ICO 鬼の子の詩
これは角の生えた少年と無垢なる乙女のおはなし
一 蒼い霧の城
影の女王はただ一人蒼い霧の城の広間に立ってチェロを伴奏に歌い始めます。
遠い波の音 光の粒
誰もいない海 鳥の声
顔を見上げれば天の高み
石の城はただ沈黙の内
目も眩むほどに高き塔は
白い雲間に淡く霞み
暗く苔むす礎は
翠の海を深く抱く
聞こえてくるのは 在りし日の
城に満ちる幸福の日
思い出される遠き日の
あの人の青く澄んだ瞳
私は独り取り残され
ここで朽ち果て 消えていく
消えてなくなる その前に
ただもういちど声聞きたい
百万の罪を犯しても
あしざまに人に笑われても
懐かしき日々はいつも心に
いつも心に
私は独り取り残され
ここで朽ちて消えていく
消えてなくなるその前に
ただもう一度声聞きたい
石の城に暮らす女王は昔日の栄光を夢見ています。自分が若かった頃、城が多くの人で賑わった頃のこと。いつしか蒼い霧の城は没落し、廃墟となってしまいます。女王は我が身と正気を失い、亡霊となっています。
二 草笛を吹いて
沈黙する影の女王に代わって草笛を吹いて夷子が歌い始めます。
草笛を吹いて歩いていこう
僕の足はどこへだって
僕のことを連れて行くよ
友達も 住むとこも
僕にはないけれども
僕は気にしない
そんなことは
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも 明日になれば
笑い話になるはずだよ
草笛を吹いて歩いていこう
頭にある二本の角
僕は自由の王様だよ
家来なんかいないし
住むお城もないけれど
僕は気にしない
そんなことは
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも 明日になれば
笑い話になるはずだよ
僕の両手はいつも空っぽ
ポケットの中身もいつも空っぽ
だから何だってつかめる
君の手だって ほら つかめるよ
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも明日になれば
笑い話にきっとなるよ
きっとなるよ
角の生えた子供は十三の年になると城に連れていかれて生贄にされるしきたりとなっています。夷子にもその時がやってきます。
三 落日の歌
夷子は歌をやめ、滅びに慄く村人がアコーディオンにあわせて歌い始めます。
時は行き 人は去り
思い出も石となりぬ
古い昔の栄光も
いまとなれば夢語り
時は行き 人は去り
猛き士も骨となりぬ
遠き日のいさしおも
いまとなれば幻か
落日を眺むれば
溢れ落ちる 頬の涙
失意の日に胸破れ
明日を思い 心乱る
人々は女王の死後、緩慢な滅亡への道を辿りつつあります。病気が蔓延し、子供が生まれなくなっているのです。人々は古きよき時代、角のある夷人を追い落とし、蒼い霧の城から世界のすべてを統治していた英雄王の時代を懐かしみ、亡霊となった女王の復活を助けようとします。
四 欠番
五 どうして僕は
十三になった鬼の子は捕らえられて城に連行されるしきたりとなっています。夷子も神官に捕えられ、生贄として城へと連行されていきます。捕らえられた夷子は神官に訊ねて歌います。
どうして僕は
何も悪いことをしてないのに
どうして僕は
誰かを哀しませたりしないのに
なのにねえ どうして君は
僕にひどいことをするの?
ねえ笑ってよ
そして言ってよ 僕は悪くないって
どうして僕は
何も悪いことをしてないのに
どうして僕は
誰かの笑顔がみたいだけなのに
なのにねえどうして?
僕に辛いことを言うの?
お願い笑って
そして抱きしめてよ 僕は悪くないって
神官達は夷子を城に連れて行き、青銅色をした棺桶に入れてしまいます。神官は去り、夷子は無人の城に取り残されます。
六 道はきっと
一人になった夷子は果敢にも逃走を試みます。フィドルが鳴り、夷子は踊り、歌い始めます。
光は生まれる 闇の中から
希望は生まれる 絶望から
だから僕は
どんな時でも諦めない
この胸に 胸の奥には光があって
その光が僕を導く
荒野にもきっと道はあるはず
道がなければ 僕が作ろう
自由はいつも僕らの傍に
手を伸ばせば ほらここに!
