独占欲 『あめ』
『あめ』
「ごちそーさま」
「じゃあお茶をいれるよ、それともコーヒーがいい?」
「いや、もう仕度して行かないと」
そう言って、昼食の後茶渡は荷物を取りに隣室へ行った。石田はしぶしぶ空になった食器をキッチンへと運ぶ。
茶渡は教授に頼まれて手伝い始めたフィールドワークが性に合っていたのか、研究だと言って年の殆どを外国の、あまり文明の匂いのしない土地で過ごし突然帰ってくる。今回も南太平洋だかインド洋だか知らないがその辺りの島へ行って昨日帰ってきたのだが、すぐまた飛ぶという。
「今度は国内だからすぐ帰ってくる」
というが、場所が1日一便のプロペラ機でしか行けない離島ではいつもと変りはない。
『三ヶ月も帰ってこないで、またこれか?』
だったら帰ってこないでホテルにでも泊まって移動すればいいのに、と石田は思った。
帰ってきている間だけはできるだけ隣にいればいいのだろうが、石田には同じ屋根の下にいるというだけが精一杯だった。いなくなった後を思うと、生身の茶渡に触れない。
泡立てたスポンジで茶渡のご飯茶碗を洗い始めた時、
「なぁ、パーカー知らないか?」
と暢気な声がした。
「知らないよ、その辺にかかってるんじゃない」
言うと少し間を置いてから、あーあったあったとまた暢気な声が聞こえた。着ていくものはいつも決まっている、だからわざと部屋の奥にしまっておいたのに。
生活用具から一切合財を詰め込んだ巨大なリュックを持って茶渡がキッチンへやってきた。そしてそのまま玄関へと向かおうとするのを、石田は手を泡だらけにしたままその腕を掴む。
「これを洗うまで待てない?」
「今出ないと間に合わなくなる」
「空港まで送る」
「雨竜」
諭すように呟かれた声で、石田は手を離した。
「ごめん。…今度、いつ戻ってくるんだっけ?」
「予定は一週間だ」
そう言って、その期間に帰ってきたことなど一度もない。また気長に待つか、と石田は日に焼けてかさかさになった茶渡の顔を見上げた。
「分かった」
そう言って唇を触れ合わせたことが今更のように恥ずかしかった。
「ごちそーさま」
「じゃあお茶をいれるよ、それともコーヒーがいい?」
「いや、もう仕度して行かないと」
そう言って、昼食の後茶渡は荷物を取りに隣室へ行った。石田はしぶしぶ空になった食器をキッチンへと運ぶ。
茶渡は教授に頼まれて手伝い始めたフィールドワークが性に合っていたのか、研究だと言って年の殆どを外国の、あまり文明の匂いのしない土地で過ごし突然帰ってくる。今回も南太平洋だかインド洋だか知らないがその辺りの島へ行って昨日帰ってきたのだが、すぐまた飛ぶという。
「今度は国内だからすぐ帰ってくる」
というが、場所が1日一便のプロペラ機でしか行けない離島ではいつもと変りはない。
『三ヶ月も帰ってこないで、またこれか?』
だったら帰ってこないでホテルにでも泊まって移動すればいいのに、と石田は思った。
帰ってきている間だけはできるだけ隣にいればいいのだろうが、石田には同じ屋根の下にいるというだけが精一杯だった。いなくなった後を思うと、生身の茶渡に触れない。
泡立てたスポンジで茶渡のご飯茶碗を洗い始めた時、
「なぁ、パーカー知らないか?」
と暢気な声がした。
「知らないよ、その辺にかかってるんじゃない」
言うと少し間を置いてから、あーあったあったとまた暢気な声が聞こえた。着ていくものはいつも決まっている、だからわざと部屋の奥にしまっておいたのに。
生活用具から一切合財を詰め込んだ巨大なリュックを持って茶渡がキッチンへやってきた。そしてそのまま玄関へと向かおうとするのを、石田は手を泡だらけにしたままその腕を掴む。
「これを洗うまで待てない?」
「今出ないと間に合わなくなる」
「空港まで送る」
「雨竜」
諭すように呟かれた声で、石田は手を離した。
「ごめん。…今度、いつ戻ってくるんだっけ?」
「予定は一週間だ」
そう言って、その期間に帰ってきたことなど一度もない。また気長に待つか、と石田は日に焼けてかさかさになった茶渡の顔を見上げた。
「分かった」
そう言って唇を触れ合わせたことが今更のように恥ずかしかった。