四日間の奇蹟
閉じる瞳 «Ositari+Atobe side»
「もう大丈夫なんか?退院して」
「ああ。すっかり元通り。前より調子がいいくらいだぜ」
跡部は、茶色の髪をはためかせてニヤリと不敵に笑った。
その視線の先には、午後の太陽が照りつけるコートがあり、部員達が威勢の良い声を上げて練習に取り組んでいた。小気味良いインパイクト音が響いてくる。
「お前、バケモノ並の回復力やなぁ……」
俺が呆れた声を出すと、跡部はフンと笑って、
「お前ら凡人とは出来が違うんだよ」
と、憎まれ口を叩いた。
すっかり元の跡部に戻っている。
跡部の手術が成功して、跡部が退院するまで一週間ちょっとの時間しかたっていない。脳を痛めたのに、後遺症も全くなく、しかもこの回復力。医者達は口を揃えて奇蹟だと言った。
たしかに。これは奇蹟以外の何物でもないだろう。跡部は、奇蹟に助けられ、いや自分の力で奇蹟を引き寄せ、そして自らの強い精神力でここに再び戻ってきた。
やはり、あの虹は奇蹟を呼ぶ虹だったのだ。
俺は、すっと伸びた跡部の背中を見てそう思った。
「おーい!お前らぁ!そんなとこでサボってんなよ!試合やろうぜ!」
見ると、宍戸がラケットを持った手を掲げてこっちを見ていた。岳人も、手を振ってぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ああ?俺様と勝負しようってのか。いい度胸じゃねぇか。じゃお前らペアな」
「ええ!宍戸と?」
「何がええ何だよ。こっちこそお前のフォローなんてしたくねぇ」
「チーム跡部・忍足ねぇ。こりゃ最強やな」
「おい!こっちはハンデ抱えてんだぜ。そのチームはないだろ」
「なにがハンデだって!」
「お前のアクロバティック、俺には面倒みきれねぇんだよ」
「じゃ、跡部・忍足ペア VS 宍戸・向日ペアの試合はじめまーす」
「おいこらジロー!勝手に進めてんじゃねぇ」
「ええやないか。面白そうやで」
「おい宍戸、お前もいいかげん俺様に勝ってみせろよ」
「なんだと!」
「はいはいりょーちゃんも景ちゃんも、けんかしない。いっくよーベストオブワンセットマッチ、忍足トゥーサーブ!」
俺は、久々のボールの感触を確かめるように、じっとボールを見つめた。じわじわと試合の感覚が戻ってくるのを感じる。高くボールを宙に放り投げると、そこには眩しい太陽と抜けるような青空があった。
もうすっかり元に戻ったのだ。元通りの俺達の日常。賑やかな声、弾ける笑い、眩しい笑顔。
耳元で、気持ちのいいインパクト音がなった。
「フォルトー!」
「あかーん!」
「おいおい、大丈夫かぁ?そんなんで俺様のペアがつとまるのかよ」
「今のはちょっと太陽が眩しかっただけや!」
「はいはいわかったから、侑ちゃんサーブ!」
「くそ、信じてへんな……」
俺は、目の端に浮かぶ涙を気づかれない様に拭って、再びボールを握った。