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仕方ない

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どうしてしまいたいの、とルナマリアが眉根を寄せる。腰に片手を当てながら、嬉しそうにレイを責める。
嬉しそうに、と言うのはおかしいかもしれないけれど、そんな時、シンは確かに彼女が喜んでいることを確信する。眉根だって寄って、仁王立ちに近いスタイルだけど、照れ隠しをしないかわりに、ルナマリアは意味のないことに怒ったりなんかしないんだ。
「レイはどうしてしまいたいの」
腕を組んで、ソファに座るレイと向かい合っていると、何だか赤色と金色が目に眩しくて、随分と地味な色合いを自負するシンにはそれが別世界のように見える(レイに関しては同室でもあるし、大分慣れはしたけれど)。思えばこれって、「動」と「静」との対峙じゃないか?シンメトリーは……左右対称になるから問題外だけど、真逆に伸びていく二つのものは、不思議な安定感を生みだしてしまう。
「どうしてしまいたい、とは」
レイが不機嫌そうな顔をしている。不機嫌そうな、といっても、彼を初めて見る人にはわからないんだろう。ちょっと右目が細くなるんだ。シンは隣に座る彼を見ながら、そうそう、と一人納得した。寄り添わなければ、わからないことだってたくさんある。
「大体、やることが中途半端なのよね。私が転びそうになったからって、後ろから急に手だけ引くのは良くないわよ、良くない。バランス崩して、前につんのめることぐらい予測できたはずよ。おかげで、私らしくもないみっともない姿見せちゃったじゃない」
今度はレイの左目も細くなった。あーあ無茶を言って、とシンは思う。ルナマリアははたして、本当にこれで礼を言っているつもりなんだろうか。だとしたら、どの口叩いて、彼女はシンのことを「失礼な奴」だと言えるのだろう。言うなら言うで、その権利を申請しろ、権利を、シンは胸の中で憤った。必要事項を明記して、シン・アスカ権利事務局まで至急連絡の必要有り。
「ならば問うが……一体何が最善だったと?」 
シンにはわかる不機嫌さ全開で、レイが足を組む。これは本格的開戦に至ったな、とシンは確信した。自分だとどうもカッとしてしまって覚えていないことも、他人の喧嘩だといい感じにどうでもいい(はずなのだが、この2人の口論は後々彼にまで影響を及ぼすので油断は禁物だ)。でも、レイが目に見える仕草で不機嫌さを露わにするってことは、結局はルナマリアと同じ。大分難易度は上がるけど、シンにはわかる。
でもそれを口に出すのは、ひどく馬鹿馬鹿しいような気がした。こういう場合の適切な表現は?思い出して、シンは思わず砂でも吐き出したい気分にとらわれる。
「腹部の保護よ」
してやったり、という顔でルナマリアも応戦する。何のこっちゃとシンは呆れたが、この戦争において、理屈とか常識とかは遠い砂漠に埋めてきても構わないのだ。そこに主題があるわけでもなし。
「こう、つまずいて前に倒れる寸前に、何て言うの?さっと手を差し出して、前から支えて欲しいわけよ。急に後ろから手を引かれるよりは、そっちの方がよっぽどいいの。安全だし、何よりびっくりしないわ」
あ、でも差し出す手が握り拳なのはNGね、とルナマリアは両手で×マークを作ってみせた。それはまあ、助けられるかわりに一発腹にくらうなんて、たまったもんじゃない。レイがパンチでもしたら、どんな感じなんだろうなとシンは想像した。部屋に2人でいて、シンが一方的に憤慨していることはあっても、レイが仕返しをしてくるということはないのだ。まるで一方的なブラックホールみたいに、人の怒りも悲しみも、同じようにぐんぐん吸収してしまう。
「しかし、手を前に出したら出したで、ルナマリアはその出し方に文句をつけるような気がするが」 
だから、こうしてレイが時たまルナマリアと対戦するのは、ある意味良いストレス解消にはなっているんじゃないか、シンは思っていた。もう今回で何回目になるんだ、アカデミー時代からのものも全てカウントに入れたら、果て無き攻防の全貌が明かされる。「対戦の傾向と対策」なんて作っても無駄だよ、試合結果はやる前から、激しい接戦の末に引き分けするって決まってるようなものだから。
でも、と口を開いたルナマリアを見上げながら、シンは心の中で仰々しくため息をついた。
「それはそれ、今はレイの話をしてるのよ」
お、ルナ選手、レイ選手の攻勢を覆しました。マイクでもあれば悪ノリできるのに、それすら無いのが、この戦いの妙に平和じみたところだ。
両腕を頭の後ろにしいて、シンはぼんやりとそんな2人の姿を眺め続ける。手は出さない、横やりも入れない、入れてもどうせ、相手にはしてもらえない。更に腹が立つのは、2人がこの喧嘩をあえて俺に見せつけようとしてること。シンは普通にしていても怒ってるみたいだと言われる、その燃えたぎる瞳を閉じて考えた。 思うに、多分普段レイに一方的な感情をぶつけているシンが、妙な罪悪感に駆られないよう、予防線を張っているつもりなんだろう。大丈夫、こうしてぶつかってるから大丈夫、溜め込んでることなんかない、ってむしろぶつかりあう2人に余計なものを溜め込みそうだ。
「いつもそうじゃないか。ルナマリアは自分の都合が悪くなると、いつも話の筋をそらす」
そんな2人に対して、保護者面のつもりか、と考え込んだ日々もあったけれど(何せアカデミーに入ってすぐの頃の自分がどれほどひどかったか、わからずにいるわけじゃないんだ、考えたくはないだけで)それにしちゃ乱暴すぎる。百歩譲ってルナマリアが母親(これは失言だった)、ではなく父親役で、レイが母親役だったとしよう。流れを引き継いで息子役に甘んじてやってもいいが、それなら息子を置いて口論を繰り返すこの2人は何なんだ。思春期の家庭環境が、人格形成に大きな影響を及ぼすってことを、まるで配慮していない、まるで配慮していないようで、でも実は配慮しているのが(つまりシンに心配させまいとしていることが)だからこそなおのこと勘に障るんだ。
気のせいかと思わせるほどさりげなくて、つかみどころもないのに確かにそこにある。散々苛立たせて、気を遣わせて、最後にはそろって救い上げてしまう。
そこが勘に障るんだ。
勘に障って、嬉しいからなおさらどうしようもない。
「話の筋をそらす、って」
でも、2人がこうして言い争う理由がそれだけではないことぐらい、シンにもわかっている。子どものことばっかりってのも、正直嘘くさいような気がするだろ?だから草をかき分け、森の奥に分け入ったら、さりげなくても土の底に埋められている本当の理由が見つかるんだ(だって足跡が消えることはないから)。2人といつも一緒にいて、よくよく目をこらさないとそれは難しいけれど。
「それはレイも同じでしょう?そもそも、転びそうになって本当に転んだ私は被害者なのよ?」
「しかし、加害者は俺じゃない」
「そんなことわかってるわよ、そんなこと言ってたらこの口論は成り立たないじゃない。そういうことじゃなくて、だから私が言いたいのはって……え?」
大分前に言ったけど、この2人は左右対称じゃなくて、反対方向に全力で走り出してるようなものなんだ。
ルナはつまずきながら、そしてレイは軽やかに、その走り方さえ両極端に。
それでも始終ぶつかりあって、飽きもせずに口論してるって?
作品名:仕方ない 作家名:keico