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四日間の奇蹟

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俺は目を閉じ、天に向かって祈った。


その時、額に、日の当たる温かい感触を感じた。
目を開けると、東の空の雲間から、薄暗い空にいくつもの光の筋が差し込み、霧雨がキラキラと光っていた。まるで光のカーテンのようだ。そう思った。
「宍戸、夜明けや」
「ああ……」
俺達は、屋上のフェンスの所まで歩いていった。雨はもうほとんど止んでいる。太陽の光を受けて、金の糸のように見えるそれは、とてもきれいだった。
俺は、ふと不安に襲われた。雨が降り終わった空に、雨粒が太陽に照らされてできる、それは虹。もしや、あの光の反対側に、白い虹ができているのでは。
ジローと帰ったあの日、夕方の空にぼんやりと白いアーチがかかっていた。その一ヶ月後、あの事故が起きた。白い虹は、不幸が起きる前兆だという。
もし、空に白い虹が架かっていたら。俺は、鼓動が早くなるのを感じながら、恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには、俺の予想を裏切り、ただ明るくなった薄青色の空が広がっているだけだった。
俺はほっと息を吐いた。
その時、後ろで、バンと扉が開く音がした。
振り向くと、ジローと岳人が立っている。
「侑ちゃん!りょーちゃん!」
二人はこちらに走り寄ってきた。ここまでずっと走ってきたのだろう。息を切らして次の言葉を繋ごうとしている。
「跡部が、跡部が」
「岳人、跡部がどうした!まさか……」
その時、岳人はジャンプして俺に抱きついた。俺はその弾みでよろめき、濡れた屋上の地面に尻餅をついてしまう。
「岳人!?」
岳人は、大きな瞳をめいっぱい開いて、その端には涙を溜めて、俺の肩を掴み言った。
「跡部、助かった……!助かった……!」
ジローを見上げると、彼も嬉しそうにうんうんと頷いている。
俺は岳人のその言葉が、じわじわと心に染み入るのを感じた。
跡部が助かった……。
そう呟いた時、頬に熱いものが流れるのを感じた。手で触れてみると、それは涙だった。涙は、ぬぐってもぬぐってもまたぽろぽろと流れ、音をたてて地面に落ちた。
自分の為に流す涙ならいらない。そう思ったが、その熱い液体はたがが外れたように次から次ぎへとあふれ出し、俺は止める事ができないのだった。
ぽんと肩を叩かれた。
見上げると、そこには宍戸がいた。
宍戸の目にも、太陽の光に反射してキラリと光る涙があった。
目の前の岳人も、そしてジローも、みな同じように泣いている。
俺はその時分かった。
嬉しいときは、泣いてもいいのだ。
「よかったね……」
ジローが涙まじりの声で呟いた。
その声は、すっかり明るくなった空の下で、みんなの心にずっとこだましていたのだった。
顔を上げると、太陽が雲から完全に顔を出し、明るい光を放っていた。屋上から見える街並みが、光につつまれて輝いて見えた。俺は涙を拭い、立ち上がってその風景を見渡す。
新しい朝が始まるのだ。
そう思った時、目の端にうつるものがあった。
振り返ると、太陽のちょうど反対側、雲がすっかりひけた青空の中に、七色に光る虹のアーチが架かっていた。
「見てみ、虹や……」
三人は共に振り返り、空を見上げた。
「今度は、綺麗な七色だね……」
ジローが涙を拭って呟く。
俺は、今まで虹がこんなにもくっきりと空に映えるものだとは知らなかった。その虹は、まるで青いキャンパスに七色のインクをのせたかのように、鮮やかに光り輝いている。
幸運の虹だ。
そう思った。白い虹が、不幸を招くものなら、きっとこの七色の美しい虹は、幸運を呼ぶ虹なのだ。きっとこの虹が、跡部を救ってくれたに違いない。
「景ちゃんにも、見せてあげたいね……」
「そうやな……」
「また見れるぜ。生きていればいつかな」
「うん……」
軽やかに吹き抜ける風が、俺の髪を揺らした。神々しい朝陽の光線が、見上げた目の端でキラキラと光っている。その光が濡れた地面に反射して眩しかったが、俺達は瞬きをするのも忘れて、その虹が消えるまで、ずっと空を見上げていた。



作品名:四日間の奇蹟 作家名:310号