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この感情は災厄でしかない

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この感情は災厄でしかない


 昨日の今日ですみません、相談したいことがあるのでお時間を頂いても宜しいでしょうか。
 先日に知り合った少年からそんなメールが届いたのは、文面のに違わず、60階通りでセルティ・ストゥルルソンが大暴れした翌日だった。初対面から2~3日しか経っていないにも拘らず、彼女からその少年に対する感情はかなり好ましいものであり、それを新羅に言うとまた見当違いの嫉妬をするだろうから言わないが、昨晩の一件で協力関係にあった為か、ダラーズという同じチームの一員である為か、とにかく親近感が湧いて、喩えるなら可愛い弟分といったところだろうか。そんな彼から相談したいと頼られると悪い気もせず、了承して時間と場所を指定する。何の相談だろうとあまり深く考えずにいた、その結果
『何でコイツがここにいるんだ!?』
 ガガガ、とでも音がしそうな程に荒々しくPDAに文字を打ち込み、画面を件の少年、竜ヶ峰帝人へ突きつけることになった。
「取引したからに決まってるでしょう。『首』ごと脳味噌も失くしたのかしら?」
ヘルメットの中で黒煙が荒れ狂う。相手を殴りつけたい衝動を抑えつけて文面の変わらないPDAの画面を更に帝人の顔へ近づける。彼女の気迫に圧され、帝人が半歩退く。しかしセルティが荒れるのも当然だった。帝人はこの場所に矢霧波江を連れてきたのである。
「ええと……、連れて行かないなら足を折る、と言われまして」
そうすれば自宅に呼ぶか移動手段が必要になるかとなり、いずれにしろ、波江がその場に居合わせることが容易になる。ならば大人しく連れてきた方が合理的だ。なるほど、これで波江がこの場にいる理由は分かった。しかし当然ながらそれだけで話は終わらない。
『そもそも何で帝人とこの女が一緒にいるんだ!?』







 話は波江が生まれる前にまで遡る。それがどれ程に前なのか正確なことは分からないが、ある輩が人ならざる者に手を出したことが矢霧の始まりだったらしい。それ一度きりならば後は人間と結ばれ、徐々にその血は薄くなる筈だった。しかし波江、誠二の姉弟を見ても分かるが、恋愛において常識も法律も体面もない輩が存在する矢霧家である、先祖にも常識に捕らわれない輩が少なからずいたらしい。誰がどんな相手に手を出したかは知る由もないが、現在の矢霧家には人ならざる者の血が善いも悪いも混ざりに混ざっていることになる。
 ちなみに波江にはあまり性質の宜しくない先祖の血が色濃く出ているらしい。それは艶美な容姿や冷ややかな性格から、何となく傍目にも分からないでもなかったが、弟以外はどうでもいい彼女は特に気にもせず、人間社会で生きてきた。昨日というその日まで。



 弟がデュラハンの『首』を研究室から持ち逃げし、その『首』を見たストーカーの女を殺しかけ、その女の顔を『首』そっくりに整形し、しかし女は逃げ、それを匿ったと思しき少年から取引を持ちかけられ、彼女にとっては珍しく自ら動いて60階通り、東急ハンズへと出向くと彼女の予想を裏切るものがいた。
 ――何……?
 同級生だというのに弟よりも明らかに低い身長、並べても同年とは思われないだろう童顔、染められていない短い黒髪、雑踏に紛れれば埋没してしまいそうな雰囲気、だというのに目が放せない存在感。それが来良学園の指定ブレザーを着ている。
 ――何なのよ、あれは……!
ほとんどの通行人は少年に見向きもしない、一瞥くれて視線を戻す輩はこの時間に珍しい制服姿に驚いたのだろう。客引きはその制服姿から声をかけないでいる。そんな中でも彼から目を逸らさない輩は、恐らく波江と同じようなものなのだろう。
「貴方が帝人君?」
いっそ恐る恐るという心持で話しかけると、少年は頷いた。
「それで――取引ってなにかしら?」
彼女は焦っていた。早く帰りたい、帰ってこの少年のことを忘れたい。警報警告警戒警鐘警笛、頭痛がする程に鳴り響く。
「解りませんか? 真実ですよ」
しかしそれらを打ち破って、電話越しではない中学生とも思える声が脳内を占める。
「直接部屋にまで乗り込まれてしまった私が身の安全を確保するには、もうどうやらそれしか無さそうですので」
怖じることなく真っ向から彼女を見据える帝人に波江は直感する。
 ――この少年は危険だ
 ――私の愛を無意識に無自覚に無遠慮に踏み躙る
 ――私の弟への、誠二への愛を……!
背筋を這い上がる熱に彼女は心底から恐怖する。弟への愛を有限にされるということは彼女にとって呼吸を制限されることと同じであり、それを終わらせることは心停止を意味する。故に恐怖し、同時にその恐怖の抹消を図る。
「弟の邪魔をする人は、いたらいけないのよ」
最後まで最愛の弟の為、と半ば自分に言い聞かせるように波江はゆっくりと手を挙げる。これで全て終わる、と健やかに笑む。
 しかし波江を含む矢霧製薬の関係者は、音と視線の荒波に囲まれ大敗することとなる。
作品名:この感情は災厄でしかない 作家名:NiLi