二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ICO 鬼の子の詩

INDEX|2ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

目に姿は見えねども
遠き彼方に届くもの
答えよ我に!我はなに?

 謎賭けに夷子は僅かに迷い、それから答えます。
 
 十三 届けよ想い
 
今でも僕は覚えているよ
僕が育った場所のこと
大きなもみの木があって
白い垣根の小さな家
夏にはセミが鳴き
冬には白いウサギが来る
懐かしい僕のふるさと
いつの日か帰れるならば
庭にコスモスを植えよう

今でも僕は覚えているよ
僕が暮らした場所のこと
屋根には煙突
もくもくと白い煙
春にはカエルが歌い
秋にはトンボが舞う
懐かしい僕のふるさと
いつの日か帰れるならば
庭にブランコを作ろう

懐かしい 僕のふるさと
今は心の中にだけ
想いだけが遠く走るけれど
戻ることは叶わない
届けよ想い 万里の彼方
遠い僕のふるさとに

 夷子は歌い終わってから叫びます。
 「答えは『想い』!」
 夷子の叫びとともに夜乙女の胸が光り、扉が動き始めます。そして、開いた扉の向こうには亡霊と化した城の主、影の女王が待っています。夜乙女を連れ出そうとする夷子に女王は激怒して歌います。
 
 十四 呪い歌
 
角有る子供に呪いあれ!
たかが土民の分際で
我が王城をねり歩き
汚いその手で壁に触れ
ついには我が子をかどわかす
水を鏡に己を映せ
されば分かろう汝の分!

角有る子供に呪いあれ!
汝 賤しい贄にして
生有る間も価値は無く
死したる後も用はなし
我が子の奥の その奥の
役無き奥歯の汝なら
速やかに去れこの場から!

 生贄の『角有る子供達』は棺桶の中で肉と骨を砕かれ、これを元にして夜乙女が作られています。夷子は夜乙女の最後の部品『親知らず』にされるはずでした。いてもいなくても何の影響も無い『最後のパーツ』を女王は追い払おうとします。夷子は女王の恫喝に敢然と抵抗します。
 
 十五 僕はここにいる
 
無用なものなど一つも無い
この世界には
どんな小さな生き物も
生きる不思議を宿してる
だから命のある限り
僕もこの世にあり続ける
山が行く手を邪魔したら
僕は迷わず山登り
川が行く手を遮れば
僕は泳いで川渡る
僕は自由の王様
だから誰にもまつろわない

価値の無いものは一つも無い
この宇宙には
目には見えない約束があって
いつも僕らを包んでる
だから命のある限り
僕はこの世で歌い続ける
影が行く手を邪魔したら
僕は迷わず剣を振るい
闇が行く手を遮れば
僕は灯火 掲げよう
僕は自由の王様
誰かに膝を屈しない

 夷子の歌を聞いた影の女王は夷子が開いた外への扉を閉ざして、消えていきます。一方、道を閉ざされた夷子は途方に暮れます。困りきっている夷子に木に止まっていた甲虫がヴァイオリンにあわせて調子外れな歌を歌います。
  
 十六 酔いどれの歌
  
Yo!Ho!Yo!
酒だ 酒 酒 酒もってこい
なに気にすんな金ならあるぜ
たんまり奴のポケットの中
金は天下のまわりもの
そのうち天から降ってくらあ

Yo!Ho!Yo!
酒だ 酒 酒 酒もってこい
なに気にすんななんとかならあ
骨有る小僧とお近づき
こんな逢瀬はまたとねえ
飲み代まとめてツケておけ!

Yo!Ho!Yo!
酒だ 酒 酒 酒もってこい
支配もされなきゃ膝も折らん
剛毅な小僧だ嬉しいねえ
けれど世の中なかなかに
それじゃあ 渡っていけめえよ!

