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隠す涙

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これでいい。
俺は自分に言い聞かせて目を閉じた。
目頭が熱かった。


次に目を開けた瞬間、強烈な西日が差し込んできた。
見ると、西の空が赤く染まっている。
もう夕方になっていたのだ。
フェンスの影が、みるみる長くなっていく。


「岳人、見てみ。綺麗や……」

岳人が顔を上げて、
胸に感じていた熱がふっと風に冷やされていく。


小高い丘のテニスコートから見る夕焼けは、
今まで見たこともないほど赤かった。
太陽がとても大きく感じ、薄く延びた層雲の境界線は、
赤い光で輝いて見える。
都心のビル群の窓が、夕日を受けて光り、
その黒と白のコントラストが目に眩しかった。

どんなに太陽の大きさが違って見えようとも、
実際は同じ大きさで、それは近くに対象物があることによってそう見える
人間の錯覚だということを、俺は知っていたが、
いざ目の前の燃えるような巨大な夕日を見たら、
本当にそうなのかと疑いたくなる。

沈む太陽の光線を受けて、俺の眼鏡のフレームと、
目の端に浮かぶ涙がハレーションを起こした。

光暈に囲まれた景色を見て、俺は好きだった映画のラストシーンを思い出す。

あの映画の、綺麗なエンディングのようにはいかないけれど、
それでも、この男の横でみる夕焼けは、今まで見たどの映画のワンシーンよりも
美しいと思った。


「侑士、綺麗……」

「ああ……。綺麗やなぁ」


ずっと見ていたいと思った。
この男の横で、いつまでも、いつまでも。
いつかは終わりがくるのだとしても、
俺は、岳人の隣を、ずっと歩いていたかった。
たとえ、岳人に自分の気持ちを伝える日がこなくても、
それでも俺は、あの笑顔を見るだけで救われる。
あの黄色い花が、ずっと上を向いて咲いていられるように。
時には強い風が吹いたり、冷たい雨が降りそそぐ時があったとしても、
それを支える事ができる手を、俺は持っていたいと思う。
もしも、自分の気持ちを抑える事ができなくなる日がきたのなら、
その時は、潔くその傍を離れよう。
花のような笑顔を、摘んでしまわないように……。




そして、俺達はしばらくその沈む夕日を眺めていた。




「ねえ侑士……」

不意に下の方で声が聞こえた。
見ると、赤い光に照らされた岳人の顔は、ためらいがちに伏せられた。



そして、震える睫毛をしばたかせ、

「……これからも相方でいてくれる?」

と言った。




俺は笑顔で応える。


「もちろんや!」


眼鏡の奥に、涙を隠して。





end





青ざめた空 今日も太陽は一人微笑んだ

あんな風に 強く生きたいと

途方に暮れて 時間が過ぎる


輝くことを知らない 小さなダイヤモンド

あの優しさに 触れるだけで

心の色は澄んでいくのに


愛は悲しいから いつも儚いから

涙が溢れるばかりで


もう一度だけ 微笑みかわせたら

あなたを連れてゆく 情熱の彼方へ



深いため息 窓の向こうは滲む風の町

張り裂けそうな この情熱は

もうこれ以上 届かないの?


嗚呼 あの交差点で 嗚呼 初めて気づいた

思いきり 背伸びするより

等身大の自分でいい


愛は悲しいから まるで迷路だから

いつでも戸惑うばかりで


傷つく為 生きてる訳じゃない

素敵な人生を あなたと生きてゆく



大好きだった映画の 綺麗なエンディング

ゆっくり幕が降りて行く


あなたの存在が 泣けてきちゃうくらい

何度も蘇る


愛は悲しいから いつも儚いから

涙が溢れるばかりで


もう一度だけ 微笑みかわせたら

あなたを連れてゆく 情熱の彼方へと




BREATH 「プロローグ」 より。




作品名:隠す涙 作家名:310号