だから僕は
どんな時でも諦めない
鉄の檻 闇の淵に取り残されても
勇気はいつも僕の味方
暗い海で道が見えなくても
羅針盤は僕の心に
夷子を閉じ込めた青銅色の棺桶は夷子が中で暴れたことで傾き、そこで蓋が開きます。廃墟の中に飛び出した夷子はたった一人で脱出を敢行します。
七 星降る夜のノクターン
城から逃げようとする夷子の耳にピアノの音が聞こえてきます。夷子はピアノの音に誘われて塔を昇っていきます。そして、ここで夜乙女と出会います。夷子は金属の檻に入れられた夜乙女のピアノの音に耳を傾けます。
八 星降る夜のノクターン(歌詞有り)
夜乙女のピアノに合わせて夷子は歌を歌います。
光の粒 夢の影
白い天使 僕は見つけた
綺麗な髪 金色に輝いて
触れてみたくて手を伸ばし
不安に足が滞る
この檻は寒すぎる
だから僕と一緒に行こう
幸せにできるか分からない
けれど不幸にしないと約束するよ
風の音 鳥の声
懐かしい色 僕は見つけた
握り締めた手の冷たさ
儚く消える雪のように
この場所は寒すぎる
だから僕と一緒に行こう
明日のことなど分からない
けれど未来はいつも不確か
手を繋いで一緒に行こう
僕が道を案内しよう
暗闇だって平気だよ
僕は自分が正しいと知っているもの
夷子は夜乙女を檻から出し、手を引いて逃亡を開始します。すぐに城に巣食う亡霊たちが銅の鐘を鳴らして襲い掛かってきます。夷子は樫の杖を振るって亡霊を追い払います
十 樫の杖を振るって
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人 絶対渡さない
だっておまえらこの人を
幸せになんかできないだろ
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人の手は離さない
だってこの手を離したら
僕は死ぬまで後悔する
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人絶対渡さない
だってこの人渡したら
大事な何かをなくしてしまう
夷子の猛烈な反撃に敗れ、消えていく亡霊達が不吉な歌を歌って返します
十一 夷子夷子鬼の子
夷子 夷子 鬼の子 愚かな子
汝 この世の摂理を知らず
天意が何処にあるも知らぬ
汝が手を取るそのものの
なんたる運命か知りもせず
ただ闇雲に駆け回る
夷子 夷子 鬼の子 哀れな子
汝の未来に輝きなく
あるのは失意の暗き淵!
亡霊たちは掻き消え、夷子は夜乙女の手を取って城の中を走り始めます。
十二 謎賭け
迷路のようになった廃城の中を走る夷子と夜乙女の道を青銅の扉が塞ぎます。不思議な扉は夷子に謎をかけてきます。
生きるはくたばる
咲くは散る
食うは糞して
開くは閉ざさる
この世は謎々
すべて謎
この道通して欲しければ
答えよ我に我は何?
まっこと正しき答えを言わば
道はおのずと開かれり
扉の歌いかけに夷子は夜乙女と顔を見合わせ、それから頷きます。青銅の扉は問い掛けます。
瞬きする間に空を越え
はるかに万里を駆け抜ける
匂いも音も形もなく
古今に我を見たものなし
一 蒼い霧の城
影の女王はただ一人蒼い霧の城の広間に立ってチェロを伴奏に歌い始めます。
遠い波の音 光の粒
誰もいない海 鳥の声
顔を見上げれば天の高み
石の城はただ沈黙の内
目も眩むほどに高き塔は
白い雲間に淡く霞み
暗く苔むす礎は
翠の海を深く抱く
聞こえてくるのは 在りし日の
城に満ちる幸福の日
思い出される遠き日の
あの人の青く澄んだ瞳
私は独り取り残され
ここで朽ち果て 消えていく
消えてなくなる その前に
ただもういちど声聞きたい
百万の罪を犯しても
あしざまに人に笑われても
懐かしき日々はいつも心に
いつも心に
私は独り取り残され
ここで朽ちて消えていく
消えてなくなるその前に
ただもう一度声聞きたい
石の城に暮らす女王は昔日の栄光を夢見ています。自分が若かった頃、城が多くの人で賑わった頃のこと。いつしか蒼い霧の城は没落し、廃墟となってしまいます。女王は我が身と正気を失い、亡霊となっています。
二 草笛を吹いて
沈黙する影の女王に代わって草笛を吹いて夷子が歌い始めます。
草笛を吹いて歩いていこう
僕の足はどこへだって
僕のことを連れて行くよ
友達も 住むとこも
僕にはないけれども
僕は気にしない
そんなことは
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも 明日になれば
笑い話になるはずだよ
草笛を吹いて歩いていこう
頭にある二本の角
僕は自由の王様だよ
家来なんかいないし
住むお城もないけれど
僕は気にしない
そんなことは
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも 明日になれば
笑い話になるはずだよ
僕の両手はいつも空っぽ
ポケットの中身もいつも空っぽ
だから何だってつかめる
君の手だって ほら つかめるよ
お臍のあたりに力を入れて
嫌なことは笑い飛ばそう
辛いことも明日になれば
笑い話にきっとなるよ
きっとなるよ
角の生えた子供は十三の年になると城に連れていかれて生贄にされるしきたりとなっています。夷子にもその時がやってきます。
三 落日の歌
夷子は歌をやめ、滅びに慄く村人がアコーディオンにあわせて歌い始めます。
時は行き 人は去り
思い出も石となりぬ
古い昔の栄光も
いまとなれば夢語り
時は行き 人は去り
猛き士も骨となりぬ
遠き日のいさしおも
いまとなれば幻か
落日を眺むれば
溢れ落ちる 頬の涙
失意の日に胸破れ
明日を思い 心乱る
人々は女王の死後、緩慢な滅亡への道を辿りつつあります。病気が蔓延し、子供が生まれなくなっているのです。人々は古きよき時代、角のある夷人を追い落とし、蒼い霧の城から世界のすべてを統治していた英雄王の時代を懐かしみ、亡霊となった女王の復活を助けようとします。
四 欠番
五 どうして僕は
十三になった鬼の子は捕らえられて城に連行されるしきたりとなっています。夷子も神官に捕えられ、生贄として城へと連行されていきます。捕らえられた夷子は神官に訊ねて歌います。
どうして僕は
何も悪いことをしてないのに
どうして僕は
誰かを哀しませたりしないのに
なのにねえ どうして君は
僕にひどいことをするの?
