絶対的ナンパ術
その日、俺が昼間から町を徘徊していたのは、ただの偶然だった。
朝から雨が降りそうなどんよりとした雲が空を覆って、昼間なのに薄暗い視界が妙に嬉しくて、
いつもなら絶対部屋に籠りっきりになっている、そんな、午後2時。
いわゆるウィンドウショッピング、ついでに人間ウォッチング、暇をつぶすにはちょうど良い。
たまたま見かけたショーウィンドウのマネキンが白いワンピースを着ていて、
「お、あれ、帝人くんに似合いそうだ。」なんてそんなこと考えながら。
そう、帝人くんは白が良く似合う。
白いワンピースも似合うだろうけど、そんな格好間違ってもしてくれないだろう。
ならば白いエプロンとかならどうだろうか、つけてくれるかな。
フリフリのレースなんか要らない、真っ白なスタンダードな奴。シンプルイズザベスト!
もちろんお約束に裸エプロンで台所に立って貰おう(あー、これはしてくれないかな)
俺はそれを後ろからニヤニヤと見てれば良い。
帝人くんは可愛いヒップを揺らしながら俺の視線を意識して、料理途中に水道の水を跳ねさせてしまうんだ。
「あっ。」
その声に俺は怪我でもしたのかと慌てて帝人くんに近づく、
「臨也さん…水、零しちゃいました。」
振り向いた帝人くんはエロ漫画によくあるパターンで有り得ない量の水を被っていて、薄い生地のそれは濡れて彼の体にイヤラシクぴったりと張り付く。
そして透けた肌とピンクの胸の突起がプックリと起ちあがり俺を誘うんだ。
ふふ、今夜のメインディッシュは君に決めた!なんて、ね。
うん、このシチュエーションかなりイイな。
ヒソヒソと囁かれる声に気が付いてショーウィンドウに映る自分の顔を見ると、あからさまにニヤけてた。
…別にいいじゃない。
若い男の考えることなんて8割方妄想エロだって。
今俺を見て笑う女子高生さん、君の彼氏だって所詮ただの獣だよ。
自分の彼氏は違うなんて思うなよ、大抵の男はすれ違った女さえオカズに出来る。
まぁ俺は帝人くんしか無理だけど。
それにしても街中にはなかなか良い妄想ネタがある。
帝人くんに出会うまで、こんなに外が素晴らしいものだなんて思わなかったよ。
いつも部屋の中で駒が思い通りに動くにはどうすればいいかばかり考えていたから。
今はそうだね、どうやったら自分の妄想を具現化できるかばかり考えている。
他に何か面白いものは無いか、とキョロキョロ探す俺の耳にその声が聞こえたのは偶然だった。
だけどきっとたぶん、神様が俺の日ごろの行いが良いことを知って偶然おこしてくれた奇跡だ
だって別に耳をすましたわけでもない、特別に大きな声だったわけでも、特徴があったわけでもない。
敢えて言うなら妙に爽やかな、それでいて耳障りな声が俺の後方から聞こえた。
「あれー?何処かで会ったことない?俺ら。」
ハハハ…なんて使い古されたナンパ術。
そんな古臭い手に引っかかる馬鹿な女が今時居るのか?
むしろひっかかるような純粋な奴が居たら顔が見たい。
引っかかってその男にホイホイついてってパックリと喰われちゃってさ、都会の男って獣なのね、と知れば良い。
俺は失笑して特に気にも留めす歩みを進めた、が、
「えっ?」
戸惑ったようなその小さな声。
けれど俺が聞き間違えるわけも無い。
うん、その声だけは例え全世界の人たちが俺の耳元で一斉に喋ったって聞き分けられる。
何よりも愛しい声だから。
俺はすぐに180°グルンッと勢いよく首を回した。グキッと嫌な音がして首が痛くなったけれどそんなこと気にしてられるか。
俺は目を疑った。爽やかな声に良く似合う爽やかな笑顔の男に声をかけられ、戸惑った笑みで対応しているのは帝人くんだった。
「あ、気のせいだったかな―?」
「た、たぶんそうじゃないかと…。」
「そっか、ごめんね。うん、確かにこんな可愛い子に会ったことあったら絶対忘れないよ、俺。」
「え、そんなこと」
「え?言われない?可愛いって。」
「い、言われません。」
「うっそ!マジで?俺君のこと超可愛いな、と思ってさっきから見てたんだよね。」
「え?」
「暇だったらお茶しない?」
俺が長足を生かしてズンズンと大股で近づく間にもその爽やかな男は帝人くんにペラペラと話しかけ続けている。
あの男は馬鹿だ、本物の馬鹿だ。帝人くんが迷惑していることに気が付いてない。
だいたいこの人通りが多い中、帝人くんをナンパするとかどうなの?
