うそと嘘
痛いところを衝かれてハンガリーはグッと黙り込む。「でも、歓迎してくださるわよ、きっと……」と弱弱しい反論に舌打ちを返してなおもプロイセンは言い募る。
「俺様は重量級の女がずうずうしくも落ちてきた衝撃が今も抜けねぇんだよ」
「な、そんなに重くないわよ!」
「どうだか」
肩をすくめながら鼻で笑われてカチンと頭のどこかが鳴った。だからプロイセンが
「いってぇ!」
と足を押さえて飛び跳ねることになったのは、不可抗力なのだ。すさまじい威力で踵を落としたブーツに力を込めると、ハンガリーは一歩プロイセンから離れる。
「なによ、せっかくお茶の時間に誘ってやったのに!」
「頼んでねぇよ!」
「こっちこそ!」
にらみ合いながら少しずつ距離を離していく。触れたことなんてまるでなかったみたいに。
「この、恩知らずの男女!」
「デリカシー知らずの脳みそ筋肉野郎に言われたかないわよ!」
どうしてこうなるんだろう、と遠いところで考える。別に望んでいるわけじゃないのに。
「二度と、俺様の前に現れるんじゃねぇぞ!」
「そっちこそ、二度とその面見せんじゃないわよ!」
嘘だ。そんなことは叶わないと知っているからこその他愛もない嘘だ。けれど勢いだけはあったので、お互いにふんと顔を背けてそれぞれの道を歩き出した。大股で風を切っていたハンガリーだったが、ふと立ち止まって振り向いた。同じようにプロイセンがこちらを見ていたので驚く。向こう側でも小さく身じろぎしたのが分かった。空気が、動く。けれど距離はそのままだった。プロイセンが大きく口を開く。
「坊ちゃんによろしくな」
聞こえてきた言葉にハンガリーは笑った。どうして、と思った。
オーストリアは、楽譜を上司に届ける用事で夜まで戻らない。「夕飯はご一緒しましょう」という言葉に訪ねた先で頷いたはずだ。どうして、私は、屋敷の主がいないのに、あんなことを言ったんだろう。分からないまま、ハンガリーもまた口を開く。
「……そうね!」
嘘だ。