existar
いくら明晰夢の中とはいえ、こういうとこは妙にリアルだな、と思った。もしかしたら、こんな彼らしい態度をおれが望んでいるのかもしれないけれど。
「だから、頭からきのこ生やした君はただでさえオカルトなのに不気味に拍車がかかって――」
「その前だよ、ばか、」
「そのまえ?あぁ。出かけるあてがないならおれのところのおいでって。そりゃあ、いろいろはあったけど、君を憎んだりしてはないし、来たからって追い返さないよ。嫌な顔はしてやるけどね。」
あっさりと言えたし、嫌味でも何でもなく、ちゃんと笑えた。
やっぱり、おれは喫茶店で眠ってしまったのだろう。午後五時くらいに彼を訪れて、けど門前払いを食らって、それで緊張の糸が切れて眠って、いまこんな夢を。だってそのほうが、セオリーに則っているじゃないか。反論も出来ず背中を丸めて、閉じた扉に引き下がるとか、兄を嫌いと泣いた女の子にそれはいけないと教える前に眠ってしまうとか、そっちのほうがよっぽど現実感がある。
おれが、こんなことを言えるものか。彼が、こんな言葉に無防備に泣いたりするものか。きっといまこっちが、たとえ初めて見る彼の泣き顔につられて目頭が熱を持ち始めたとしても、それさえ錯覚で、明白な夢なんだ。
「おーい。泣かれても困るんだけど。」
「うるさい、ばか、おまえなんか、」
「“大嫌い”かい?分かってるよ、そんなこと。せっかく心配して顔見に来てやったんだから、思ってたって黙っててくれてもいいだろう?まったく。」
夢なんだから。
彼が、握った拳で自らの目を擦る。
擦るとあとから腫れるからいけないと、おれが雷に泣いたころにはさんざん言っていたくせに。
「あぁもう、」と立ち上がる。案の定彼は後ずさったけれど、すぐ後ろのカーテンと壁とにぶつかる。夢だと分かってしまえば、おれはこんなにも堂々と振舞えるものか。今が現実であればと思うし、これは夢だからこそのものだとも思う。
「けど、しょうがないか。おれが泣かせたんだから、ね。」
まだ目を擦る手を、手首でひとまとめに掴む。それを、おれと彼の胸板の間に挟み込むように。もう片方の手で、彼の髪を撫でた。密着した体が。抱きしめている、と、これが言えるのか。あるいは単に距離が、限りなく零に近いだけか。