【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!!
15.天使≒人間
妖精、というものは、やっぱり妖精だ。
そして天使になりかけた人間は、やっぱり人間だった。
音楽会社の屋上から、ふいに飛び出した真っ白な点。
一瞬、宙に浮いているようにも見えたその体は、重力に逆らうことなくそのまま真っ直ぐに地面へと向かって落ちてくる。
駆け出すよりも速いと判断したのだろう、セルティの全身から瞬時に伸ばされた黒い影の網は、ビルとビルの壁や街路樹、街灯に張り付き、大きなネットのように網を作って小さな体を受け止める。
しかし恐らくは40階ほどの高さから落ちてきたはずだ。
衝撃を受け止めきることができずに大きく撓み、更に何枚も追加された網状の影でスピードを落とすものの、地面に落ちるには強すぎる衝撃であっという間にアスファルトに到達する。
セルティが、声にならない悲鳴を上げたのを、確かに新羅は聞いた。
アスファルトがザガッと不可解な音をたてて捲り上がる。
それは、新羅たちのすぐ傍からあっという間に離れ、そして最後に最も大きな音を立てた。
獣の咆哮のような寂しげな叫びとともに。
「もうっ!俺は……っ!!」
傷つけないと、誓ったんだ。
静雄が乗り越えた花壇を筋肉が出来うる最大級の強さで蹴りこんで斜め上に飛び、影の中に包まれた塊を目指す。
巨大な影の塊になっていたソレは、遠目には最初、受け止められたかどうか確認できなかった。そのまま横に飛んで、地面へと落下する静雄もまた、セルティの網に絡め取られて見えなくなる。
その瞬間、呪縛から解けたように、臨也が走り出した。
固まって動けなくなっていた新羅、正臣も慌てて後を追う。
セルティは混乱して、PDAを出すことも出来ずにオロオロと網を探り始めていた。
「何やってんの!さっさとコレ消してよ!」
臨也の苛立った声にようやく気付けたらしく、セルティがその手の平を振る。
光を反射することもない濃厚で真っ黒な影がさぁっと、風に散るように薄れて消えていく。
「………」
削れた地面の上に、人が座り込んでいた。
バーテン服は引きちぎれ、汚れている。
その腕の中に、大切なものを抱えて、全身を震わせていた。
ひょこりと現れた真っ白な天使は、2、3度瞬きした後、黒く丸い大きな目をパチリと開けて、花がほころぶようにゆっくりと、恥じらいながら少し笑って、いつもよりほんのちょっと掠れた、でも普段どおりの声で言った。
「ただいま」
妖精は妖精だ。
人間は人間だ。
でも天使のような人間というのは、確かに存在しているようだった。
作品名:【DRRR】 emperorⅢ 【パラレル】完!! 作家名:cou@ついった