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【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!!

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12.犯罪者



秘書室を通って奥の部屋に案内されるが、そのどちらにも他に人影はない。
前だったり横だったり後ろだったりと、歩きながら頻繁に男が立ち位置を変えてくるのが気持ち悪く、しかもその意味がわかったので、吐き気がした。
この肥満体型が傍にいれば、連れている人間が絶対に監視カメラに映らない位置というものを把握してやっているのだ。
そして、自分で姿が隠れるような体型の人を何度もそうやって連れてきたことがあるのだ、と。
恐らくそういう意味だろう。
半ば確信に近い予想が出来た。
そうして、誰もいない広くて洗練された社長室の隅に、子供のおもちゃや服がまとめて置かれた場所が見えてその仮説を決定付けられる。
普通に考えて、小さな子供がいるような年齢でない男の仕事場に、子供を遊ばせるような道具が必要なはずがない。

つまりコレは、一般的な常識からは型破れ。
世間的に言わせて見れば、ペドフィリア。
少年愛好者。
小児性愛、児童性愛、何でもいい。
性欲を含めた、歪んだ愛のカタチ。

最低だ。
僕の望む世界には必要のない、最低の生き物だ。

「”エンペラー”か。確か、竜ヶ峰、帝人くん?本当に君が、かい?」

帝人にソファを勧め、自分はデスクに向かって行った男が振り返りもせずに尋ねてくる。
これだけ年月を経ていても、フルネームで本名を覚えられているとは。
確かに印象の強い名前だから忘れにくいこともあるだろう。だがそれ以外の理由も挟まれているように思われ、ぞわりと背中に嫌な寒気が走った。革張りのソファに腰を下ろす気には当然ならず、立ったまま吐き捨てるように言った。

「………えぇ、信じてもらわなくて何ら構いませんが」
「ああ、その声!その声だなやっぱり!信じるしかないさ、そんな素晴らしい声を出せるのは君しかいない。成長してしまったことは残念だけれど、その年齢で声変わりは済んでないのかい?」

男は満足げに一人しゃべりながら、デスクの上の荷物を勢いよく両手で落とした。
何枚もの書類や、何かの電子機器など様々な物が大きな音を立ててじゅうたんの敷き詰められた床へと落ち、コードで引っかかった電話器がその横にプラプラと揺れる。
いきなりの奇怪な行動に、帝人はまた吐き気を覚えた。

「そうか、そうか。私はあの頃から、ひと時も君を忘れていないんだが、知っていたかい!?君の次代を継ぐ少年の発掘に乗り出しても見たが、全部駄目だったんだ。やはり君でなくては!」

男は机の上に唯一残った何かコントローラーのボタンのような物を掲げて押した。
そのときようやく、音楽会社のオフィスらしく、部屋のいたるところに大型スピーカーが設置されているのを見つける。どうやら、それのリモコンを操作しているらしい。
ほんのわずかな雑音の後、音が流れ始める。
背筋に寒気が走った。
自分の歌声だ。

「君のアルバムの3曲目だ。私は特にこれが気に入っている。高音が美しいからね。だから、私は、これを歌える子供を全国どころか世界中を探し回ったのさ」

 ブツッ、ブツッ、ブツンッ

控えめな音で鳴り始めていた曲が、急に音切れする。

(……ひ、…ひあ……、あああぅ…っ!!)

次にスピーカーから聴こえ始めるのは、明らかに子供の、…悲鳴。
恐怖に満ちた甲高い声が部屋にこだました。

「どうだい、沢山集めた中でもコレはなかなかいい嬌声だと思うんだけれど、やはりエンペラーのあの天使のように澄んだ歌声には遠く及ばないだろう。全く、才能の発掘というのも難しいものでね」

嬌声?これがこの男には悦んでいる声に聞こえているんだろうか。
そもそも何歳の子供にこんなことをしたのだろう。
こんなにも、絶望と恐怖と苦痛に満ちた悲鳴は、…自分の中でしか聴いたことがなかった。
それもやがて、諦めてただ無感動に上がる声に移行し始める。
ああ、あああ。

「…こんな」
「ああ、そうだろうやっぱり。私は断然こちらの方がいいと思うんだ。ただこれでは仕事中でも勃起し続けてしまうから聞くことを控えなくてはならないのが本当に辛い」

男が再びリモコンを操作すれば、別の曲へと変わる。
それもまたアルバムに収録された曲だったが、しばらく流れ続けるものの、悲鳴が挟まることはなく、そこに聞こえるのは、”エンペラー”の声のみだ。
それはいい、もう歌を聞くことで発狂することもない。すでに自分は壊れてしまったのだから。
しかし、おかしい。
これで、欲情する?
何だそれは。

「この、神によって地上に与えられた歌声は、全人類の至宝であり、まさにこれこそが天の示したる至上の楽園。これを聞いたものがかつて何人もそのまま自殺したという事実を君は知っているかい?幸福に満たされ、天使の歌声に導かれながら天国に召されたんだよ、羨ましい限りじゃあないか」

次第に、この男が何を行っているのか分からなくなる。
男の目は視線が定まっておらず、唾を飛ばしながら捲くし立てて話し続けていた。まるで以前に一度だけ見たことのある違法ドラッグ中毒者のようだ。

「私の知り合いも4人ほど自殺したよ。その全員が君の歌の収録に関わった人間だ。君が歌えなくなってしまってから、我々は君の両親が望んだように情報公開は一切しなかった。そこには出来ないという面もあったんだよ。君の生の声を聴いた人間はことごとく死んでいったのだから」

「死因は簡単なことだ、中毒症状だよ」

男はまるで犯罪者を当てるように、帝人を指差した。
けれども男の方がよほど犯罪者らしい。その死肉を漁る肉食獣が獲物を見たようなじっとりとした視線、不気味なほど吊り上げられた口角、ギトギトと脂の浮いた顔面。
その顔に、この状況に。
思い出さないようにしてきた恐怖と、一方的で圧倒的な力の差がふいにフラッシュバックしてきて、足元がぐらついていくような感覚に陥る。

「確かに君の歌は素晴らしい。実際に目の前で聴いてしまうと、心の奥に深く突き刺さって毒のように全身を支配されるんだよ。痺れて動けなくなる。至上の快楽じゃあないか。そしてやがて中毒症状を起こし、君の歌が聴きたいがために常軌を逸した行動に移り始めるんだ。CDではそこまでの影響を得られないから、満足できずに、ね」