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蝋梅の願い

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青い空に浮かぶ雲。
その下にはまた違う青色で広がる海。
ここニルバ島は群島諸国最南端の島で、ファレナ女王国との国境に近い事もあり、旅客船や交易船、使節船など、様々な船の中継地点として活気に満ちている。
「ここに来るのも久しぶりだな」
港の端で、停泊する色々な船を眺めながら罰の継承者リクリは懐かしそうに言った。
「気楽に言うよな~お前」
リクリの言葉に、彼の隣でテッドが溜息をついた。
「まぁ…確かに気楽に構えていられる状況じゃないけどさ。
久しぶりに来た事には変わり無いじゃないか」
そう言って、リクリは両手を上げて大きく伸びをした。
およそ150年程前に勃発した群島解放戦争以来、リクリとテッドは共に行動してきた。
「ま、懐かしがるなとは言わないけどさ。お前の故郷だしな」
テッドがそう言うと、リクリは少し複雑そうな顔をした。
「国の規模で言うなら、そうなるんだろうけどね。
でも、僕が育ったラズリルは正確には群島諸国じゃなくてガイエン公国だったし。
ニルバ島で生活したわけでもないし、それで懐かしいかと聞かれてもかなり微妙だなぁ」
「それもそうだな」
短く答えるとテッドは眼前に広がる海を眺める。
リクリもつられて視線を海に向けた。
ここからは見えないが、この方角を北上すれば生を受けたオベル島が、更に北西に進めば十五年間を過ごしたラズリル島がある。
どちらの島も、リクリには大切な故郷だ。
「故郷…か」
ふと、リクリが呟いた。
テッドが無言でリクリを見ると、リクリは少し悲しげに微笑んだ。
「ファレナの内乱、早く終わるといいな…って、思ったんだ」
「………そうだな」
言葉に迷い、テッドは少し間を置いてそう答えた。
言葉に迷ったのは、自分達が数日前までファレナに居たからだった。
5年程前からファレナをあちこち見て回っていたので、ここ数年の間に起こった事件などは、だいたい分かっている。
そして太陽宮が陥落し、誰もが内乱・戦争の勃発を感じ始めた頃、ソウルイーターが争いを大きくしないかと不安になったテッドがファレナを離れようと言い、2人は戦火を避ける様にニルバ島まで移動したのだった。
「…悪ぃな。俺の我が儘に付き合わせちゃって」
すまない…と、テッドはリクリに言う。
だが、リクリは首を横に振った。
「テッドの取った行動は正しいよ。僕たちはファレナの人間じゃない。
内乱を目の当たりにしたからと言って、どうこう出来るわけじゃないし、お節介をやけるだけの大きな理由も無い。
だから、僕らに出来る事は争いを大きくてしまう可能性を持つ紋章を遠ざける事だけだよ」
そう言ったものの、やはりリクリの顔は悲しげな色を消さない。
首を突っ込みたいって顔に書いてあるぞ…と、言おうとして、テッドはその言葉を飲み込んだ。
リクリがファレナの内乱に首を突っ込みたいと思っているのは事実だろう。
だが、それはお節介でも正義気取りでも無い。
150年程前、盟主という立場で戦争を経験した上、リクリはオベル王国の王子だった。
だから、他意は無く純粋に放っておくのが辛いのだろう。
だが、それで首を突っ込んでどうこう出来るかどうかという事など、考えなくても分かる。
顔から悲しげな色が消えない理由はそこにあった。
「リクリ…」
テッドはそんな友の名を言葉にする事しか出来なかった。
悲しい思いをする友を励ますどころか、結果的にはそれが正しくても、自分の我が儘に同意させてしまっている自分が悔しかった。
戦地は避けたいが、友の悲しい顔もまた見たいものでは無い。
このままファレナを後にして、本当に後悔はしないのか…?
それぞれ違う立場から2人はそう思い、視線を港に移す。
そうすると、まず目に入るのが群島諸国連合艦隊旗艦、リノ・エン・クルデスだ。
停泊する船の中で最も大きな船に付けられたその名前は、群島諸国連合を発足した時のオベル王にしてリクリの父。
「あの船ってさぁ、連合発足と同時期に初代が出来たんだよな」
テッドが言うと、リクリは船を見ながら頷いた。
「うん。あの船は5代か6代目くらいだろうね。
ずっと受け継がれて来てるのは、リノ王がそれだけ皆に慕われているからなんだよね」
そう言ってリクリは両目をゆっくり閉じ、今は遠い過去を思い出した。
「僕は幼い頃、海難事故で肉親と十五年間生き別れていたから、リノ王を父と呼んだのはほんの数年だけだった。
それでもあの人の偉大さは今でも忘れられないからね」
「そう言うお前だって、随分と慕われてるじゃないか」
「え?」
リクリのすっとぼけた返答に、テッドはやれやれ…と、小さく息を付いた。
そして、わざとふざけてこう言った。
「[この島は、昔に起こった群島解放戦争を勝利に導いた英雄・リクリ様が過ごされたから、リクリ島って呼ばれているんだ]」
「か、からかわないでよ!!」
リクリ島に住む島民が教えてくれた内容をそっくりそのまま言ってみせたテッドに、リクリは顔を赤くして言い返す。
「だいたいあの島は無人島だったんだよ。
偶然漂着して、壊れた船を直してる間の数日間しかその島に居なかったのに。
何であんな名前が付いたんだろう?
いつの間にか人も住んで名所になっちゃってるし…」
「たったそれだけの事で島に名前が付く程、群島解放戦争は大きなものだったのさ」
「…うん」
テッドの言葉に、リクリはゆっくりと頷いた。
あの戦争がどれだけ大きなものだったか、島民の願いがどれほど込められていたか。
それが分かるから、他者が自分を英雄と呼ぶ事や、何かに名前が付く事については否定しなかった。
否定はしないが、困惑する。
リクリは複雑な表情で波打つ海面を見下ろした。
「!!」
海面を見下ろしたのとほぼ同時に紋章の気を感じて、リクリはハッと顔を上げてテッドを見た。
テッドも紋章の気を感じ取り、リクリを見るその顔には微かな緊張が滲んでいる。
「…お前も感じたか」
テッドの言葉にリクリは無言で頷く。
そして、2人は紋章の気を追って町の方を見る。
「…真の紋章じゃないみたいだけど……何だろう?」
「ああ。だけど普通の紋章とも違うな。それも2つだ」
「うん…」
視線はそのままで、リクリは短く答える。
紋章の気はゆっくりと近付いて来る。
緊張を徐々にに大きくさせながら、2人は近付く紋章の気を待ち構える。
やがて、数名の男女が何か話しながら歩いて来た。
歩いて来るのは5人。
リトーヤという愛称で親しまれるファレナ女王国の王子・リトーヤソールと、彼に付き添う護衛のリオン。
そして剣士ゲオルグ、群島諸国連合艦隊提督スカルド・イーガンと、彼の娘ベルナデット。
どうやら、彼らのうちの誰かが2つの紋章の主らしい。
「!」
リオンとゲオルグが、リクリとテッドに気付いて歩みを止めた。
それとほぼ同時に、他の3人も立ち止まる。
片や紋章の気配に緊張し、片や緊張の眼差しを向けて来る少年達が気にかかる。
互いに何も言い出せず、暫く無言で向き合う形になった。
だが、呼吸10回程の時を置いて、その沈黙は意外な所から破られた。
突如、リクリの左手とリトーヤの腰に括られている革袋が同時に光を発したのだ。
「な…」
リトーヤが慌てて革袋を腰から外し、光の元を取り出した。
作品名:蝋梅の願い 作家名:星川水弥