existar
戸惑いながら、やっとおれを真っ直ぐ見たそいつの目は、せっかくこらえた涙をもう一度引っ張り出してくるくらいに綺麗だった。はじめましてのときと違って見下ろすようになっても変わらないそれは、他の“最善”が思い浮かばなかった日に見た夜の空と、すべての八当たりに睨みつけたあの星のひとつと、よく似ていた。
けれどその色も、だんだんぼやけていった。ああやっぱりこっちが夢だったな、と、なら最後にもうひとつ、夢でしか出来ないことをと、くちびるを押しあてた。
―――そんな、夢を見た。
それはもう深い溶鉱炉に落とされたような感覚に体を震わすと、テーブルに膝をぶつけ、いつ運ばれてきたのか、もう湯気の一本も立てていないカップの紅茶に波紋は広がった。
分かってはいたけれど、座って寝たのが悪いのだけれど、それにしたって一番心臓に悪い目覚め方だ、と思う。
あたりはもうすっかり暗くなっていて、おれが起きたのに気付いた店主が眉尻を下げてほほ笑んだ。気付けば他に客はおらず、街灯も「ここにいる」と言わんばかりに煌々と夜道を照らしていた。喫茶店で寝呆けていたのが今更になって恥ずかしく、もう冷たく、そして嫌な渋みの強くなってしまった紅茶を一気に飲み干すと、同じだけ一気に目も覚めた。
早急に会計を済ませ外に出ると、店の中から見ていた時はずいぶんうるさく主張していた街灯がなんだか頼りなげに見えた。
嫌な予感を覚えながらも空を見上げると、なるほど街灯が見劣りするだけはある、夜道の事もおれの事も、本当に照らし出して輪郭を暴くのは、幾千幾億の星の瞬きだった。無造作にちりばめられた小さな明かりは、そのくせおれの行くべき宛てを、ここに在る所以を、ここに来た意味を、その全ての果てを示しているように見えた。
ないはずの線がぴんと伸びて、彼の家のほうへと連なっているように。
E X I S T A R
(もう一度、この標のどれかひとつでもが瞬いたなら。)
(言い逃れは出来ない、さっきまでの明晰夢を、もっと明白な現実にしてやるから、だからどうか、)
―――煌いて。
Fin.