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ICO 鬼の子の詩

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勤めん黄泉への道案内!

 甲虫は夷子の兄姉達を黄泉の国に導く水先案内人を買って出ます。一方、夜乙女から体を奪い返した亡霊たちは夜乙女に体を返して祝福の歌を歌います。
 
 四十七 祝福の歌
 
乙女よ乙女 気高き乙女
汝に返そう肉と骨
冥府に向かう我らには
もはや用なきものなれば
汝の好きに使うが良い

我は返さん我が眼
我が返した二つの眼で
しかと見るべし空の青!

我は返さん我が背骨
我が返したその骨で
広き荒野に根を張るべし!

我は返さん我が腕
我が返したその腕で
汝の子供をしかと抱け!

我は返さん我が唇
我が返した唇で
歌え世界に命の歌を!

 暗い影となっていた亡霊達の体が眩い金の光に変わり、世界に光と笑いが満ちていきます。再会を果たした夷子、夜乙女、甲虫、さらに亡霊達や女王全ての人が声を揃えて勝利の歌を歌います。
 
 四十八 光よ満ちよこの空に

光よ満ちよこの空に
忍従の日々はここに終わる
影は去り地に花開く
重き荷物を背負って嘆く
暗き昨日に別れを告げよう
憎しみは過去のもの
今日は隣人との和解を
そして明日は喜びを
金のホルンを吹き鳴らし
光で満たせこの空を!

光よ満ちよこの海に
今は去り行く辛苦の数々
いつか必ずこの地に戻る
けれど我らは挫けぬだろう
絶望の淵から何度でも
きっと我らは立ち上がる
なぜなら我らはすでに知る
この世に奇跡のあることを
金のホルンを吹き鳴らし
光で満たせこの海を!

今はただ友の肩を叩いて
昨日を笑って赦しあおう
金のホルンよ鳴り響け
溢れよ愛よこの星に!

 歓喜の歌が終わり別れの時がやってきます。亡霊も女王も天に帰り、人々も去っていきます。残ったのは夷子と夜乙女、甲虫の三人だけとなります。甲虫は旅立っていく夷子に樫の杖を夜乙女には白い鳥の羽を餞別として与えます。甲虫は歌います。
 
 四十八 友よさらば
 
幼き友よ今はさらばだ
多分命のあるうちに
再び会うことないだろう
けれどそれでいい
俺達は友達だ
風が吹こうが雨降ろが
俺はくたばるその時も
きっとおまえを思い出す

幼き友よ今はさらばだ
忘れてくれるな愛もまた
誰かを殺める意思となる
けれどそれでいい
俺達は友達だ
修羅になろうが羅刹になろが
俺はいつでもおまえの味方
おまえの罪を赦すだろう

 夷子は甲虫に感謝して歌います
 
 四十九 人の支えなしに
 
人の支えのないままに
一人でこの世を生きている
それは思い上がり
僕は知ったよ僕の力
ただ一人では
ただ一人では
僕はここまで歩けなかった

 夜乙女がピアノの伴奏を始めます

人の支えのないままに
一人でこの世を生きている
それは身勝手
僕は知ったよ自分の分
ただ一人では
ただ一人では
決してここまでできなかった

 甲虫が歌います。

一人の力は砂粒のよう
けれど小さな砂粒も
心を一つにするならば
見ろよ相棒!
城も崩せりゃ運命も変わる

 甲虫は言います
 「夷子 夷子 丈夫 我が友よ!さらば!」
 甲虫は飛んで去り、砂浜には夷子と夜乙女だけが残されます。夜乙女がピアノを弾いて歌い始めます。夷子は静かにそれを聞いています。物語はついに幕を迎えます。
 
 五十一 西瓜の歌
 
大きな西瓜 
唇に甘く喉には苦い
大きな果実
この星に似ている
我が身を砕いて
潤いを人に与える
どんなに人に汚されても
全てを受け入れ赦してくれる
それはまるで優しい母親のよう

大きな西瓜 
唇に甘く喉には苦い
大きな果実
この星に似ている
眠るあなたの横顔
とても愛しく思われる
きっとあなたのためならば
どんな罪でも犯すと思う
私の母がそうだったように

大きな西瓜
唇に甘く喉に苦い
大きな果実は
この星そのもの

 ピアノの演奏が終わり劇も静かに幕となります。


作品名:ICO 鬼の子の詩 作家名:黄支亮