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ラブレター2

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Rule −約束−







 慈郎と別れた後、跡部は保健室にゆっくりと向かう道すがら一つ一つを自分に確認しながら歩いていた。
 今までのこと。
 これからのこと。
 そして自分が決め、取るべきことを。
 間違わないよう、慎重に考えて見極める。それらを一通り考え尽くした後、気が付けば保健室の眼の前まで来ていた。
 その白い扉を睨みつけながら、この扉を開けたらもう後戻りはできないのだと、自分に云い聞かせた。






「じゃあオレ、そろそろ部活戻るな」
 岳人がそう云って立ち上がると、忍足は笑って手を振る。
「ああ、付き合わせてもうてすまんかったな。監督と……跡部によろしゅう云っといて」
「おう。じゃ、帰りにまた寄るから」
 跡部の名前で躊躇った様子を見ない振りをしながら、岳人は自分の荷物を持って扉へ向かう。そして扉を開けると、眼の前に跡部が立っていたので酷く驚いた。
「あ、跡部……?」
 ややばつが悪そうに見下ろしてくる碧眼と眼を合わせながら、暫し呆然としていると、奥から「岳人?」と声を掛ける忍足の声が聞こえて我に返る。
「あ、いや、……あの」
 戸惑う岳人をしりめに、跡部は押し退けるように中へと入ろうとするので、岳人は咄嗟に遮るように身体を動かした。
「あ、跡部……侑士のこと…………」
 跡部は、云い難そうに俯いて云う岳人を一瞬黙って見た後で、おもむろにぽんぽん、と岳人の頭を叩いて部屋の中へと入って行く。岳人は無意識に叩かれた自分の頭に手をやり、驚きで見開く眼をじっと跡部に向けている。それに気付いていたのか、合図のように振り向かず片手を上げてそのまま忍足が居るカーテンの中へと姿を消した。
 跡部が視界から消えるやいなや、忍足の「跡部っ」という上ずった声が聞こえて、岳人は思わず口元が綻んでしまう自分を認識する。
(頑張れよ、侑士)
 相棒を心から応援すると、岳人は静かに部屋を出て行った。


