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existar

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今でも覚えている、夜のうちは空も澄んでいて、星がきらきらと瞬いていた。
それなのに辺りが明るくなっても朝日は雲ひとつ隔てたままの奥に隠れていて、そしてあの頃にはざあざあと雨が降っていた。おそらくアーサーにとっては雨の方がよっぽど気分が悪いのだろうけれど、おれとしてはそれぞれがこぞって存在を主張する、澄んだ星の夜のほうがずっと辛かった。

あのきらめきを見ながら、このままいけば引き返すことはもちろん、なにもかもが――それこそ天と地といっていいくらい大きなものまでが――反転して戻らなくなると知りながら、おれは離別の朝を迎えると、決めたから。




「最近はめっきり外にも出なくなって――…」

家の中はおろか玄関にさえあげてもらえず、扉の外側でかわしていた会話はそこで途切れた。
前来た時とは変わっている、新顔の使用人が後ろを振り返し、そして家の奥からかつん、かつん、と誰かの足音がした。使用人の横顔が、居心地悪そうに歪む。「とにかく、またいらしてください。」と、すぐ向き直ってそいつがおれに言ったのはそんなセリフだった。何を言い返す間もなくバタンとドアを閉められてしまう。いま大きな音を立てて閉ざされたのは、はたしてただこの大きな建物と扉なのか、それとももっと大事な何かなのか、生憎分からない。ただ背中から射す五時の夕焼けでドアにおれの影が映っていた。

踵を返して、一歩一歩、帰路へと歩き出す。
しばらく前、いろいろあった。責任転嫁でも開き直りでもなく、ただ本当に誰が悪いとか悪くないとか、そんな単純な善悪で片付けられない様なことが。少なくとも出会ったときにも、今にも落ちてきそうな灰色の空を尻目に部屋の中でトランプをしたときにも、悴む指先を繋ぎ合わせてひとつの傘で買い物に出たとき、豪快な音に震える耳を手のひらと脈の音で塞いでもらったときも予想しなかったことだった。おれのしたことなのに、おれのしたことだから、だ。

今日は、もう暮れてしまっているけれど晴天だった。
夕映えも鮮やかに空を染め上げて、雲はほとんどないに等しい。雨の気配は程遠くて、だからこそこうしてきちんとした服を着て、しばらくぶりに外に出てみないかと、最近ずっと部屋にこもっているらしい彼を迎えにきたというのに。
作品名:existar 作家名:さこそうこ