Not都市伝説に効く薬(お味噌味)
「アイドルはトイレに行かないの☆」なんていう伝説というか話がある。いや、今もあるのかもしれないが・・・・・・。
少なくとも、『懐かしのアイドル出演!』みたいな番組を家族で見た時、「昔のアイドルはね」と昔の思い出を語る母の話を聞いて思わす吹き出してしまった帝人には、全くもってなじみがない話だ。
ちなみに、今で言うところのイケメンにも、それは当てはまるらしい。何それ都市伝説(笑)?
尾籠な話だが、人間なんだから、トイレに行くし、汗だってかく。オナラだってするだろう、そりゃ。
とはいえ、この摩訶不思議な首都においては、都市伝説のはずの「首なしライダー」が実在するわけで。
しかも、帝人は当の「首なしライダー」と割りと友好な関係を築いていたりするわけで――。
欧州出身の妖精さんだって実在するのだ。飲まず食わず、排出するものは爽やかなミントフレーバーの二酸化炭素だけ☆なんてビックリ人間(ただしイケメンに限る)も、いるかもしれない。
非日常を愛し望む身としては、そういうものが実在するのは喜ばしい事だ。
ただ、自販機を投げつけるなど、普通の人間にはできないド派手なことをやらかすビックリ人間(しかもイケメン)が既に身近にいるので、もし仮にエコカーよりも自然に優しいビックリ人間がいたとしても、残念ながらインパクトは薄いだろうが。
――――話が逸れた。
つまり、帝人が思うことは一つ。
折原臨也は「普通」の人間である。
何を当たり前なことをと言うかもしれないしれないが(むしろ、臨也を「普通」と言うことに対する反論が殆んどかもしれないけれど。)、イケメンの部類にがっつり入るのだから、とりあえず都市伝説になる資格はある。
しかし、悪逆非道で冷酷無慈悲で「人、ラブ」を謳う色々残念なイケメンは、どうやら都市伝説じゃないらしい。
「血も涙もないのか」「お前の血は何色だ!」「アイツ、人間じゃねぇ」などなど、テンプレな割りに現実では耳にしない罵り言葉を実際に言われている男だが、血も涙もあるし、血の色は赤血球を寄せ集めた色だ。
つまり、大変遺憾ではあるが、生物学的な意味では「普通」の人間だ。
なので、トイレにもいくし、汗もかく。オナラ――は未確認だ。そんなの知りたくもないので、今後とも確認はしない方向でいく。
そして、酒を飲めば酔うし、酔っ払えば、その足でわざわざ帝人のアパートを訪ね、帝人に絡んでは泣いたり笑ったりするし、回りすぎた酒のせいで人の膝めがけて嘔吐もするし(自分の衣類には一切被害を及ぼさない吐き方なのが腹立たしい。)、帝人が慣れない介抱をしている最中、爆睡して酒臭い寝息を吐き出したりもする。
――――最悪だ。
帝人は、隣で寝る臨也を忌々しそうに見た。
未だに酒臭さを発散させる塊は、ピクリとも動かず眠っている。爽やかな朝に全くもって相応しくない光景だ。
ふと、いつだったか、幼なじみに説かれた言葉を思い出した。
曰く、『みっかど~! 知ってるか? 男の寝顔や寝起きの顔ってやつは、女のハートをキュンキュンさせる効果があるんだぞ!!』
テレビか何かの受け売りかと問えば、実話だと自信満々に胸をはって、それはそれは誇らしそうに返されたが・・・・・・。
(正臣、あれってやっぱり嘘だよね?)
目前の寝こける酔っ払いを観察。酒のせいか少し浮腫んだ顔、そしてうっすらと無精ヒゲ。
いかに臨也がイケメンであろうとも、この寝顔にトキメキだのキュンだのは感じない。そう思うのは、帝人の性別が男だからか――。
(世の女の子はすごいなぁ)
妙な感心をしながら、一人得心。
女の人ハラショー。確かに、男の悪い所もそっくり受け止める度量が女の人にはある気がする。
その時、帝人が思い出していたのが張間美香など、どう考えても規格外の人間ばかりだったのだが、それに対して突っ込める者は残念ながらいなかった。
男臭いかっこよさというよりは、中性的な綺麗さを兼ね備えたスマートなかっこよさを感じさせる臨也は、自分の魅力というものを正しく理解しているのだろう。日頃、きちんとヒゲをあたっているのか、未だかつて、帝人は臨也のヒゲ面を見たことがなかった。
そもそも寝顔からして初めてだ。
(う~ん。結構、貴重なのかも?)
この男のことだから、夜を共にする相手に事欠かないかもしれないので定かじゃないが――と下世話なことを考えてハッとなり、頬を染めながら慌ててそれを打ち消す。
(今のは、そういんじゃなくて・・・・・・とにかく今の無し!)
――ともかく、貴重といえば貴重なのだろう。
寝顔にヒゲがプラス。良い意味で言えば常より男臭さがアップ。しかも、それを見る機会は限られる。
(う~ん。・・・・・・・・・・・・あ、女の子の気持ちが少しだけ分かったかも。レア度が高いものって見られると嬉しいよね。そっかー。――――いや、僕が分かっても仕方ないんだけどね)
一人ノリッコミを終え、自分の中で結論を出し終えた帝人は、漸く布団から出ることにした。
そして、身支度を整えると、カーテンを開けて朝日を取り込み、ついでに窓も開ける。
帝人が朝も早くから起きる原因になった酒の臭いを外へ逃がし、代わりに新鮮でひんやりした朝の空気を取り込む。そうすると、いくらか気分がスッキリしてきた。
足下で何やら不機嫌に呻く声が聞こえるが、そんなもの無視だ。無視。
独り暮らし。しかも、今日は休日。溜まった洗濯物、掃除、買い出しなどやらなければならないことは山ほどある。
そのためにも、この男に出て行ってもらわなければ。
どうせなら少し離れたところにある激安スーパーへ買い出しに付き合ってもらい、お一人様1パック限りの商品を2つ分手に入れたりしたいが、おそらく、「は? なんで、俺が君の買い物に付き合わなきゃならないの?」と、にべもない言葉が返ってくるだろう。
もしかしたら、気分次第ではOKかもしれないが、昨日の様子を鑑みるに、二日酔いなのは確実だろうから(帝人の父は酔って帰ってきた翌日、いつも二日酔いになっていたので、臨也もそうだろうと判断した。)、気分は最低に決まっている。期待するだけ無駄だ。やはり、早々にお帰り願おう。
作品名:Not都市伝説に効く薬(お味噌味) 作家名:梅子