛し、私が君を愛しているという事実があれば。」
「‥‥‥‥。」
成歩堂は暫く御剣を目を丸くして見つめていたがやがてニヤリと笑った。
「御剣、今ぼくのこと愛しているって言ったよね。」
「あ‥‥そ、それは言葉のアヤというものでな。」
「いや、御剣が外国に行く前に良い台詞が聞けたよ。」
作品名:朝の光 作家名:ゆず