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【忍たま】手を伸ばす先は

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「三郎?」
 気配に気づいたらしく、視線がこちらに向けられた。
「……少し疲れたみたいだから、休ませてくれるとありがたいんだが」
 相手の背中に手を伸ばして、愛しい存在を抱きすくめ、柔らかい体温を感じる。
「ここ一週間くらい、ずっと学園長のお使い頼まれてたもんね。ほら、こっちへおいで」
 読んでいた本を閉じて、雷蔵が膝を貸してくれる。
 その優しさに胸が甘い痛みで疼くのを自覚しながら、三郎はすまないと告げて柔らかい膝に頭を乗せた。そのまま雷蔵の肌に顔を埋めるようにして腰に手を回す。
(温かいな……君は)
 トクリ…トクリと規則正しい脈が鼓膜を震わせていき、次第に心音が気持ちを穏やかにしてくれた。
 さらりと髪を撫でられ、心地いい雷蔵の声が自分の名前を呼ぶ。
 仮面を被り、偽りながら人と接している己が、唯一持っている真のもの。それを愛しい者が紡ぐ度に、もっと呼んで欲しいと願ってしまう。
「ねえ、夜には雨が降るらしいよ。帰ってくるのが遅くならなくて良かったね」
「ああ」
「あ、そうだ。肝心な事言い忘れてた」
「なにをだ?」
「えっと」
「……」
 一体なんだろうと耳を傾けると、ぬくもりを含んだ音が三郎に届いた。
「おかえり」
 真っ先に伝えたかったのだと、続けられた言葉に思わず起き上がって雷蔵を見つめようとしたけれど、相手がそっと頭をを撫でながら寝るように促してくる。
 疲れてる時は、一眠りした方がいいんだ、と。
(気づいてたんだな……)
 学級委員という名を借りた、学園の守人。
 「忍たま」という、殻の中にいる存在を傷つける輩を、排除する為に隠密に動くのが己の働きでもあるのだと分かっているし納得もしている。
 今回の学園長からの任務もその一つであり、数人を片付けてきた後だった。
 いくら洗い流したとしても、血の匂いが微かに残ってしまっているのだろう。未だに手に残る肉の感触に眉をひそめたけれど、この感覚を味わった回数なんてすでに数え切れなくなっていて。
「ねえ、知ってる? 頑張った人には、頑張った分だけ、ちゃんと幸せなものが返ってくるんだって」
 雷蔵は何も聞かないし尋ねてこない。それが、彼なりの労わりなのだ。
「…そうだといいが」
「返ってくるさ。だって、こんなに頑張っているんだもの」