「あ、……跡部」
「ああ」
 呟いたきり、その後どう言葉を繋げていいのか判らずに沈黙が降りる。忍足は突然の跡部の出現に酷く動揺して、眼を見開いたまま硬直し、跡部は跡部で、そんな忍足にどう云っていいのか判らず口を閉ざしてしまう。しかし、いつまでもこのままでは埒があかないということに気付いた跡部が、意を決したように忍足を見た。
「忍足」
「……はい」
「上か下か、選べ」
「ほえ?云うてる意味が……ってちょ、ちょお待って!なんでそこで押し倒しはりますのん?てか上か下てそういう意味なんかっ」
 忍足は、問答無用で圧し掛かってくる跡部を必死で押し遣りながら盛大に喚き散らした。無理もないが酷く混乱している。そんな忍足に向かって跡部は苛立ったように舌打ちをした。
「『ちっ』、て。『ちっ』てなんやねんコラ!わけも云わんと人を押し倒すってどういう了見や。しかも上下選択させといて選ぶ前に下決定てどないやねんっ」
「うるさい黙れ犯すぞ」
 瞬間、ぴたりと忍足の口が閉ざされる。それに跡部は一つ頷くと身を起こした。つられるように忍足も起き上がって、じっと跡部を見る。
「面倒くせえからぐだぐだ悩むのは止めだ。……お前もいい加減、腹を括れ」
「跡部……」
 急な展開に頭が付いて行かない。今、跡部はなんと云ったのだろう。
 名前を呼んだきり放心したままの忍足に焦れて、跡部は軽く忍足の頬を叩きながら、
「おい、聞いてんのか忍足。今更なかったことにはさせねえぞ」
 こんなに人を引っ掻き回しておいて流そうなんて許さない。
 跡部の鋭く光る視線が忍足を貫く。その物騒な眼差しでようやく我に返った忍足は、慌てて跡部の両腕を掴んだ。
「え、……跡部、俺んこと…………」
「好きだって云え」
 想像もしなかった跡部の言葉に、忍足は驚きで眼を見開く。跡部はそんな忍足~眼を逸らすように俯いて、尚も云い募った。
「俺のこと、好きだと云え」
 忍足の言葉を遮ってぶっきらぼうに命令する跡部の目元が、口振りとは反対にうっすらと色付いている。忍足はそのことに目敏く気付いて、掴んでいた跡部の腕を放し、代わりに腰を抱えるように腕を回した。
「好きや」
 云って、ほんのり染まる跡部の目元へくちびるを落とし、そしてもう反対の方へくちづける。
「めっちゃ好き。ほんまに好き。跡部が好きすぎて」
 どうにかなってまいそうや……。
 目尻から滑るように頬へと移動し、そして耳朶に辿り着き軽く含んだ。柔らかく、赤い耳朶を舌先で舐めとると、再び刷り込むように好きだと囁く。
「もっと、もっと欲しがれよ」
 もっと、もっと、全然足りない。
 跡部は忍足のくちづけを受けながら、首へと両腕を回しその根元へ顔を預けた。忍足の熱い脈動を頬に感じて、跡部はゆっくりと眼を閉じる。
 酷く安心する。この匂い、このぬくもり。
 やってみれば、案外簡単なことだったのだと知るのは大概行動を起こした後だったりするものだ。それまではあれこれ頭で考えて、迷って、悩んで、諦めかけて。
 それを悪いとは思わないが、あやうく自分は大事なことを忘れて失うところだった。この温かいぬくもりを。
 自分達は随分と遠い回り道をしていたのだと、今になってようやく判る。互いの気持ちは知っていたくせに、素直に信じることができなくて、傷付け、傷付いた。
 けれど、あの時間が無駄だったとは思わない。どんなに辛い気持ちを抱えていても、それでも自分達は互いに伸ばした手を見失うことはなかったから。
 きっとこれから先、喩え別れる時が来たとしても、繋いだ手の暖かさを忘れることはないだろう。
 跡部がそう考えていると、忍足が耳元で、
「なあ、跡部は云うてくれへんの?」
 そう不穏な声音で嘯いた。
 思わず顔を上げて忍足を見てみれば、非常に厭な笑みを浮かべてにやにやと笑っている。甚だしく癪に障るが、それよりも気に入らないのが、こんな生意気な表情をされても厭だと思わない自分の変化だ。
(こいつ……)
「ん?どないしてん。ほら、云うて。俺んこと好きやろ?」
「バーカッ自惚れてんじゃねえぞ。なんでこの俺がんなこと云ってやらなきゃならねえんだ。寝言ほざくのも大概にしろよ」
 あまりの腹立たしさと恥ずかしさに、つい口から悪態が出てしまう。一瞬しまったと思って忍足を見ると、忍足は、
「え、跡部、俺んこと好きやないん……?」
 と云って絶句してしまった。
(…………)
 その表情があまりにも哀れだったので、跡部は仕方なさそうに一つ溜息を吐くと、忍足の頬を両手で挟みながら笑って、
「俺も、お前が好きだぜ」
 と囁いた。そのついでに忍足のくちびるを奪うことも忘れない。
 忍足は瞬間呆けた表情をした後、しだいにみるみると頬が緩み目尻を下げ、あげくには気味の悪い声を洩らし始める。それを真正面から目撃した跡部は反射的に離れようとするも、それよりも忍足の腕に力が籠められることの方が早かった。
「お……忍足?」
「う、くぅ……ふふふ」
「お、おし」
「俺も景ちゃんのことめっちゃ好きやー」
「な、景っててめ、つーかどこ触ってやがるっ」
 突如ぎゅっと身動きも出来ないほど抱きしめられたかと思うと、次いで力任せに反転して今度は逆に押し倒される。
「あーもう、俺いまごっつ幸せ」
作品名:ラブレター2 作家名:桜井透子