膝枕
膝枕
「終わったぁーっ」
政宗が催した宴の翌日。
政宗は自室にて政務に励んでいた。
朝から黙々と仕事をこなし、太陽が西へ傾き始めた頃、ようやく片付いたらしい。
政宗は大きく伸びをすると、畳の上に仰向けに寝転んだ。
「政宗様、愛でございます。」
そこへ、障子の向こうから政宗の正室・愛姫が声を掛けた。
「おー、愛。入っていいぞー」
「失礼致します。」
静かな音を立てて障子を開けた愛は、畳に寝転ぶ政宗を見て僅かに目を丸くした。
「政宗様、お仕事はもう片付いたのですか?」
「おう、さっきな。」
「あんなに沢山あったのに…」
驚きながらも愛は文机の上の筆や硯を片付け始める。
「へっ、俺がちょっと本気を出せばあれ位、大した事ねーぜ。」
「では、普段から本気で政務にお励み下さいな。」
「おま…小十郎みたいな事言うなよ…」
「あ。なぁなぁ愛ー?」
せっせと部屋を片付けている愛に政宗が呼びかける。
「何でしょうか?」
「こっちこっち。」
手招きをして愛を近くへ呼ぶと、今度は其処へ座らせる。
「?…」
政宗の意図が分からず首を傾げる愛。
「よっと。」
政宗は再び床に寝転ぶと、頭を正座した愛の膝の上に乗せた。
所謂、膝枕。
「なっ…!ま、政宗様!?」
突然の政宗からの接触に愛は真っ赤になって硬直した。
「何だよー。昨日膝枕してくれるっつったのに、邪魔されて出来なかっただろ?」
「でっ、で、でも…!」
「何でもしてくれるんだろ?」
「そ、それはそうですけど…」
「一日中部屋に篭ってて疲れたんだ。少しだけ、な?」
にこり。
まるで無邪気な子供のような笑顔で言われてしまえば愛も二の句が継げなくなってしまう。
「わ、分かりました…」
承諾を得ると、政宗は再び愛に笑顔を見せた。
かつて、あれ程口喧嘩を繰り広げていた二人だったが、
政宗の初陣のあったあの日以来、愛は政宗を必要以上に意識してしまうようになってしまった。
ほんの少し触れられただけで、飛び退さる程過剰に反応して、それは何時まで経っても慣れてくれない。
今だって、穴があったら入ってしまいたい位恥ずかしい。出来ることならそうしたい。
けれど自分の膝の上で、気持ち良さそうな表情を浮かべる政宗をあしらう事も出来ず。
愛は早鐘を打つ心臓を落ち着けようと必死だった。
「なぁ愛、」
「は、はいっ?」
少しでも気を逸らそうと、庭の方を見ていた愛は、名を呼ばれて政宗に視線を戻す。
「有難うな。」
政宗の隻眼は真っ直ぐに愛に向けられていて。
「政宗様…」
愛は再び鼓動が早くなるのを感じた。
ーあぁ、私は…
ーこの方が、政宗様が、好きなんだ…
「政宗様。」
「うん?」
「愛は、政宗様の味方です。何があっても、一生、私が政宗様のお側についております。」
ふ、と。政宗の頬が緩んだ。
「分かってるさ。愛、ありがとう。」
下から伸ばされた政宗の手が愛の頬を優しく撫でる。
その手に愛は自分の手をそっと重ねて、目を閉じた。
「はい。政宗様。」
「終わったぁーっ」
政宗が催した宴の翌日。
政宗は自室にて政務に励んでいた。
朝から黙々と仕事をこなし、太陽が西へ傾き始めた頃、ようやく片付いたらしい。
政宗は大きく伸びをすると、畳の上に仰向けに寝転んだ。
「政宗様、愛でございます。」
そこへ、障子の向こうから政宗の正室・愛姫が声を掛けた。
「おー、愛。入っていいぞー」
「失礼致します。」
静かな音を立てて障子を開けた愛は、畳に寝転ぶ政宗を見て僅かに目を丸くした。
「政宗様、お仕事はもう片付いたのですか?」
「おう、さっきな。」
「あんなに沢山あったのに…」
驚きながらも愛は文机の上の筆や硯を片付け始める。
「へっ、俺がちょっと本気を出せばあれ位、大した事ねーぜ。」
「では、普段から本気で政務にお励み下さいな。」
「おま…小十郎みたいな事言うなよ…」
「あ。なぁなぁ愛ー?」
せっせと部屋を片付けている愛に政宗が呼びかける。
「何でしょうか?」
「こっちこっち。」
手招きをして愛を近くへ呼ぶと、今度は其処へ座らせる。
「?…」
政宗の意図が分からず首を傾げる愛。
「よっと。」
政宗は再び床に寝転ぶと、頭を正座した愛の膝の上に乗せた。
所謂、膝枕。
「なっ…!ま、政宗様!?」
突然の政宗からの接触に愛は真っ赤になって硬直した。
「何だよー。昨日膝枕してくれるっつったのに、邪魔されて出来なかっただろ?」
「でっ、で、でも…!」
「何でもしてくれるんだろ?」
「そ、それはそうですけど…」
「一日中部屋に篭ってて疲れたんだ。少しだけ、な?」
にこり。
まるで無邪気な子供のような笑顔で言われてしまえば愛も二の句が継げなくなってしまう。
「わ、分かりました…」
承諾を得ると、政宗は再び愛に笑顔を見せた。
かつて、あれ程口喧嘩を繰り広げていた二人だったが、
政宗の初陣のあったあの日以来、愛は政宗を必要以上に意識してしまうようになってしまった。
ほんの少し触れられただけで、飛び退さる程過剰に反応して、それは何時まで経っても慣れてくれない。
今だって、穴があったら入ってしまいたい位恥ずかしい。出来ることならそうしたい。
けれど自分の膝の上で、気持ち良さそうな表情を浮かべる政宗をあしらう事も出来ず。
愛は早鐘を打つ心臓を落ち着けようと必死だった。
「なぁ愛、」
「は、はいっ?」
少しでも気を逸らそうと、庭の方を見ていた愛は、名を呼ばれて政宗に視線を戻す。
「有難うな。」
政宗の隻眼は真っ直ぐに愛に向けられていて。
「政宗様…」
愛は再び鼓動が早くなるのを感じた。
ーあぁ、私は…
ーこの方が、政宗様が、好きなんだ…
「政宗様。」
「うん?」
「愛は、政宗様の味方です。何があっても、一生、私が政宗様のお側についております。」
ふ、と。政宗の頬が緩んだ。
「分かってるさ。愛、ありがとう。」
下から伸ばされた政宗の手が愛の頬を優しく撫でる。
その手に愛は自分の手をそっと重ねて、目を閉じた。
「はい。政宗様。」