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食事

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 視線を動かして、自分を見上げるレイを視野に入れると、ようやくルナマリアは自分が今まで彼を見て話をしていなかったことに気がついた。レイは随分と強い光を目に浮かべている。口は硬く引き結ばれていたが、それはいつものことだ。しかしレイが怒っているのではないにしろ、珍しく何か気になる様子でいることにルナマリアは気づいて、仕方なくそのまま彼の言葉を待った。(これだから嫌になるわ、男ってみんなこうして大きな声を出せば、女が黙り込むとでも思ってるわけ?そうだとしたらただの馬鹿よ、まったくもってただの阿呆よ、ただの)……本当に仕方なく、だけれど。
 しかし、一方のレイは彼女の表情の一つ一つすらも気にしているように(それは彼の顔には表れなかったが)しばらくすねるようにあさっての方向を向いている彼女を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「……ルナマリア。何を怒っている?」
ルナマリアは顔の温度が上昇するのを感じた。恥ずかしいのではない。怒っているのだ。けれどもそれは別にレイがルナマリアの怒りの原因を理解していないからではなく、自分の全てをこの何もわかっていないような顔をした少年に見抜かれているような気がしたからだった。
ああ、もう!
きい、と髪をかきむしって(実際のルナマリアがそんなことをするわけないし、たとえしたとしてももっと上品にやるだろう)脳内に住む小さなルナマリアが口から火を噴いている。ほど怒っている。両手をぶんぶん振り回して、レイの奴め!と体裁もへったくれもなしにわめきまくっている。
ルナマリアはまざまざとその様子を頭に思い浮かべて、そのまま爆発しそうになった感情にワンクッション置くと、目を背けることなく自分を見つめるレイの両目をのぞきこみ(のぞきこむつもりで)大きく口を開いた。
「そうよ!むかつくことこの上ないけどレイが言うとおり私が怒ってんのはそんなみみっちいことじゃないのよ!ただ」
レイが頷かずに、その続きをうながす。
「何だ」
どうしてこの男は今さらになって、一番大事なときに自分の話を聞こうとしているのだろう。タイミングを心得た奴め。心底憎たらしい!
ルナマリアは自分の額に青筋が浮いていないか心配しながら、もう頭が真っ白になるほど何もかも捨て去ったつもりで、小さな脳内ルナマリアが戦闘を始めるように大きく片腕を振り上げたのを見た。
「私がアカデミーでもまったく文学の才能が無かったことは覚えてるわよね」
「ああ」
この正直者!また憎たらしい気持ちが沸き上がってきそうなのを押さえて、ルナマリアは自分がこれから言わんとしていることを本当に自分でも理解しているのか不思議になってきた。
「だから私としてはこれは必死の行為なのよ。まったくもって文学の才能の無い私が考えに考えて、そうしてようやく打って出たつもりだったのに」
今度のレイは、口を挟まない。
ルナマリアは恐ろしいことに、自分の声が震えてさえいるような気がしてきた。
「食事の話をすれば、もちろん栄養を取るための行為だ、っていうところからまず入るでしょ、だって私がわざわざ最初に調べてきてそう言ったんだから。だからそういう話の流れになってきたところを見計らって、『だからレイがいれば私も元気になるのよね』って、うまく、自然に、少しありがちなたとえのような気もしたけど、わかる?つまりはレイが私にとっての栄養なんだってことよ!口に出してみると、おかしなことこの上ないけど、それでもこの文才の無い私が一生懸命に考えて、そう持ち出そうとしたのに、それなのに、レイが、レイときたら」 
ああ、滅茶苦茶だ。ルナマリアは、もう自分が何を言っているのかわからなくなってきていた。
「肝心のレイときたら、心配そうな顔して『無理してるんじゃないか』なんて!」
完全なる侮辱、大いなる罪よ!ルナマリアは小さなルナマリアがそう叫んでいるのを聞いて確かにそうだと思ったが、でもいくら文才が無いとはいえ恐ろしい言いようなので口に出すのは控えておいた。
「私の気持ちを、裏切るにもほどがある一言じゃない、この、この」
「……唐変木」
やっとレイが口を開いた。
「そうよ、そうよこのトウヘンボク!」
文学の才能が無いと(というより語彙が少ないといった方が正しいのかもしれない)こうやって相手を言い負かしたいときに困るとルナマリアは初めて思った。何よりレイの言葉を借りてしまったのが何よりの敗北だと思う(ねえ、トウヘンボクって一体何なの?)。
しょんぼりと(言うには肩を怒らせて)ルナマリアは息を吸うと、何か言うことはあるわけ、とガンを飛ばしてレイを見下ろした。しかし彼はというとやっと納得したような顔をして、そうか、と一言つぶやいただけだ。
「それは悪かった、ルナマリア」
……喧嘩を売った相手がこれほど素直なのも気にくわないというものだろう。
「だから別に私はレイに怒りたいんじゃなくて、いざってときにまるでレイに心を読まれたみたいにあんなこと言われて、思わず動揺したの。それで、弱気になってやめにした自分が、今みたいにレイに八つ当たりしかできない自分が、どうしても嫌で、腹立たしく思えただけ。それだけよ」
ごめん、とはどうしても言えないような気がして、ルナマリアがもぐもぐと言葉を飲み込んでいると、膝の上で両手を組んでいたレイが(こうしていると彼の睫毛が思いの外長いのが見て取れた)もう一度そうか、とつぶやいて、今度は伏せていた顔を上げた。
「俺も、ルナマリアがいると元気になる」
今、こいつは何て言ったんだろう。さっきもルナマリアは同じことを思ったが、明らかに気持ちは違っていた。小さなルナマリアが振り上げていた腕を下ろして、驚いたように立ち止まっている。それから何度も何度も、信じられないような気がしているのか、もう1回言いなさいよとレイにふっかけるのが聞こえた。
「何て言ったの?」
耳が遠くなっちゃって、と大嘘をつくと、今度のレイは少し安堵したような雰囲気を見せて(しかしそれが彼女の幻覚だとしたら寂しい以外の何物でもない)ルナマリアに和らいだ視線を送った。
「俺も、ルナマリアがいると元気になる」
低い声はまるでリピート機能の付いた録音機のようで、棒読みに近い彼の口調からすればまことに味気ないものだったが、ルナマリアはとたんに頭がぼうっとして小さなルナマリアが今度はうわあと声を上げながらどこかへ退散していくのを見た。
「ああ、そう」
「ああ」
レイが事も無げにうなずく。その表情は変わらないし、自分の八つ当たりを聞いていたときと全く変わりない。
「それを早く言いなさいよ」
「だから、何度も口をはさんだ。悪かったと言っている」
そう言うと一気に疲れたような表情を浮かべたルナマリアを見上げて、彼は立ち上がる。一歩も動けない彼女の隣を通り過ぎざま、有意義な時間だったと一言つぶやいて、本当にあっけなく彼は休憩室を出ていった。 タイミングを心得るいい男でも、後の始末はさすがに手に負えないみたいだ。
そんなことを考えながら、彼がそれまで座っていたその場所に座り込むと、ルナマリアはそのまま膝に顔を押し当てて、丸くうずくまる。
(元気になる)
(元気になる)
(ルナマリアがいると、元気になる)
作品名:食事 作家名:keico