そりゃ俺だってもし今初めて帝人くんを見たとしたら間違いなくナンパするだろうけど。
でもやっぱり男が男にナンパされるとか抵抗があるし、恥ずかしいじゃないか。
お前みたいに『爽やかさ100%』で出来てるみたいな奴、運動部のマネージャーとでも乳繰りあえば良いんじゃない?
ああ、もう、そこらへんの馬鹿女でもお似合いだよ!とりあえず帝人くんに近づくんじゃないよ!
帝人くんみたいな純粋な子を誑かそうとするなんて、極悪非道な悪魔か?馬鹿男め。
俺に背を向ける馬鹿男よりも先に、帝人くんが俺に気が付く。
「あ…。」
自分の後ろを見てそう言った帝人くんに、その馬鹿男も俺の方へ振り向いた。
その馬鹿男は俺の顔を見て「うわ、マズッたな。」とは思ったみたいだ。
今さら後悔しても遅いって。
「…俺のツレがどーも。」
俺はにっこりと微笑んで、一度は言ってみたかったセリフを心おきなく吐く。
「あー…友達?」
馬鹿男が馬鹿男らしく馬鹿なことを帝人くんに聞く。
「えと、」
「恋人に決まってるだろ?」
戸惑う帝人くんよりも先に俺が返事をする。
「さっさと消えろ。俺の恋人に手を出してただで済むと思うなよ?」
俺は帝人くんの肩を引き寄せてそう言った。
朝から雨が降りそうなどんよりとした雲が空を覆って、昼間なのに薄暗い視界が妙に嬉しくて、
いつもなら絶対部屋に籠りっきりになっている、そんな、午後2時。
いわゆるウィンドウショッピング、ついでに人間ウォッチング、暇をつぶすにはちょうど良い。
たまたま見かけたショーウィンドウのマネキンが白いワンピースを着ていて、
「お、あれ、帝人くんに似合いそうだ。」なんてそんなこと考えながら。
そう、帝人くんは白が良く似合う。
白いワンピースも似合うだろうけど、そんな格好間違ってもしてくれないだろう。
ならば白いエプロンとかならどうだろうか、つけてくれるかな。
フリフリのレースなんか要らない、真っ白なスタンダードな奴。シンプルイズザベスト!
もちろんお約束に裸エプロンで台所に立って貰おう(あー、これはしてくれないかな)
俺はそれを後ろからニヤニヤと見てれば良い。
帝人くんは可愛いヒップを揺らしながら俺の視線を意識して、料理途中に水道の水を跳ねさせてしまうんだ。
「あっ。」
その声に俺は怪我でもしたのかと慌てて帝人くんに近づく、
「臨也さん…水、零しちゃいました。」
振り向いた帝人くんはエロ漫画によくあるパターンで有り得ない量の水を被っていて、薄い生地のそれは濡れて彼の体にイヤラシクぴったりと張り付く。
そして透けた肌とピンクの胸の突起がプックリと起ちあがり俺を誘うんだ。
ふふ、今夜のメインディッシュは君に決めた!なんて、ね。
うん、このシチュエーションかなりイイな。
ヒソヒソと囁かれる声に気が付いてショーウィンドウに映る自分の顔を見ると、あからさまにニヤけてた。
…別にいいじゃない。
若い男の考えることなんて8割方妄想エロだって。
今俺を見て笑う女子高生さん、君の彼氏だって所詮ただの獣だよ。
自分の彼氏は違うなんて思うなよ、大抵の男はすれ違った女さえオカズに出来る。
まぁ俺は帝人くんしか無理だけど。
それにしても街中にはなかなか良い妄想ネタがある。
帝人くんに出会うまで、こんなに外が素晴らしいものだなんて思わなかったよ。
いつも部屋の中で駒が思い通りに動くにはどうすればいいかばかり考えていたから。
今はそうだね、どうやったら自分の妄想を具現化できるかばかり考えている。
他に何か面白いものは無いか、とキョロキョロ探す俺の耳にその声が聞こえたのは偶然だった。
だけどきっとたぶん、神様が俺の日ごろの行いが良いことを知って偶然おこしてくれた奇跡だ
だって別に耳をすましたわけでもない、特別に大きな声だったわけでも、特徴があったわけでもない。
敢えて言うなら妙に爽やかな、それでいて耳障りな声が俺の後方から聞こえた。
「あれー?何処かで会ったことない?俺ら。」
ハハハ…なんて使い古されたナンパ術。
そんな古臭い手に引っかかる馬鹿な女が今時居るのか?
