絶対的ナンパ術
「ありがとうございました。」
馬鹿男が尻尾巻いて退散した後、帝人くんは俺にそう言った。
別に礼を言われるようなことじゃないよ、自分の恋人に変な虫なんかつけさせたくないのは男として当り前だし。
でも、出来るならもう少し注意して歩いてほしいな、と、思う。
だけど「助かりました」と言って微笑む帝人くんを見ると、何も言えなくなる。
嗚呼、あの馬鹿男じゃないけど、超可愛いなぁ君ってばほんとに。
「今日は何か用事でもあったんですか?」
「え?」
「臨也さんがこんな時間に外にいらっしゃるのは珍しいな、って思って。」
「ああ、別になんとなくだよ。」
「そうなんですか、僕もなんとなく暇だから外へ出たんですけど、まさか昼間にしかもあんな人通りの多い場所でカツアゲに会うとは思いませんでした…。」
ハハ、と照れくさそうに帝人くんは笑う。
おっと、さっきのを『カツアゲ』と言うのかい君は。
…まぁ良いさ、あの男が明らかに君に欲情していることに気が付いてないのなら、わざわざ知らせる必要も無い。
「暇なら俺を誘えば良いでしょ?」
自分は帝人くんに恥ずかしくて電話出来なかったことを棚に上げてそんなことを言う。
帝人くんは頬を赤くして素直に返した。
「お休みになってるんじゃないかと思って…それに、もう少し夕方になったら電話しようと思ってたんですけど…今日、い、臨也さんちにと、とと、泊りたいな、なんて。」
両手をあげて『バンザーイ!!』と叫びたくなる気持ちを抑えて俺は聞こえないふりをして首を傾げた。
「え?何?最後の方がよく聞こえないけど?」
「あ、えと…今夜、臨也さんちに泊っても、良いですか?」
帝人くんは羞恥心やら不安やらいっしょくたにさせた、たまらん顔で俺を窺うように見る。
アハハ!良いに決まってる!!
「仕方ないなぁ。」
俺がさも仕方ない、と言う顔で微笑むと、帝人くんは安心したように笑った。
大概性格悪いね、俺も。
でも仕方が無いよ俺の方が大人だし余裕ぶりたいお年頃なんだ。
「あ、そういえば僕、実はさっきまで早く臨也さんに会いたいと思いながら歩いてたんですよ。」
サラリと言われた言葉に、俺は「ふぅん。」と興味無さげに返事する。
勿論心中は小躍りしてるけど。
帝人くんは俺を喜ばす天才だ。
まいったね、これ。
「そしたら本当に臨也さんが歩いてくるから、僕、運命感じちゃいました。」
えへへへ、と照れくさそうに帝人くんは笑う。
甘いよ、俺なんて君に出会った瞬間から運命感じてるんだから。
「臨也さん、せっかくですから今からお時間ありますか?良かったら僕とお茶しませんか?」
…ねぇ、帝人くん?『運命感じました』も使い古されたナンパ術だってことは知ってる?
そんなのに引っかかる馬鹿、居るなら見てみたい。
まぁ、例によって例の如く、
此処に居るんだけど、さ。