 樹液に酔っ払った甲虫はいろいろなことを知っています。夜乙女が女王が吹きかけた息を芯にして夷子の兄姉の血肉を砕いて作ったパーツを繋ぎ合わせて作られたことも知っていれば、影の女王がどうして亡霊に成り果ててしまったのかも知っています。かつて夷子の祖先が城を建てたことも、角有る人々を女王の先祖が追い落として城を奪ったことも知っています。当然、寄木細工の夜乙女が城を出ては生きていけないことも知っています。夷子は物知りの甲虫に助力を願います。
  
 十七 君がいれば
 
日が暮れて 道は遠く
僕達は迷い子 取り残されて
どこに行けば良いの?
帰る場所がわからない
力を貸して
君がいればきっと大丈夫
暗い道も通っていける

雲厚く 星は見えない
僕達は迷い子 拠る場所が無い
道が分からないよ
石の壁はどこまでも高く
力を貸してよ
君がいればきっと大丈夫
深い瀬も渡っていける

 夷子の歌に甲虫は歌って返します。
 
 十八 馬鹿につきあう馬鹿はなし
 
古い昔に英雄は死んだ
老いぼれ地べたを這うように
反吐を吐き吐き泣きながら
死にたくないと言いながら
それでも奴はくたばった
城の者は影で笑い
英雄はいつも一人

勇敢な人 またの名は馬鹿
自分の力を神になぞり
剣を振るうよ 笑いながら
けれど知ってる奴は裸
小僧 お前も英雄と同じ
やってることは正しいけれど
哀しや それは独りよがり!

白い乙女よ不憫な子
暗い運命を背負わされて
出来ることなら力にも
なってやりたいところだが
奈落に転がる不幸の車
押しとめるだけの甲斐性も
力も無いのさ虫の身にゃ

 甲虫は抜け道を知っています。ただしその道を通っていけるのは夷子だけ。寄木細工の夜乙女には城を出て行くことはできません。甲虫は何も知らない夜乙女のことを思いやって深くを語らずに歌い続けます。
 
 十九 一人の道
 
細い小道 行く人はない
遠い片道 戻るものはない
虎口を逃れる道は一つ
けれど通っていけるは一人

古い小道 行く者はない
朽ちた片道 誰も知らない
外界に通じる道は一つ
険しい道をいけるは一人

道を行けるはただ一人
二人で逃れる道はなし
選べ 小僧よ 二つに一つ
ここで死ぬるか 一人で去るか 
 
 夷子には一人で逃れるという選択はありません。夷子は夜乙女の手を取って歌います。
  
 十九 この手を離したら
 
もしもこの手を離したら
哀しいことを言わないで
孤独のつらさは知っている
やっと見つけた小さな奇跡
離せばきっと戻らない

強くなるのは何のため?
今日この日を生きるため
悲しい昨日よさようなら
過酷な未来を恐れない
勇気はいつもこの胸に

 夜乙女がピアノで間奏を入れます
 
僕も知ってる運命の神様
そいつはいつも僕達を
苦しめ 苛む 嫌な奴
訳知り顔などするもんか!
僕は生きるよ 不細工に

 夷子の叫びを聞いた甲虫は樹液に韜晦している自分を省みて暗然沈黙します。甲虫はしばらく考えてから抜け道を歌って教えます。
 
 二十 内緒の話
 
夷子 夷子 鬼の子 強情張りめ
まずは風車を探すが良い
風車の後は闘技場
歪んだ鏡を日に向けよ!
抜け道 見つける標とならん
あるいは無茶する貴様なら
奇跡も一度は起きるらん

 夷子は甲虫に感謝し、夜乙女の手を引いて走り始めます。
 
 二十一 回れ風車

 夷子と夜乙女は甲虫に教えられたとおりに城の風車にたどりつきます。夷子は回り続ける風車を見上げて歌います。
 
ひょうびょうびょうと風が吹く
回れ風車よ 青空に
風をはらんで僕達を
大空高くに連れて行け
僕らの望みを乗せていけ

ひょうびょうびょうと風が吹く
回る風車は似ているよ
僕らを巡る輪廻の輪
生まれて 死んで また生まれ
ずっと続くよ生命の縁

 夜乙女が思いついたようにしてピアノの間奏をはさみます
 
作品名:ICO 鬼の子の詩 作家名:黄支亮