二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

誰かの話をしようか、

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

 広すぎる校内で、ひとのいない場所を探すのはさほど困難でもない。特別教室も、そこへと続く廊下も階段も踊り場の隅も、夏休みを目前にしたこの時期にもなれば足を運んでくるひとのほうが珍しいくらいに閑散としているものだ。
 代々誰かが屋上の鍵を握っている、なんて中学時代の延長のような話には、最新設備を誇るこの高校はあまり縁がなかった。授業を抜け出して集まるようなひとたちがいないといえば嘘になるのだけれど、そういう彼等の格好の場所は裏手に幾らでも広がっているし、その気になれば街中に繰り出せばいいだろう。それでも視聴覚室とパソコン室と部室棟とそれから、幾つかの扉を開ける方法くらいは知っているなんて人様に言えないような知識ばかりは卒業生から引き継がれてもいたものだ。だからといって、いまのところ特別、何かに役立ったこともないのだけれど。
 まあ、そんなことをしなくても、使われもしない特別教室の鍵がそのまま開け放たれているものなのだ。これ幸いとばかりに昼休みに集団を抜け出して、空き教室に潜り込むのは俺の、この頃の日常茶飯事でしかなかった。
 別段、いつでもひとりでいるというわけでもないのだけれど、ふらふらと彷徨うことも周囲にはもう俺自身のキャラクターのように受け入れられていた。

 喧しいチャイムに起こされて身体を起こすと、壁にかけられている時計は予想よりも随分と遅い時刻を指し示していた。欠伸を噛み殺すように洩れた声が微かに口の中でかわいて掠れている。
 じりじりと窓の外を焦がす陽射しには変化のひとつも見られないのに、連日の徹夜が祟ったのだろうか。昼を食べてそのまま、空き教室の片隅で本格的に寝入っていたらしい。ばきばきと違和感を訴える背中に唸るように伸びをすると、座ったままの椅子が軋む音を響かせる。
 元々夜型の生活を好んではいるのだけれど、それにしても寝不足が続くのはどう考えてもこのところ余計に人使いの荒い友人―というには少しばかり御幣がある気もする―黒沼青葉の所為だろう。このところ鳴りを潜めていたのが嘘のように、夏休みの前哨戦とばかりに俺たちの周囲は喧しさを増していた。
 ブルースクウェアというカラーギャングの名前なんて、知らないやつのほうが大半の校内で、その活動が話題になることはなかった。
 それでも有象無象の集団になりつつあるダラーズに所属しているやつはそれなりにいるのだろうけれど、危ないことに首を突っ込むような輩とは無縁のような生徒が殆どなのだ。まあ、そんなことを言ってもそのダラーズの創始者も、かつて見たことのある黄巾賊の「将軍」もこの学校にいたというのだから、考えてみるとずいぶんと可笑しな話だ。それとも、池袋の街には奇妙なものを惹きつける何かがあるんだろうか。
「……ま、なんでもいいけど」
 放り出したままの携帯電話を開くと何度か呼び出してくれたのか、クラスメイトからの着信履歴で画面が埋まっている。
 やっちまった、とやる気もなく口先だけで呟いてからそのまま欠伸を噛み殺しながら身体を起こして特別教室を抜け出すと、静まり返っていた廊下がゆっくりとざわめきを取り戻していた。
 いまから行けば六時限目には間に合うだろう。
 別に休んだってサボったって構わないのだけれど、そればかりはどうにも躊躇う性格なのだから仕方がない。出席日数くらいは稼げるときに稼いでおこうとおもう程度には小物なだけなのかもしれないけれど。
 コンビニ袋をひとまとめにして廊下のゴミ箱に放り込んでから深呼吸を繰り返せば、寝不足だった頭が随分とすっきりしている気がした。
 幾つか届いていたメールを開いてみるとどれもこれもが似たような内容で、然して事態は発展も前進もしていないのだと知るだけだ。数人に「いま起きた」とだけのメールを送ってから、軽く肩を竦めるようにそのままポケットに突っ込んで足を向けた廊下の向こうに日常が広がっている。
 授業なんて聞いていてもいなくてもテストの点数がとれるだなんて言ってのけるような才能には残念ながら恵まれているわけでもない。それでもあとは夏休みを待つばかりの校内に、授業などあってないようなものだった。別段部活動にも委員会にも所属しているわけではないような俺たちからしてみれば、さっさと休みに入ってくれてもいいだろうと思うのだけど。
 ひとのいない場所を好んでうろついているのは、別に煙草を吸いたいわけでもなければ授業をサボりたいわけでもない。まあ、こうして結果的にサボっているということは不可抗力だということにしておくとしても。不真面目でも真面目でもなく可でもなく不可でもない。そんな、何ら特筆すべきものもないような一般生徒の一人でしかないのだ。俺は。
 それでもこっくりこっくりと授業中に舟を漕ぐのばかりは簡単に止められないものだから、いつだって寝不足な頭を抱えていることくらいはクラスメイトの大半が知っている話だった。それでも別に、そんなことは俺だけでもないし、こんな時代に授業中に居眠りをしている生徒なんて数えればきりがないだろう。
 パソコンに向かう時間を減らすのはなかなか難しいし、そもそも日常生活習慣の改善は言うほど簡単な話ではないのだ。結果としてぷかぷか寝息を吐きだす羽目になったってまあ、一年ならば進路に影響するわけでもない。
 池袋周辺では指折り数える程度のレベルに値する来良学園だけあって、それなりに頭の良い人物が多いというのは別段勉学に関する話だけでもない。余所の土地からやってくる生徒も多い所為だろうか、過度な干渉をしない連中ばかりなのは居心地が悪くもなかった。馬鹿みたいなことばかりしているやつらだって個人的にはそこそこ気に入っているのだけれど、まあ、そういうのとは何処か違った話だろう。何をしているのかと深みにまで足を踏み入れない程度の距離感が、丁度良く日常を支配していた。

 ブルースクウェア、と名乗るのをやめたのは随分と前のようで、そうでもない。それでも、中高生にとってみれば数年間は結構な長さでもあったのだ。カラーギャングと呼ばれるその集団が形成されたのは俺たちがまだ中学にあがるよりも前の話だと、いまになって考えてみれば世も末な話だ。
 それは当時流行したドラマの影響もあったのだろう、あの頃、この街は黄色と青色に染められていたものだ。俺たちにはまだ、怖いものなんてなにもなかったのが、もしかしたら背中を押していたのだろうか。きっと、快楽に夢中になってなにも考えていなかったと言っても過言ではない。
 似たような仲間たちでつるんでいたのが、いつからそんな風に変わっていったのかなんて今更、あまり考えることはない。気付いた時には策略を得意とした青葉を中心にすべては変わっていた。 
 愉しければそれで良かったし、多分、それはいまでも然して変わらない。俺たちはまだ子供で、だからできることもできないことも山のようにあるのだ。
作品名:誰かの話をしようか、 作家名:繭木