ラブレター2
Flow −奔流−
夢をみた。
初めて跡部に会った頃のことを。
途中入部する際、初めて跡部と試合をしたのだ。本来なら俺の実力を見極める程度の打ち合いで良かった筈なのに、跡部は情け容赦なく打ち込んでくるから、こちらもむきになって食いついていったことを憶えている。
けれど、結果は散々で。これでも多少は自信があったのに手酷くやられて、密かに忸怩たる気持ちに襲われていた時、目の前に白く、小さな手が差し出された。見上げると、跡部が衒いのない笑顔で自分を見ている。
「結構やるじゃねえか」
そう云われて、差し出された手を握り返した瞬間には、すでに予感はしていたのかもしれない。
子供のくせに作り物のように冷えた美貌の跡部は、その容姿からは想像もできないほど健やかに笑う。自分のよりも小さなその掌に込み上げたのはなんだったのか。今でもまだ判らないけれど。
それでもまだ、俺は跡部の傍に在り続ける。
カラスみたいな男だと思った。
髪も、眼も真っ黒で背は低いくせに纏う雰囲気は年のわりにしっかりしていて、顔立ちもすでに子供というよりは男の顔をしていると感じたことを憶えている。
試合をした。
多分、あれが忍足とやった最初で最後の試合だろう。本当は試合というより、もっと簡単な打ち合いで良かったんだが、思ったよりあいつが上手かったからつい本気を出してしまった。勿論、本気になった俺に忍足が勝てるはずもなく、結果は圧倒的な力の差を確認するだけに終わる。
確かに一方的な試合だったが、でも楽しかった。
「結構やるじゃねえか」
そう云って手を差し出したら、あいつはにやりと笑って、
「あんたもな」
そう云って手を握り返した。そのプライドの高さと負けん気が気に入って、思わず吹き出すと忍足は年相応な表情でむくれてみせたこと、今でも忘れてない。
あの日からどれだけの月日が経ったのか。それはとても昔のことのように感じることもあり、つい昨日のことのように鮮明に思い出すこともある。
これからも絶え間なく流れる時の中で、どれだけの長さを一緒に過ごしていけるのか自分にはわからないけれど、それでも今は共に居たいと願うから、お前が許す限り傍に居よう。
差し伸べられた手を、握り締めた手のぬくもりを忘れないように。
ただ今は、お前がいる。
それだけでいい――――。