ねえ笑ってよ
そして言ってよ 僕は悪くないって
どうして僕は
何も悪いことをしてないのに
どうして僕は
誰かの笑顔がみたいだけなのに
なのにねえどうして?
僕に辛いことを言うの?
お願い笑って
そして抱きしめてよ 僕は悪くないって
神官達は夷子を城に連れて行き、青銅色をした棺桶に入れてしまいます。神官は去り、夷子は無人の城に取り残されます。
六 道はきっと
一人になった夷子は果敢にも逃走を試みます。フィドルが鳴り、夷子は踊り、歌い始めます。
光は生まれる 闇の中から
希望は生まれる 絶望から
だから僕は
どんな時でも諦めない
この胸に 胸の奥には光があって
その光が僕を導く
荒野にもきっと道はあるはず
道がなければ 僕が作ろう
自由はいつも僕らの傍に
手を伸ばせば ほらここに!
だから僕は
どんな時でも諦めない
鉄の檻 闇の淵に取り残されても
勇気はいつも僕の味方
暗い海で道が見えなくても
羅針盤は僕の心に
夷子を閉じ込めた青銅色の棺桶は夷子が中で暴れたことで傾き、そこで蓋が開きます。廃墟の中に飛び出した夷子はたった一人で脱出を敢行します。
七 星降る夜のノクターン
城から逃げようとする夷子の耳にピアノの音が聞こえてきます。夷子はピアノの音に誘われて塔を昇っていきます。そして、ここで夜乙女と出会います。夷子は金属の檻に入れられた夜乙女のピアノの音に耳を傾けます。
八 星降る夜のノクターン(歌詞有り)
夜乙女のピアノに合わせて夷子は歌を歌います。
光の粒 夢の影
白い天使 僕は見つけた
綺麗な髪 金色に輝いて
触れてみたくて手を伸ばし
不安に足が滞る
この檻は寒すぎる
だから僕と一緒に行こう
幸せにできるか分からない
けれど不幸にしないと約束するよ
風の音 鳥の声
懐かしい色 僕は見つけた
握り締めた手の冷たさ
儚く消える雪のように
この場所は寒すぎる
だから僕と一緒に行こう
明日のことなど分からない
けれど未来はいつも不確か
手を繋いで一緒に行こう
僕が道を案内しよう
暗闇だって平気だよ
僕は自分が正しいと知っているもの
夷子は夜乙女を檻から出し、手を引いて逃亡を開始します。すぐに城に巣食う亡霊たちが銅の鐘を鳴らして襲い掛かってきます。夷子は樫の杖を振るって亡霊を追い払います
十 樫の杖を振るって
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人 絶対渡さない
だっておまえらこの人を
幸せになんかできないだろ
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人の手は離さない
だってこの手を離したら
僕は死ぬまで後悔する
バカ こんにゃろう あっち行け!
この人絶対渡さない
だってこの人渡したら
大事な何かをなくしてしまう
夷子の猛烈な反撃に敗れ、消えていく亡霊達が不吉な歌を歌って返します
十一 夷子夷子鬼の子
夷子 夷子 鬼の子 愚かな子
汝 この世の摂理を知らず
天意が何処にあるも知らぬ
汝が手を取るそのものの
なんたる運命か知りもせず
ただ闇雲に駆け回る
夷子 夷子 鬼の子 哀れな子
汝の未来に輝きなく
あるのは失意の暗き淵!
亡霊たちは掻き消え、夷子は夜乙女の手を取って城の中を走り始めます。
十二 謎賭け
迷路のようになった廃城の中を走る夷子と夜乙女の道を青銅の扉が塞ぎます。不思議な扉は夷子に謎をかけてきます。
生きるはくたばる
咲くは散る
食うは糞して
開くは閉ざさる
この世は謎々
すべて謎
この道通して欲しければ
答えよ我に我は何?
まっこと正しき答えを言わば
道はおのずと開かれり
扉の歌いかけに夷子は夜乙女と顔を見合わせ、それから頷きます。青銅の扉は問い掛けます。
瞬きする間に空を越え
はるかに万里を駆け抜ける
匂いも音も形もなく
古今に我を見たものなし