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四日間の奇蹟

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乾いた 風を素肌に 受けながら

口笛吹く 君は あの空の色

                (「クロニック・ラブ」中谷美紀)




四日間の奇蹟




一瞬の閃光が俺の視力を奪った時、頭と左肩とに衝撃を感じて同時に周りの音も消えた。否、聞こえなくなったというのが正しいだろう。そして、次に視力が戻った時、眼前には現実とは思えない光景が広がっていたのだった。
燃え上がる炎と、空に向かってもくもくと上がる黒煙。
人間の足が視界の間近で行ったり来たりする中で、こめかみの辺りに痛みを感じた。そして、俺は倒れているのだと、その時了承した。
急いで立ち上がろうとついた左手の下に俺の割れた眼鏡の破片があり、俺はそれで手のひらを切った。
身体全体に傷みの感覚が戻ってくると、それと同時に今度は一気に周りの音も戻ってきて俺の耳を劈いた。
人々の悲鳴、逃げる人の足音、それに混じって圧迫感のある海音が聞こえた。普段なら心地よさを感じさせる波の音が、この場ではなんと人々の恐怖をかりたてることだろう。
俺は傷を負った左手を確認する。ほんの数ミリ切れただけだ。大丈夫だろう。
割れた眼鏡を胸のポケットに入れ、立ち上がって周りを見渡す。近くにいたはずの岳人達がいなかった。俺が一瞬気を失っているうちに、人混みに紛れてはぐれてしまったのだろうか。
焼けた航空機の機体の周りには救急隊員達が集まっていて、その遠巻きには航空ショーの観客達も群をなして成り行きを見守っていた。傷の手当てを受けている者。呆然とただ眼前に広がる光景を見ている者。周りの者としきりに言葉を交わしている者、携帯電話で話している者。カメラで写真を撮っている者。中には、炎の周りで悲鳴を上げながら泣き叫ぶ者もいた。事故に巻き込まれた連れ合いがいるのだろう。
俺はよろよろとその航空機が墜落した場所まで近づいていった。銀色の鉄柱の先につるされた大きな旗が、強い海風ではためいていた。


たしか。


たしかこの辺だ。跡部と宍戸がいたのは。
周りを見渡すがそれらしい人影は見えなかった。どこかに逃げたのだろうか。俺と他の部員達とはすこし離れた所にあの二人はいて、そしてそれはこの旗の近くだったように思う。その旗のすぐ真横ではもうもうと黒煙を上げながら燃える航空機の機体があった。まさかと思い、その現場を目を凝らして見てみたが、作業をする救急隊員達と消防士、人垣、そして現場を覆い尽くす勢いで燃え上がる炎と煙で、よく見えなかった。
俺は悪い予感を感じながらも、それを頭の隅に追いやり、とにかく仲間のテニス部員達を探すことに専念した。
ふと見上げれば、空はカラリと晴れた青空で、その青さが目に痛かった。白く眩しい雲がのんびりと流れ、その光景と目の前の惨事とのギャップがあまりに強すぎるので、俺はこの空の青さが憎々しげにさえ写ったのだ。
俺は岳人達を探しながら、今の状況を理解しようと頭を巡らした。








それは、跡部が家の用事で留学先から帰ってきた秋の日の、土曜日の事であった。
久しぶりに、引退した自分達三年生が氷帝テニス部に集まったので、東京湾で行われる航空ショーをみんなで見に行くことになったのだ。
言い出したのは宍戸だった。

「だって滅多に見れないんだぜ?」
宍戸は、 なあ、と隣にいた岳人に同意を求める。
「そうそう!行こうぜ!航空ショー俺も見たい」
宍戸と岳人は、目をキラキラさせて皆を見回した。ジローも、うんうんと嬉しそうに頷いている。
「まあなぁ、今日はええ天気やし、航空ショー日よりとでもいうんかなぁ」
俺はまるで子供のような三人を見て思わず笑ってしまった。
「いいですねぇ。航空ショーって、俺まだ見たことないんですよ」
と言ったのは鳳。樺地も頷いている。意外に日吉も行くという。日吉も、まだ見たことがなかったのだろうか。ということは、満場一致にはあと一人。
「なぁ、跡部!行こうぜ」
宍戸は、部室の端の方で着替えていた跡部の方を向いて言った。
「あぁ?俺様は忙しいんだぜ。そんな暇ねぇよ。だいたい子供じゃあるまいし、そんな航空ショーの一つや二つで騒ぐんじゃんねぇ」
振り返った跡部は、眉間に皺をよせて、宍戸の意見を突っぱねった。
「何言ってんだよ、自分だって子供のくせに」
「ああ?もういっぺん言って見ろ」
「そうやって喧嘩っ早いのが子供だって言ってんだよ」
「んだと?誰に向かっていってんだ」
「お前だよ、お・ま・え。この万年ナルシスト」
「あんだとこの頭すっからかんのテニスバカ」
「テニスバカはお前もだろ」
お互い部室の真ん中で喧々囂々、にらみ合って一歩も引こうとしない。こういう時に間に入って二人を止めるのはいつも俺の役目だった。
「はいはい二人とも、そこまでや。宍戸、跡部都合悪いんやて、俺達は行くから、それでええやろ」
俺がそう言うと、宍戸は横を向いて、
「だってせっかくみんな揃ったのによぉ……」
と口をとがらせた。
跡部を見ると、口を真一文字に引き結び、眉間に皺を刻んで半眼の表情。一見もの凄く不機嫌そうに見えるその顔は、実は跡部が困ったときによくする表情だった。
盛大なため息が聞こえた。
「……たく、わかったよ。行けばいいんだろ。それ見たらすぐ帰るからな」
跡部がそういうと、宍戸はぱっと顔を向け、これでもかという笑顔で、
「よっしゃ!」
と言った。
跡部は宍戸のその笑顔をみて、ますます不機嫌そうな顔をする。
結局この二人、なんだかんだ言っても仲がいいのだ。






そういう訳で、みんなで航空ショーを見にこの東京湾まで繰り出してきたのだった。


秋空の下の港は、天気がいいせいかやはり風が強く、波もすこし高いようだった。小気味良い飛行音を響かせながら規則正しく飛び交うジェット機の、青空のキャンパスに引く雲が、あっという間に流れてしまうのを、俺は少しもったいないと思いながら、その銀色の機体と白線の織りなす芸術作品にしばし見とれていた。
ふと視線を戻して前方を見ると、俺達と同じように航空ショーを見ようと詰めかけた観客の人垣の向こうに、宍戸の青い帽子を見つけた。その横にいるのは、どうやら跡部らしい。この人混みではぐれてしまったのだろう。跡部のすぐ横に、コンクリートの台座にたった鉄柱があり、そのてっぺんには青い大きな旗が揺れていた。港の旗なのだろうか。その旗を見やり、そしてまた視線を空に戻す。
ちょうど二台の航空機が、車輪を描くように一回転して一点に集約するかのように近づく所だった。わっと歓声が起きる。
しかし、それは突然起こったのだ。
見事に空の一点ですれ違って見せた航空機は、その直後に別の一台と並んで飛行しようとして接触した。
作品名:四日間の奇蹟 作家名:310号