【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!!
16.追記
ダラーズのサイトに、自身の児童に対する強制わいせつ罪を告白する男の動画が貼り付けられて、一時話題になった。その身元は業界内では有名で、すぐに週刊誌がこぞって特集を組んだ。警察が捜索したところ、男が動画内で言ったとおりに、本当に男の職場からは沢山の、少年を強姦した際の音声が発見された。
そこで逮捕に踏み切った警察が向かった先は、精神病院だった。
男は、その動画が貼り付けられたまさにその時から、発狂し、強い精神興奮から痙攣を起こし、自分の吐しゃ物で窒息しかかっているところを、社員に発見され病院に入院していた。
しかし言動があまりに異常であり、すぐに自殺企図を図るため、精神病院に転院していたのだ。
その、元大手音楽会社社長は言う。
「神が私を裁いた」
「彼に見捨てられた。喪った」
「地獄にいる方がまだマシだった」
その後、沈黙し泣き寝入りしていた被害者が次々に発覚し、一時期のニュースも週刊誌もその話題で持ちきりだった。
しかし結局、その動画を録画しアップしたのが誰なのかが判明することはなかった。
監視カメラの映像を確認してもその前後、本人以外の人影が見当たらず、かろうじて屋上のカメラの隅に映っていた少年らしき姿も、画面からは飛び降りたように消えていった。
しかし、その場所で飛び降りがあったという事件の報告も、事故処理も何も行われていない。
男に聞けば、彼は言う。
「彼は神だ。彼は天使だ。彼の存在が世界そのものだ。あれこそが天国であり、その声は天啓である」
『天からの使者により罪を懺悔した元社長』
ダラーズの掲示板内からはすでにその動画は消えていたが、その話題はここでもしばらくは続きそうだ。
帝人はネットを止め、携帯画面を待ちうけに戻す。
放っておけば、そのうちにまたすぐに熱し易く覚め易い情報社会に飲み込まれ、人の記憶の底へと流され忘れられていくのだ。
頷いて、前を向く。
遠くに自販機が飛んでいた。
低い怒声と笑い声が響いてくる。
その方向から避難してきた人々が悲鳴を上げたり、そそくさと逃げ出す中、写メを撮るつわものもいた。あれの正体を知らない観光客かもしれない。
これが今の彼の、非日常的な日常の光景。
「またやってる」
楽しそうに呟いた帝人はそちらに向いて、少し音を滲ませた吐息を吐いた。
周囲の人から見れば、大げさについた、ただの溜め息のよう。
それどころか、喧騒に紛れてしまえば近くにいた人にさえ聞こえないくらいのものだ。
しかし自販機がズン、と大きな音を立てて下ろされる。
「喧嘩は止めて、ちゃんと仲良く僕と一緒にご飯食べられた人には、……子守唄でも歌いますよ?」
少し照れて笑いながら言うと、簡単に戦争は終わりを告げる。
早足で近づいてくる2人を見て、帝人はさらに笑顔を深めた。
中毒症状はもう起こさせてはいけないし、何より自分の歌声を求める人は、ここにいた。
帝人は今日も、歌を歌う。
作品名:【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!! 作家名:cou@ついった