むしろひっかかるような純粋な奴が居たら顔が見たい。
引っかかってその男にホイホイついてってパックリと喰われちゃってさ、都会の男って獣なのね、と知れば良い。
俺は失笑して特に気にも留めす歩みを進めた、が、
「えっ?」
戸惑ったようなその小さな声。
けれど俺が聞き間違えるわけも無い。
うん、その声だけは例え全世界の人たちが俺の耳元で一斉に喋ったって聞き分けられる。
何よりも愛しい声だから。
俺はすぐに180°グルンッと勢いよく首を回した。グキッと嫌な音がして首が痛くなったけれどそんなこと気にしてられるか。
俺は目を疑った。爽やかな声に良く似合う爽やかな笑顔の男に声をかけられ、戸惑った笑みで対応しているのは帝人くんだった。
「あ、気のせいだったかな―?」
「た、たぶんそうじゃないかと…。」
「そっか、ごめんね。うん、確かにこんな可愛い子に会ったことあったら絶対忘れないよ、俺。」
「え、そんなこと」
「え?言われない?可愛いって。」
「い、言われません。」
「うっそ!マジで?俺君のこと超可愛いな、と思ってさっきから見てたんだよね。」
「え?」
「暇だったらお茶しない?」
俺が長足を生かしてズンズンと大股で近づく間にもその爽やかな男は帝人くんにペラペラと話しかけ続けている。
あの男は馬鹿だ、本物の馬鹿だ。帝人くんが迷惑していることに気が付いてない。
だいたいこの人通りが多い中、帝人くんをナンパするとかどうなの?
そりゃ俺だってもし今初めて帝人くんを見たとしたら間違いなくナンパするだろうけど。
でもやっぱり男が男にナンパされるとか抵抗があるし、恥ずかしいじゃないか。
お前みたいに『爽やかさ100%』で出来てるみたいな奴、運動部のマネージャーとでも乳繰りあえば良いんじゃない?
ああ、もう、そこらへんの馬鹿女でもお似合いだよ!とりあえず帝人くんに近づくんじゃないよ!
帝人くんみたいな純粋な子を誑かそうとするなんて、極悪非道な悪魔か?馬鹿男め。
俺に背を向ける馬鹿男よりも先に、帝人くんが俺に気が付く。
「あ…。」
自分の後ろを見てそう言った帝人くんに、その馬鹿男も俺の方へ振り向いた。
その馬鹿男は俺の顔を見て「うわ、マズッたな。」とは思ったみたいだ。
今さら後悔しても遅いって。
「…俺のツレがどーも。」
俺はにっこりと微笑んで、一度は言ってみたかったセリフを心おきなく吐く。
「あー…友達?」
馬鹿男が馬鹿男らしく馬鹿なことを帝人くんに聞く。
「えと、」
「恋人に決まってるだろ?」
戸惑う帝人くんよりも先に俺が返事をする。
「さっさと消えろ。俺の恋人に手を出してただで済むと思うなよ?」
俺は帝人くんの肩を引き寄せてそう言った。