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食事

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食事。
生存に必要な栄養をとるために食物を食べること。
また、その食品・素材・調理法・食器類・食事作法など。
「だって」
「……」
だから何だ。そんな顔で、レイが黙り込んでいる。その眉毛も鼻筋も、髪の毛一本さえも微動だにしないけれど、ルナマリアにはそれがわかる。彼はどうしたらいいのかわからずに、きっとポーカーフェイスで途方に暮れている。
そして、ルナマリアはレイという一人の人物の、自分が最も好きなところは何かと聞かれたら、おかしそうに笑って、途方に暮れたときの顔だと答えるだろう。というよりも、レイは普段、ルナマリアに対して途方に暮れた表情ばかりを浮かべているような気がしないでもないのだが。
「何故、今さら食事の話を?」
彼女の話が意味不明なのはもうどうでも良くなったらしい。レイはもっともな問いを口にして、腰に手を置いたまま自分の前に立つ堂々とした姿の少女を見上げた。レイは今座っているのだ。
「別にいいじゃない。生物が生きていく上で最も必要かつ不可欠な行為を高尚に語り合いましょうよ」
「……必要と不可欠は同義語じゃないのか」
う、と痛いところをつかれてルナマリアが黙り込むと(これは彼女にかなりのダメージを与えた!)レイは今度はため息でもつきたそうな表情を浮かべて同じように黙り込む。こんなとき、ルナマリアは(実はレイって、今笑いたいところなんじゃないの)と注意深く彼の顔に注目するが、結局変化はない。レイは今まで鉄壁のポーカーフェイスと恐れられてきたし(けれど彼の一体何を恐れるというのか)これからも鉄壁のポーカーフェイスであり続けるのだろう。
面白くない奴だ。
「別にいいじゃないの」
ルナマリアはふん、と鼻を鳴らすと(メイリンはこの仕草を見るにつけ大声をあげて注意する「お姉ちゃん!はしたないよ!」でも今彼女はここにいないので助かったと言えば助かった)今度は少し不思議そうな顔をして自分を見上げてくるレイに真っ向から向き合った。
「ルナマリア」
「何よ」
「もしかして……無理しているのじゃないか」
かっちん、と何か硬い石が頭の中で鳴り響いたような気がした。今、こいつは何て言ったんだろう。そうやって自分自身に嘘をつき、しらばっくれてみたい気持ちになったが、残念なことにしつこいくらいの大音響で、低く穏やかな声は彼女の脳内に終わらないフレーズを流し出す。
(無理しているのじゃないか)
(無理しているのじゃないか)
(ルナマリア、もしかして無理しているのじゃないか)
ぼんやりと浮かび上がる、不思議そうなレイの顔。
その瞬間、ええい、と彼女の頭の中に住んでいる強気で臆病な小さいルナマリアが、地団駄を踏みながら両手を振り上げるのが大きいルナマリアには確かに見えた。
「どういうことよ」
声が怒りに震えることはない。ルナマリアはこれでも我慢強さには定評がある。ただ何となく彼女の声にとげとげしさが見えるのは気のせいだろう。気のせいだと思いたい。
しかし冷ややかな彼女の声質にも気づかず(本当に気づいていないんだろうかこいつは!)レイは不思議そうというよりはいぶかしそうな表情を浮かべて、今度はいや、と言い訳をするように続けてしまう。
「俺と話すことに気を遣うようなら、その必要は無いと言いたいんだ」
「だからどういうことよ」
「だから」
今度はため息をつかず、ただ一息ついて、レイは心配そうにさえ見える顔をする。ルナマリアはとうとうそれを見て、小さな脳内ルナマリアが、ぎゃあとわめきだしたのを確信した。
「俺は沈黙に慣れている。無理に話題を探して、俺につきあうことはない」
思わず戦いのゴングが高らかにうち砕かれたような音がして(もちろんそれは脳内ルナマリアが壊したせいだ、というよりそれは幻聴だ)ルナマリアはわなわなと、怒りが指先にまで満ちていくのを感じた。怒っているときに手が震えるというのは本当なんだ(手も震えないと思っていたのに、悔しい!)。そんなことを考えるあたり彼女もまだ冷静さを残しているようだが、しかしもしこの場所にシンがやってきたとして、彼女に話しかけようとはとても思わないだろう。
「その必要は無い、って。レイは私と話したくなんかないわけね」
ルナマリアは今にもうなりながら飛びかかっていきそうな体勢(しかし真っ直ぐ立ってはいる。腰に手を当てながら、しかしこれは彼女の癖で、どうやら堂々として見えるからという理由による行為らしかった)なのだが、レイにはいっこうに気づく気配がなく、もはや彼に拍手をすればいいのか、とっととその右腕をつかんでその場から連れ出した方が良いのか、判断に困ってしまう。
「ルナマリア」
「ああそうですか。だからレイはこうして私がせっかく持ち出した話題にもつきあってくれないし、私の揚げ足を取りまくって、私に恥をかかせようって魂胆なわけね」
まくしたてるルナマリアの一言に、ひょい、とレイの眉が片方上がる。やっと状況に気がついたようだ。
「ルナマリア、何を」
「いいのよいいの。悪うございましたね、それはどうも!私がせっかく、こうしてレイに有意義な時間を提供しようとしているのに、レイはそれを断ったんだもの。というより割って入ったというか。だからいいのよ、何も気にしなくて、私は」
「ルナマリア、待て」
とめどないルナマリアの嫌味に(ルナマリアときたら、嫌味と皮肉にかけてはザフト内のどんな屈強な戦士も真っ青になる力の持ち主なのだ。なんと恐ろしい!)さすがのレイも翻弄されている。いくら彼女の気を引こうと(もちろん彼女の話を何とか中断させるために他ならない)口をはさんでみても、それはざるで砂をかくほどに、まったくもって無駄なことに違いなかった。
「だからいいって言ってるでしょ、レイもしつこいわね。だからとにかく私が言いたいのはレイのためにこの私がようやくお互いが納得して取り組めるような話題を見つけてきたっていうのに、それを無惨にも切り捨てたというか、その容赦ない行為に」
「……ルナマリア」 
「ここまで来て話の腰を折らないでよ。だからその容赦ない行為に少しだけ不快感を覚えたというか、正直に言って、まあぶっちゃけむっとしたのよ、それなのにレイと来たらいつもみたいに涼しげな顔してすまなそうな素振り一つ見せないし、私がせっかく異性の話とかは直接すぎるからだめね、洋服の話なんか普段軍服以外ほとんど身につけることのない私たちにとっては意味のないことだし、ここにいないシンやメイリンたちの話をするのも何だか気まずいし、そうだ、何かいい話はないかしら、私とレイの2人っきりでも楽しく話せる話題が、って延々考えたあげくに考えついた最高のアイディアだったのに、それをレイが」
「ルナマリア」
突然、問題のレイが大声を出したので、癪なことに思わずルナマリアは黙り込んでしまった。普段穏やかであるとは言っても、同年代のパイロットたちに比べて低い声の彼は、こんな風に少し大きな音量を出すと非常に迫力がある。
作品名:食事 作家名:keico